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【覚え書き】梨×朝宮運河『自由慄』刊行記念トークイベント

この記事は、2024年2月17日に三省堂書店神保町本店にて行われた『自由慄』刊行記念トークイベントの覚え書きです。

※現地参加組ではなく、アーカイブ配信視聴組です。

個人的に印象に残った部分を中心に書き出しています。
また、梨さんによる『自由慄』のネタバレ話も拾ってますので、まずは書籍を読んできてください😊
たぶん、何言ってるのかさっぱりになると思うので……




◎会場の様子と出演者

【主な出演者】

・梨さん(『自由慄』の作者)
・朝宮運河さん(怪奇幻想ライター)

・朝宮さんは、怪談や幻想小説などホラー作品の書評や紹介文を書くお仕事をされてる方。

『好書好日』のインタビュー記事で梨さんと対談したのがファーストコンタクトだそうです。
この記事、前に読みました〜☺️

【会場の様子】
・閉店後の店内を使ってトークイベントということで。
いつものごとく衝立の中に梨さんがいて、その横に朝宮さんが座って喋るという形でした。

バックに店内の本棚が映ってて、面白く感じたな〜
なんか本屋という空間が良いよね。

・朝宮さんが入場とともに持ってきた黒いカバン。
そんなに大きくないように見えたのに、次から次へと沢山の本が取り出されていてびっくりした😄
(トークイベント中に話題に出た関連書籍を取り出しては、観客に見せてくれていました。)



◎トークイベントの中身

◈『自由慄』が出来た経緯

・経緯としては、太田出版の担当さんから、「梨さんの趣味の詩歌を使ったホラーを出せないか……」というような話があって、出来上がったそうです。

・『自由慄』は小説ではなく歌集のような形なので、朝宮さんも意外に感じたみたい。
短歌 × ホラー。

・そして、こちらも公開されたばかりである梨さんの同人誌。
第一歌集『ねえ初恋に選んであげる』についての話題も出ました。

梨さんのホラーエッセンスはたまに出てくるものの、基本的には学生同士のピュアな短歌。
名義も「梨」ではなく「梨花」となってます。

私はダウンロード版で読みました!
もう取り戻せない時代の淡い何かを摂取することができます……😌
ダウンロード版は100円というリーズナブルさ!すごい。
BOOTHでお手軽に買えますよ!
(宣伝)

・書籍版は梨さんがこだわり抜いたという凝った装丁で、すぐに完売!
このトークイベント時は重版手続き中でしたが、今は増刷されたようです。
チャンスですよ!

キラキラしてる……!!
こんな加工できるんですねぇ~
印刷するほど赤字になるそうですよ……😧





◈『自由慄』の参考にした本

・執筆にあたって参考にした書籍は
木下龍也、最果タヒ、我妻俊樹(敬称略)などの作品。

ちなみに我妻さんは、実話怪談も書くし短歌もやるという作家さんなので、梨さんのモデルケースらしいです。

梨さんは昔から短歌に親しんできたので、それが『自由慄』に出力されているとのこと。

・ホラー界で度々話題にのぼる『忌録: document X(著 : 阿澄思惟)』に収録されている「みさき」についての話題も出ました。

梨さんが昔から見ていた「文学極道」(現在はサービス終了している)というネット上でコンペティションをする投稿サイトで、現代詩として出てきたのが最初なんだとか。


◈ネットデビューの話

・あと、小さい頃にネット上に投稿をしていたのは梨さん的に黒歴史らしいです。

ネットデビューしてすぐの、7〜9歳頃のポエムがネット上に残ってるかもしれない……!と苦々しく語る梨さん(笑)

・9歳頃に『ホラーテラー』(今はもう閉鎖されている)というサイトによくいたそうで……

洒落怖など、スレッド内で読み切れるような長さの文章作品に親しんできたので、梨さんも短い話のほうが書きやすいという話をしていました。

・ネット上のホラーと詩歌に同時期に触れていたという過去があり、今作『自由慄』はいわば「原点回帰」とも言える作品のようです。


◈『自由慄』執筆裏話

・299個の短文からなる『自由慄』ですが、当初は1000個もの短文を作っていたそうです。
「一週間に100個くらい考えてた」って言ってたけど、すごい量だな……

・そして編集さんに、短文の意図を伝えるための設定資料集みたいなものをワード20ページ分(!)作成したとか。
うわ〜、読んでみたい〜📑

・この1000個を全部載せるとなると500ページくらいの本になっちゃうので。
削ぎ落として削ぎ落として……
「想定していた世界観の25%くらいをまろび出させたもの」
で構成して出来上がったとのこと。

