見出し画像

Community - Associated Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(市中感染型MRSA)


最近、臨床上の疑問から調べたことを取り上げたいと思います。
皮膚科医としては時折出会いますが、すごく一般的に出会う『とびひ』とかとは少し違い、『とびひ』よりやや深めの皮膚感染症のことを今回は取り上げさせてもらいました。
以前感染症が多い病院に勤務していたこともあり、感染症に対して悩んだり調べたことも多いです。最近またCAーMRSAと思われる症例に出会い、調べ直したので、まとめておきたいと思います。



CA-MRSAとは?

Staphylococcus aureus:黄色ブドウ球菌は、1940年代に量産化に成功したペニシリンG(抗生剤)に対して良好な感受性を持つグラム陽性球菌(細菌の種類)です。
しかしペニシリンの普及と増加に従い、ペニシリン耐性株が出現してきたため、メチシリン(抗生剤)が開発されました。しかし、そのメチシリンにも耐性を示すようになったブドウ球菌がMethicillin -resistan Staphylococcus aureus(MRSA)であり、1970年頃より出現し始めました。

MRSAの病原性は通常の黄色ブドウ球菌と比較して特に強いわけではなかったため、通常の感染防御能力を持つ人にとっては一般的には無害でした。そのため、入院患者など感染を起こしやすい状態(易感染状態)の患者さんに対する感染として、院内感染の起因菌として問題視されることが多かったのです。しかし1990年代半ば以降、易感染状態でない集団においてのMRSA感染が増多してきました。このMRSA株は今までのMRSA株と異なるものです。

これがCommunity - associated MRSA(以下CA-MRSA)です。CA-MRSAは異なる患者グループに感染し、異なる臨床症状を呈し、抗菌薬の感受性のパターンも異なります。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20610826/

CA-MRSAの特徴

MRSAとしてのメチシリン耐性遺伝子座を保有しながら、毒素遺伝子、特にPanton-Valentine leukocidin(PVL)をコードする遺伝子を獲得しています。
PVLは白血球を破壊し、組織壊死を引き起こします。
癤・癰・皮下膿瘍などの深在性の皮膚感染症や肺炎を引き起こすことが多いです。Funakiらは、外来患者におけるMRSA感染症の13.4%がPVL陽性であったと報告しています。

Funaki T, et al:Heliyon 28:e01415,2019

一方深在性膿皮症(皮膚のやや深いところに起こる皮膚感染症)の中での黄色ブドウ球菌感染症の中で癤(せつ:いわゆるおできのようなもので、毛包周囲に細菌感染が起きて大きく腫れているような状態)40%、癰(よう:せつがたくさん集まったような状態)28%、皮下膿瘍(ひかのうよう:皮下とは表皮真皮の下の脂肪や筋肉の組織のことを指しますが、その部位に膿が溜まった状態)14%と言われています。さらにこの感染症は基礎疾患のない若い人に生じやすいと言われています。

Yamasaki O, et al:Clin Infect Dis 40:381,2005

また、皮膚科領域感染症のMRSA感染に対する抗生剤への感受性を調べる調査が行われて、過去1年以内に入院歴のある患者さんからと入院歴のない患者さんから検出されたMRSAの抗生剤に対する感受性試験(ある細菌に対してどの抗生剤にどれだけ効果があるかという検査)の結果を比べると、ほぼ同じであり、院内感染として問題となるMRSAほど多薬剤に対する耐性を持っておらず、入院歴あるなしに関わらず、CA-MRSAの可能性が高いことが示唆されました。

Watanabe S, Ohnishi T, Yuasa A, Kiyota H, Iwata S, Kaku M, et al: The first nationwide surveillance of antibacterial susceptibility patterns of pathogens isolated from skin and soft-tissue infections in dermatology departments in Japan. J infect Chemother 2017; 23: 503-11

ここはこれらの論文を踏まえての私の私見ですが、基礎疾患のない若い方に皮下組織レベルに膿瘍があり、周囲に壊死を伴うような病変を見た時にはCA-MRSAではないかと疑い、細菌培養(どの種類の細菌がその病態に関与しているか細菌を培地で育てて、菌の種類を同定する検査)をとります。ただし、一般診療所レベルではPVL(先ほど説明した組織破壊を起こす毒素)陽性か否かの検査までは提出できないことは多いです。そこで培養結果がMRSAであり、上記の特徴を備えていれば、PVL陽性のCA-MRSAを想定しながら治療を行います。

CA-MRSAの治療

MRSA感染症のガイドラインからは、膿瘍がある場合にはまず切開排膿などによるドレナージ(膿を体外から出させる処置のこと)が必要とされています。また中等症以下の症例ではST合剤やミノサイクリンを投与します。カルバペネム系、ファロム系、キノロン系抗生剤も感受性があり、投与することがあります。重症例、全身症状を伴う例にはバンコマイシンの静脈内投与を行います。

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_mrsa_2019revised-booklet.pdf

ただし、上記のガイドラインには、PVL陽性の有無、CA-MRSAとMRSAとで投与する抗生剤の選択は区別して推奨はしていません。
PVL 陽性 MRSA に対する治療として、英国のHealth Protection Agency の指針がありますが、それによると、PVL 陽性 MRSA の場合に薬剤感受性をもとにリファンピシンやクリンダマイシンを第一選択として選ぶと書かれています。リファンピシンを選択する際は単剤では薬剤耐性を生じやすいため、フシジン酸ナトリウムやクリンダマイシンを併用するよう推奨されています。クリンダマイシンにはタンパク合成阻害作用があるため、PVLの産生を阻害して組織移行性も良いと言われています。

Mani-Saada J:Guidance on the diagnosis and management of PVL-associated Staphylococcus aureus infections(PVL-SA)in England, 2nd Ed, Health Protection Agency, 2008, p12

北村らの報告では、内服終了後2週間で再燃し、内服再開して計3ヶ月内服したと書かれていました。さらに鼻腔内にMRSAの付着があったので、内服終了時に鼻腔内の付着の陰性化も確認したそうです。基本的にガイドライン上では、感染症の症状を呈していない付着のみの場合は抗生剤の投与は不必要と記載されていますが、このような再燃を繰り返す場合には抗生剤終了の見極めとして行ってみてもいいのかもしれません。(この終了時期の考察は私見です。)

皮膚臨床 62(13);1959~1964,2020

実地にて

実際の私がこれらを調べて行った治療ですが、症状強く、その部位の後遺症を残すことを懸念したため、ドレナージ(膿を出す処置)を行い、バンコマイシンを数日点滴しました。リファンピシンは皮膚科疾患で使用することは少なく、ドキシサイクリン(ミノサイクリンと系統が同じ抗生剤ですが、耳鳴りなどの副作用が少ない)が使用しやすく、薬剤の感受性も良好だったので、ドキシサイクリンとクリンダマイシンを併用しました。副作用などが出現しなければ、3ヶ月程度内服を目標としています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?