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話が通じない恋人と別れて、一人旅をした話。①

彼とは、インターネット(匿名性を維持するために、敢えてこういう書き方をすることにする)を通じて知り合った。出会ったきっかけは、強いて言うならば、「共通の趣味があったから」(と言えば聞こえがいいが、今にして思えば、その「趣味」にかける情熱も実力も、だいぶ差があったように思う)。

思い返せば、「あれ?」と思うことや、もやもやすることは、何度もあった。

いつでも、暇つぶしのように自分の都合で連絡してきて、自分の都合で切っていたこと。
都合が悪くなったら黙り込んで、話し合いにすらならなかったこと。
こちらが一生懸命伝えようと練りに練った言葉の数々を、いつもとんちんかんな何かで返ってきたこと。(同じ言語を話しているはずなのに、言葉が一切通じない絶望感といったらなかった。)

毎日コンビニでご飯を買う、マイバッグを持たずにプラスチック袋をお金を払う、などの金銭感覚も、正直、理解できなかった。
そういったものや、自分の好きなことには、惜しみなくお金を使うクセに、恋人であった私(しかも私の方が収入が圧倒的に少なかった)に対しては、いつも割り勘で、ほとんどお金を使わなかったこと。

20代も後半、アラサーの足音が近づいてくる焦りや、お金、将来に対する漠然とした不安から、彼のそういう嫌なところを必死に見て見ぬふりをしてきたが、もう流石に限界だった。

「また〇〇(地名)に一緒に行きたいって言ったのは、嘘だったの?」
別れ話を切り出したときに、彼にそう問われた。
「嘘じゃないけど、私を大事にしない人と行くくらいだったら、一人で行く。」
そう正直に答えたら、「あっそ。じゃあ、一人で行けば?」と返してきた。

そんな男だった。

別れ話が終わってすぐ、私は一つの決断を行動に移した。
「憧れの角野隼斗さんのコンサートに行くこと。」

仕事の予定を確認し、チケットを購入した。
場所は、いつか行きたいと思っていた地であり、先の能登半島地震で被災した、石川県。
少しでも、復興に役立てればという気持ちもあった。

今まで、彼と旅行に行ったときには、これほど晴れやかな気持ちでお金を使ったことはなかった。
はじめて一人で新幹線の切符を買ったときも、楽天トラベルで口コミを参考にしながら宿を予約したときも、電車の時間を確認したときも、荷造りをしたときも、遠足前日の小学生かのような、わくわくとも、どきどきとも言えるような、不思議な高揚感と温かさで包まれていた。

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