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「未開の議場 2023」終演後こばなし〜タリッパ開発篇〜

萩島商店街青年部、ハマカワフミエです。
「未開の議場 2023」、終演した今だからこそお話しできる、
「こばなし」のお時間です!
こういう、終わった時だから話せるみたいなエピソード、個人的に読むのが大好きで。
今回はnoteを使って、いくつかご披露していこうと思っています。
よろしければぜひ、お付き合いくださいませ!



今回ご紹介するのは作中登場した料理「タリッパ」についてのエピソードです。
料理監修として、ハマカワ、この料理の開発を一からやらせていただきました。
元々料理大好き、和洋中韓エスニックなんでも美味しくいただけるハマカワ、
この謎の料理の開発にノリノリのウッキウキでした。

初めてこの料理をつくることになったのは2020年4月のオンライン版の時。
画面には映したい、との要望を受けて、緊急事態宣言下の暇すぎる時間をこのタリッパの開発にあてました。初演でも作っていたらしいので、訊けば一発だったのかもしれませんが、なんかね、私は私のタリッパを生み出したくなっちゃったんです。暇だから、出来ちゃいますしね。というわけで、タリッパ開発のスタートです。

作中で示されているヒントは
・「牛とレモンの煮込み」という苗山さんのセリフ
・「異国の香りがする」という神田さんのセリフ
・「こんないい肉じゃなかった、もっと筋張ったやつ」という森くんのセリフ
・「ローズマリーがめっちゃ入ってる」という葉浦さんのセリフ
・トメニアは「豆が貴重なタンパク源」という苗山さんのセリフ
このあたりでした。(上演台本では削除されてしまったセリフもあります。)

まず、牛とレモンを煮込む、という点、加えて現地では「筋張ったやつ」を煮込んでいた、タンパク源として豆が「貴重」というセリフから、トメニアではおそらく食肉加工や流通におけるチルド技術などが日本より幾分甘いのだろうな、という想像がつきました。飼料の問題もあるかもしれません。外国産の鶏肉などでちょっと臭みが強いやつとか、ありますよね。硬さや臭みのない、周到な食肉加工がちょっと難しいのかな、という印象を持ちました。
となると、おそらく香草や柑橘で臭みを消しつつ、長時間煮込む、といった調理法でそれらの問題をクリアしているのだろう、ということで脚本との照合はできました。豆をそこに加える、という点では、給食などでもお馴染みのポークビーンズなどがありますね。香草と柑橘の加わった、ポークビーンズ。使うのは牛肉ですが、ここまででおおよそのイメージはつきました。

次は味付けです。
ここでヒントになったのが神田さんのセリフ「異国の匂い」でした。
自宅のスパイスたちを並べてひとつずつ匂いをかいでいきます。
ローズマリー、レモン、牛肉とケンカせず、できれば渾然一体となって「異国の香り」を醸してくれるもの。異国の香りってそもそも何?とか考えつつ、ひたすらクンクンします。
その最中いきなり思い出したのが「トメニアも結構長い海岸線あって」という池畑さんのセリフでした。ここから想像したのが、トメニアは海と山、どちらもある地形の国なのでは?ということでした。海辺の街で魚介を使った家庭料理や漁師メシが一般的になることはよくありますよね。ペスカトーレとか、日本で言うなら深川めしとか。
そんな中で「豆」「牛」「レモン」と並んでくるのなら、タリッパは比較的高地で生まれたメニューなのでは・・・?という仮説が浮かんだのです。
海も山もある、となると確かに日本に近くはある。だけど異国。異国の香りでまとめるにはどうしよう?タリッパ。うーん。

・・・「タリッパ」?
それって「トリッパ」にお名前がすごくすごく似ていますね???????