どうりで、話が繋がりそうで繋がらないわけだ……
75%も欠落してるのか〜😅

・短歌をそのまま小説にできないし、小説もそのまま短歌にはできない。
短歌には短歌の、小説には小説の良さや表現方法がある……というような話もしてました。


◈作り方への考え方

・梨さんが書く作品への姿勢などについての話題。

『意味怖』が流行った時に、「意味がわかると怖い」というのが、“読者に責任を持たせてる“ ように感じたらしい。

そこで、「意味がわからなくても怖い」作品のほうが良いんじゃないかな……と思って執筆に当たっているそうです。

・一方で、「考察しても楽しい」導線作りもしているとのことで。
私はどちらかというと考察するの好きなので嬉しいです☺️

つまり「意味がわかっても、わからなくても怖くて楽しい」作品だということ。どういう楽しみ方をしてもいい!

・頭を空っぽにしてても、誰が読んでも楽しめる、ような形の文章はオモコロで培われたみたい。
例としていくつか挙げてましたけど……

・あみだくじ『Araneid』
・クロスワード『CROSSWARD』
・しりとり『Silly / Torrid
・卒アル『FLEE SPACE』
・類語ゲーム『連想(FLASHBACK)』

特に最近のオモコロ作品は、表現とか演出とか、別の部分で何か楽しめるように意図されてるのが色濃く出ていますね。



◈言葉へのこだわり

・朝宮さんが、梨さんの「言葉に対する強いこだわり」について言及されていました。

・梨さんは小説を書く時に、最低でも10回くらい音読して、音の気持ちよさとか、読者の読み方とかを想像したりして、手直ししながら作り上げているらしいです。
詩歌的に小説を書いてるのね。

「泉鏡花」の作品のように、音で読むと出る良さのようなものを目指してる様子。

梨さんの文章の臨場感とかエミュレートの上手さとかは、言葉の端々まで考えられてるからこそなのかなぁ、と思ったり。

・あと、長編は書けないので、連作短編でやっと一冊の本にしている、という話をしていましたが……

短編オムニバスとかのほうが、空き時間にさっと読めるので、この形式が好きな人も沢山いると思うなぁ。
 

・『自由慄』では、あえてひらがなを多用したという話。

「ひらがな」って、柔らかさとか、あどけなさを感じたりするイメージ。
あとは同音異義語を連想させたりして、面白い働きすることもあるよね。

・「幽霊」という単語は、ありふれたものだけれど、梨さんは幻想的で蠱惑的なものを感じているため、好きな単語のひとつらしい。
梨さんの癖(ヘキ)が現れてるそうです。

・ありふれたものでも、置き方で違和感を与えられること(=異化効果)を意識してホラー演出をしている。

「大喜利みたいな感じで書いてる」面もあるとか😅


・あと、本の装丁や印刷へのこだわりについての話も。

『自由慄』は特色(その本のためだけに特注するインクのこと。高価)を多用しているとのこと。

先述の同人誌の装丁でも思ったけど、“書籍丸ごとでひとつの世界“ を作り上げていて、作品としての完成度がこだわり抜かれていてすごいなぁ。
『コワい話は≠くだけで』も、そんな感じ。


🍐🍐🍐

※以下から、『自由慄』の内容について触れます。
ネタバレを回避したい方は引き返してください!

