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サプライヤ 倒産対応

プラント機材契約は一般的に12ヶ月を超えるような長納期であり、発注後にサプライヤが倒産することは現実に発生します。量産品であれば他のサプライヤに転注する事でそれ程悩まずに対応できますが、オーダーメード機材の多いプラント機材契約では簡単ではありません。本記事では、調達実務の観点からどのような選択肢があるのか概観したいと思います。

1.サプライヤの倒産

冒頭にも書きましたが、プラント機材契約においては、契約後にサプライヤが倒産する事は実際にあります。過去に携わった経験則では、大型の海外プロジェクトでは1プロジェクトで1社は倒産します。特に発注前の商談で異常な低価格を提示してきたサプライヤは、収支管理能力が低かったり、資金繰りが厳しく頭金目当ての可能性があるので要注意です。

2.契約前の財務評価

契約後サプライヤの倒産が発生すると、どれだけ上手く対応したとしても費用・工期ともプロジェクトに損害が発生することは避けられません。そこで、契約前にサプライヤの財務を適切に評価し、倒産発生リスクを軽減する事が重要となります。

財務評価の方法としては①財務データを用いてスコアリングする評価シートを作成・運用する、②ダンレポート等の外部機関の評価レポートを利用するの2パターンが考えられます。

①は流動比率・現預金月商比率・会社規模と契約規模のバランス等の評価指標の選定、各評価指標のスコアリング水準の定義、各評価指標のウエイト付けをし、トータルでスコアを算定する形が考えられます。データは上場企業であればFinancial Times等のWEBサイトで無料で取得可能ですが、非上場の場合はサプライヤに個別に依頼して入手する必要があります。非上場のサプライヤの場合応じないケースもしばしばありますので、入手できない場合どう評価するのかは運用で決めなければなりません。

②は有料サービスで国内の代理店と契約しレポートを入手します。先に調査済みで既存のレポートがあればすぐに入手可能ですが、無い場合は新規調査が必要となり時間がかかります。また、調査に応じるかはサプライヤ次第なので、①と同様入手不可の場合を運用で定めておく必要があります。

いずれで運用するにせよ、一定点数以上ならば発生可、それ未満なら発注不可とすると、実務上機能しなくなるおそれがあります。未満の場合は見積状況、発注・工事スケジュール、契約規模などを総合的に見てマネジメントが承認するといった運用が考えられます。経理・財務部門との連携で調達がリードして評価シートと運用方法を策定する形がよいと思われます。ただし、その際の視点が重要で、一般的な指標で漫然と評価するのではなく、発注から引渡までの期間倒産する可能性がどの程度あるのか等評価軸を明確にするべきです。

3.発注後の倒産

2.でフィルターをかけてリスクを軽減することはできますが、倒産するときは倒産します。倒産した場合の対応は、その時点の状況に基づく総合的判断になり正解はありませんが、基本的には契約の進捗状況に応じて以下のような対応が考えられます。これらの実施にあたり、可能であれば現地でサプライヤを訪問したり、管財人と協議する等の対応ができる現地人材を確保すべきです。

①材料発注前の倒産
契約解除条項を根拠に契約を解除し、他社へ転注するのが基本方針になるでしょう。倒産懸念のあるサプライヤを交えた商談では、転注の可能性も見据え、事前に複数社に引き合いしてサプライヤ選定までに複数社の技術評価を終え評価結果を整理しておき、円滑に転注できる体制を整えておく事が望ましいです。

②材料発注後・製作開始間もない頃の倒産
この場合、サプライヤの倒産の態様と対応方針を確認する事が重要です。倒産には再建を目指す再建型と業務停止を見据えた精算型があります。前者は会社更生・民事再生(日本)、Chapter 11(アメリカ)、後者は破産・特別清算(日本)、Chapter 7(アメリカ)といった手続きが代表的です。

再建型の場合、裁判所への手続き状況の公式情報を自社またはサプライヤの弁護士経由で入手し確認、サプライヤ経営者との直接コンタクトによる対応方針・当面の資金繰り計画の確認、工場・事務所の現地状況の確認、現品引取り時に向けた運送業者の検索や弁護士との合法的引き取りに必要な要件の確認などを迅速に行う必要があります。これらの情報と工事工程を踏まえ、継続が解除転注かを判断することになります。継続の場合サプライヤの資金支援が必要となる事が多いですが、安易に資金提供すると別用途に用いられる可能性があります。担保を取ることも通常困難です。某EPCでは特殊なスキームで対処するノウハウがありますが、守秘事項のためここでの記載は控えます。転注の場合、仕入れた材料や機材の仕掛品を転注先で再利用するのは材料設計が異なったり、製品保証の責任の所掌が曖昧になるため、基本的に上手くいかない事が多いです。新たに設計・材料調達が必要になる事を想定しておいた方がよいでしょう。

③製作がほぼ完了している状況
サプライヤが稼働している場合、管財人と協議して最後まで完成させ当社から代金を回収する事が利益につながる事を説明し、完成済みの機材は合意の上サプライヤ外に持ち出し、製作中の機材は優先的にワークしてもらう為に支払条件を短くするようなインセンティブを検討するのが良いでしょう。機材だけではなく試験検査書やミルシート等の図書もしっかり取り付ける段取りを取る必要があり要留意です。

サプライヤの工場に駆けつけて勝手に機材を持ち出そうとする企業がありますが、窃盗罪に問われたり、管財人との関係悪化でその後の作業や図書取り付けが困難になる恐れがある為、控えるべきです。他方、当社機材が第三者に勝手に持ち出されないよう管財人を通じて現場保全を適切に行うよう働きかけるべきです。

以上サプライヤ倒産時の対応について見てきました。サプライヤの倒産はプロジェクトの危機であり、正解のない中で非常に難易度の高い対応を求められます。本記事に記載のように基本的な対応方針を部門やプロジェクト単位で事前に定めておき、冷静に対処できるような体制作りが肝要でしょう。

記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご留意ください。


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