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「堀内誠一 絵の世界」展に行ってきた

 ひろしま美術館で開催されている「堀内誠一 絵の世界」展に行ってきた。
 堀内誠一といえば「ぐるんぱのようちえん」や「たろうのおでかけ」の絵本のイラストを手掛けたことで有名だ。また絵本のイラストレーターだけでなく、雑誌「an・an」のアートディレクターや雑誌「BRUTUS」「POPYE」のタイトルロゴをデザインするなど幅広くデザイナーとして活躍した実績を持つ。
 私は幼い頃、「ぐるんぱのようちえん」が大好きだった。私の通っていた幼稚園は幼稚園にある絵本を園児が借りて帰ってよい日があったのだが、「ぐるんぱのようちえん」を何度もリピートして借りたことを覚えている。あまりに何回も借りるものだから、母から「アンタ、またその本借りたの?」と呆れられたほどだ。
 そんな大好きだった絵本を手掛けた堀内誠一さんの企画展だ。駅に貼られたポスターを見た瞬間、絶対に行こうと心に決めていた。

 会場のひろしま美術館はその建物の建築自体も芸術的だ。受付から中庭のある回廊を通って企画展の会場へ行く。中庭の中央には常設展示のある円形の建物がある。芝生のあちこちに企画展であるぐるんぱのオブジェがありワクワク感が高まってくる。

ひろしま美術館 中庭
ぐるんぱのオブジェ

 企画展は絵本のイラストをはじめ堀内誠一さんが手掛けた作品にあふれていた。
 堀内誠一さんのすごさは何といっても絵のタッチの幅広さだ。ぐるんぱのイラストのような柔らかい水彩から鉛筆で細かく書き込まれたデッサン調のイラストまで同一作家のものとは思えない。見たことのあるイラストでも「え?この作品も堀内さんの作品だったの?」と改めて知った作品も多かった。
 特に驚いたのが「人形の家」という児童文学の挿絵イラストだ。この作品は小学生の頃に何度も読んだ作品で、写実的なデッサン調のイラストがとても印象に残っている。
 演じる役によって全く別人のように感じる役者さんのことをカメレオン俳優というが、堀内誠一さんはそのイラストレーター版だ。
 展示の中に堀内誠一さんが使っていた画材や私物を展示したスペースがあったのだが、そこに「人形の家」の主人公トチーのモデルとなった小さな木製の人形を見つけてうれしくなった。

 「ぐるんぱのようちえん」の展示は時間をかけてじっくり見た。鮮やかな水彩で描かれた可愛らしいイラストは大人になった今でも好きだなと思う。
 堀内誠一さんは例えばジャングルの木々を描くときに緑色だけではなく、赤や黄色や青を使う。そうすることで絵本になったときにワクワクするような世界観が作られるのだと思う。
 展示を見ていた幼稚園児くらいの子がぐるんぱの絵を見つけたとたん「あ!ぐるんぱだ!」と目を輝かせていた。
 半世紀以上前に描かれた作品にもかかわらず、今もなお堀内誠一さんの描く世界は子どもに愛されているのだ。

 ちなみに「ぐるんぱのようちえん」はストーリーも魅力的だ。
 あらすじをざっと紹介する。

泣き虫の大きな象のぐるんぱは、ビスケット焼きや、お皿づくり、靴屋、ピアノ工場などで働きますが、大きなものばかり作って追い出されてしまいます。
悲しくなったぐるんぱでしたが、子どもがたくさんいるお母さんに出会い、大きなものを活用して素敵な幼稚園を始めるのでした。

出典:堀内誠一 絵の世界 図録

 「ぐるんぱのようちえん」では経験したことはひとつも無駄なことはない、誰にでもそれぞれ輝ける場所があるというメッセージが読み取れる。
 子どもだけでなく大人も勇気づけられるそのストーリーは「ぐるんぱのようちえん」が多くの人に愛される理由のひとつだと思う。
 「置かれた場所で咲きなさい」という言葉があるが、「ぐるんぱのようちえん」が教えてくれるのは「咲ける場所に行きなさい」という考え方だ。私自身は「咲ける場所に行きなさい」と考えるタイプなので、その考え方はもしかしたら幼い頃に「ぐるんぱのようちえん」から学んだのかもしれない。

 ひろしま美術館には館内にカフェが併設されている。
 このカフェで今回の企画展の特別メニューが提供されているということで、展示を見終わった後に行ってきた。

美術館内のカフェ「カフェ・ジャルダン」

 この「カフェ・ジャルダン」は黒猫がモチーフになっている。
 ひろしま美術館には「ドービニーの庭」というゴッホの作品が常設で展示されているのだが、この黒猫はその作品にちなんだものだ。
 実はひろしま美術館に展示されている「ドービニーの庭」にはミステリーがあり、もともと黒猫が描かれていたとされるが、のちに誰かがその黒猫を塗りつぶしたという逸話がある。その塗りつぶされた黒猫がカフェ・ジャルダンのモチーフになっているのだ。
 看板だけでなく、店内も黒猫のモチーフであふれている。

黒猫の伝票入れ

 なんと店内の席すべての伝票入れが黒猫モチーフなのだ。
 そうこうしていると注文した「ぐるんぱカフェセット」がやってきた。

ぐるんぱカフェセット

 可愛すぎる!!
 ぐるんぱが描かれたラテアートのカフェラテと「ぐるんぱのようちえん」の作中でぐるんぱが作ったビスケットをイメージしたクッキーだ。
 食べるのがもったいなかったが、おいしくいただいた。
 ちなみにカフェラテについていたマドラーが猫の肉球モチーフで、ここにもカフェ・ジャルダンの遊び心が垣間見れた。

肉球マドラー

企画展も常設展もそしてカフェも目一杯楽しんだ。
 最後にミュージアムショップで図録を購入した。図録は結構値が張るものが多いのだが、私は極力買うようにしている。美術館で見たあの感動を何度でも味わえるうえ、買っておけばよかったと後悔してもなかなか手に入りづらいからだ。
 9月には同じひろしま美術館でミュシャ展がある。
 今から楽しみだ。


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