🍐🍐🍐




◉梨さんから『自由慄』のネタバレ

梨「今から私がTwitterに“ふせったー“を投稿します」

・梨さんが編集さんに送った設定資料集から、核になるネタバレ部分を抜き出したものを公開してくれるということで……

メモを取ろうとザワつく観覧席の様子が伝わってきました。

・“ふせったー“ は合言葉を入れないと読めないようになってまして。
梨さんの「カワイイ物が好き」という趣味からきた合言葉でした。
自力でたどり着くのは難しい単語かな〜🖊️

・朝宮さんも “ふせったー“ については唐突に言われた様子で、戸惑いつつスマホをポチポチしながら説明を聞くことに……(笑)

◈“ふせったー“の中身

・“ふせったー“の中身は、CHAPTER1から9の時系列で何が起こっていたか、のだいたいの話でした。

でも、書籍の奥付に「フィクションです」って書かれてるから、これも本当かどうかはわからないよ……というスタンス。
なので、読者に想像の余地はたくさん残されてますよ!☺️



◈梨さんからのネタバレ解説

・まずは登場人物について。
これは予想してた通り3人の女子でした。(便宜上ABCと名付け)

共に死を選ぼうとした2人(A、B)と 部外者(C)。

死ぬことに成功したAと、
死ぬことを諦めたB。
Bに嫉妬するC。

・「死ぬことに成功した人(A)」は
“死人に口なし“なので、残された2人(BとC)が物語を動かしていたんですね。
Aが死んだあとがスタートラインのお話。

物語の重要人物であるAを、あえて抜いて話を構成していったからこそ、あの不思議な余韻のある作品になったのかな〜

・あと、梨さんは「幽霊を見ることが出来なかったことに絶望する人」を描きたかったそうです。
登場人物としてはCに当たりますね。

普通は「幽霊を怖がって逃げる」ものなのに、逆に「幽霊を懇願する人」を出したのも異化効果なのかな?

◈赤文字と黒文字について

・これ、本当どう読み解けばいいのか謎だったのよね……
作者本人からの解説を聞いたものの、私の頭では、あまり理解しきれず……😭

たぶんこういう意味?という個人的解釈をメモしておきます。
(すっきりする読み解き方わかる方はコメントで教えてください)

赤文字(=色ペン。手紙を書き慣れてる勢)はAとBにまつわるエピソード。

黒文字(=シャーペン。手紙を書き慣れてない勢)はCが、AとBの2人を想像して書いたもの。
紛い物の賑やかし。

基本的には上記のルールっぽいんですけど、どうやら「語り手によって色が分けられてる」とは一概に言えないみたいなんです。
(最初は人物ごとに色を変える構想もあったが、カラフルになりすぎるから却下したとのこと)

・というのもCHAPTER9の
「赤シート越しなら出血していない」
が読者へのメタ的なヒントのようなものになってるそうで。

「赤シート越しなら、赤文字も黒文字も区別がつかず読むことも出来る」

ということみたい?
結局、誰が書いたのかは曖昧になる短文もあるってことなのかな?
(ひとつの短文だけど、受け取り方によってはAともBとも取れたり、BともCとも取れたりするものがあるようでした。)

・一方で、赤文字は「出血するような出来事のイメージ(自傷、自殺、殺人など?)」を持つ短文のようで、赤文字だけを抜き出して読むとメインストーリーの核にせまるように出来ている……っぽいです。

なんかあやふやな語り口ですけど、梨さんも解釈の余地を残すように断言は避けて話していたので😅
「こういう捉え方もある」みたいな感じに。

物語の本当のところは、登場人物たちの心の中にだけある、ということらしいです。

・赤文字は重要として、そこに黒文字をどう足していくか、で物語が違って見えるのかな。


◎紹介していた短文ホラー本

一行怪談』『10文字ホラー』『瞬殺怪談』『てのひら怪談』など。

・短文における怖さ。
長編小説とは違う、切れ味のようなものについて。

短文だからこその良さ。
ホラーとの相性の良さ。

……みたいな話で、朝宮さんと盛り上がって語り合ってました。

・朝宮さんが紹介した『怖い俳句』という本も面白そうでした。
文を削ぎ落としていった中で残った怖さ、か〜


◎質疑応答集

ざっくりと書いていきます。

✣お二人が好きなホラーのジャンルは何か?
→ふたりとも幻想小説寄りのホラーが好き。

梨さんは『夜市』みたいな作品。
朝宮さんは、ちょっと不条理さが含まれてるものが好み。
梨さんの『』でいうと「ROOFy」みたいな話が良いそうです。
あと、我妻俊樹さんの『歌舞伎』という話が良いと盛り上がってました。

✣ホワイトデーにオススメのスイーツは?