という、ちょう基本的なことをこの段階で急に気付いたハマカワ。
トリッパ、とは、ハチノスをトマトで煮込んだイタリア料理の一種です。アンティパストとしてレストランやイタリアンバルなどではよく供されています。
世界中にある、トマトとお肉の煮込み。本当にどこの国にもあると言っても過言ではないこの組み合わせ、「タリッパ」でも使わせてもらおう!決まりました。ベースは、トマトです。

あとは、スパイスの選定。
ベースがトマトと決まったので、一気に絞り込みやすくなりました。
でも、誰も知らない異国の料理ですから、なんというか、お決まりのパターン、黄金コンビ、みたいなものからはちょっと外したところに肝がありそうな気がします。誰でもピンとくる工程に、ちょっとびっくりするようなスパイスを放り込む。そういう食べ物な気がしてきたのです。

そうして出来上がったのがオンライン版の「タリッパ」でした。


オンライン版・タリッパ。



しかし、今回は劇場版。お客様に作っている手元を見られてしまいます。
私が観客席にいたら、絶対目を皿のようにして、見ます。何入れてんのか、どういう順番で調理してるのか、どのくらいの量作ってるのか、もう穴が開くほど見つめる自信がある。
加えて今回は、出来上がったものを「メンバーが美味しくいただきました」で処理する予定です。みんなが食べてちゃんと「美味しい」って言ってくれるものにならなければ、生ごみになっちゃいます。
しかも、予算も限られています。ゲネ含め、計10回分の調理を(ピー)円で納めなければいけません。

ぶっちゃけ、この予算問題が一番私の頭を悩ませました。
お金に糸目をつけなければ、美味しいものになるのは当たり前なのです。だけど今回はそうじゃない。12人で食べるものという想定で苗山さんは調理しているはずです。ケチった量じゃ、劇場の距離感的にもすぐバレます。あと苗山さんは多分そういうところでケチらない、なんならあまりが出るくらい作るはず・・・という、本役としての想いもありました。何か参考になる異国の料理はないか、と思って、ペルー料理店や、スパイス料理の専門店などに実際に食べに行ったりもしました。


ペルー料理「タクタク」。豆とご飯を煮て、オムレツ風にさっと焼き上げたものです。


中野のスパイス専門店にて。
左下、ズッキーニとフェタ(ヤギのチーズ)をスパイスで和えたやつ、美味でした!


取った手段は、「スープ風タリッパ」にする、というものでした。
材料は変えない。味付けも基本的には同じで行く。だけど、大量調理に思いきり舵を切って、煮込み料理としてはとろみのあるシチュー路線から、シャバシャバしたスープに近づける、という手段です。いわば、ジェネリックタリッパ。
オンライン版で作っていた時より、大幅に水分を増やしました。加えて、どうしても予算を圧迫してしまう牛肉は、塊肉からバラ薄切りへとグレードダウン。薄まってしまう旨味はコンソメで、トマトの風味はケチャップで補給、その代わりスパイスはケチらない。

この苦肉の策が、意外と上手くいったんです!2時間煮詰めると流石に味も濃く、豆からも出汁が出て旨味の詰まった一品にできたんじゃないかな、と思っています。確かメンバーの小林春世がほぼ全ステージ?毎日食べてくれていましたが「全然飽きない、毎日食べる」と宣言してました。嬉しかったなぁ。

本番期間中は、業務スーパーでどっしり買ってきた材料、具体的には大量の玉ねぎですね、材料を切り、ジップロックに入れて劇場まで持ってきて、開場直前まで冷蔵庫で保管していました。毎朝刻む玉ねぎ。トマト缶や豆は、王子近辺のスーパーを何件も周り、特売日や底値を狙ってまとめ買いしました。苗山さんの朝もきっとこうよ、と思いつつ、劇場入りの前にこんな準備をしたことはなかったので、新鮮そのものでした。

ちなみに、実店舗コラボとしてタリッパを提供してくださった「集っこ」さんで出ていたタリッパはオンライン版で作っていたシチュー風の方に近いものになっています。お召し上がりくださった皆様、あれはジェネリックじゃないですよ!ゴロゴロの牛すじで作られた集っこタリッパ、私も美味しくいただきました。ありがとうございました!



こんな感じで作っていました、タリッパの裏話でした。
個人的にも、関わったお芝居でここまで「料理」に振り切った仕事はしたことがなかったので、本当に楽しかったです。
関係各所の皆様、ハマカワフミエ、比較的手際よく劇中で料理できますので、そういった役柄などありましたらぜひご用命ください。レシピ開発からお手伝いいたしますよ!笑。

ここまで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
また次回の更新でお会いしましょう!

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