→梨さんの独壇場の話題ですね。
「焼き菓子が良い」と言って、三軒茶屋の『ジュウニブンベーカリー』の焼き菓子アソートセットのメレンゲ系のお菓子を勧めていました。
美味しいお菓子食べたいなぁ〜

四季凪さんと、超学生さんに布教したお店のようです。

「僕は、あんこばっかり食べてる」っていう朝宮さん、良き……😌
甘いもの好きな男性見てるとほっこりする。


✣女性寄りの文化に詳しい由来は?

→女性説も囁かれているという梨さん。
“衝立から出た姿を見せてなければまだ女性の可能性が残ってる“……って状況「シュレーディンガーの猫」みたいだな(笑)

個人サイトが残ってた最後の時代である2010年頃に、小説投稿サイトの「リゼ」で創作活動していた梨さん。

「リゼ」は夢小説やカップリング小説、日記などがたくさんあるサイトで、小学生の梨さんはここで女性同人文化を色々受動喫煙した結果、現在に至るそうです。

・梨さんの推しキャラクターである「こぎみゅん」の話題がチラっと出ましたね。
こぎみゅんの「歌ってみた」動画好きなんよね……

サンリオキャラクター大賞
今年も、ちょうど今やってますね!
投票期間は5/26までだそうです。
私は小さい頃から「たあ坊」と「けろっぴ」推し。


✣ホラー作品のインスピレーションはどこから得ているのか?

→梨さんは職業病なのか、何でもかんでもホラーと結びつけて考えてしまうそうです。

今まさに、トークイベント会場の後ろに陳列されている手帳を見て「これをどうにかホラーにできないか……」とか考えている、と語ってました。
手帳に色々書き込んで「誰かの手帳」として頒布できないか?みたいな。

ちょっと前に話題になってた『人の財布』みたいで、手帳でも面白そうですね〜

✣スランプはあるのか?
また、そこからの脱却方法はあるのか?

→梨さんは「本人が楽しんで作ってるので、スランプがない」とのことです。
すごいな……

でもメンタルブレイクからの回復方法として「いっぱい食べて寝ればだいたい回復する」と言ってました。
睡眠と食事、大事よね……

✣幽霊や呪いを信じているか?

→梨さんは「あったらいいね」というスタンス。
というのも、フィールドワークで培われた「相手の言い分を否定しない」という考えから、「相手の世界には存在している」として受け取ってるみたいですね。



◎感想諸々

・『X』での梨さんの名前が「梨.psd」の理由を今回初めて知りました。
「梨」だけだと検索しても引っかからないから拡張子をつけたらしい(笑)
拡張子だったのか〜

・あとは梨さんのネタバレ説明を聞いて、自分の中での印象と違ってたのはBの罪悪感の度合いと、Cの殺意かな……

Bは「一緒に心中しよう」と言っておきながら途中で梯子をはずしたような形でAに死なれてしまったのね。
なるほど……
Cからしたら、「BがAを唆して死なせてしまった」と感じて憎んでるわけか……

う〜ん、想像よりずっと重かった😇

・『自由慄』は梨さんのこれまでの作品中でも、特に想定解をきっちり作ったものだと言ってました。
装丁もこだわり抜いてたし、思い入れ強い作品なんだろうな〜😌

本一冊で世界が美しく完結してるの良いよね……✨


・朝宮運河さんの進行がスムーズで聞きやすかったし、ファンが気になってる話題をバンバン振ってくれるので、とても充実した楽しいトークイベントでした☺️

おふたりが勧めてくれた本も、ちょこちょこ読んでみたいな〜


❀朝宮さんのインタビューやコラムの記事へのリンク貼っときます!

あと、梨さんの新しい試みも4月から色々出てきて今後が楽しみすぎる……!
・「禍話」の企画↓

・株式会社『闇』との「つねにすでに」↓

・あと『その怪文書を読みましたか』の展示会が横浜で開催されますよ〜🥳

今後も目が離せませんね!
嬉しい!

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