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まちやど探訪01:SMALL TOWN HOSTEL Hakodate

北海道函館市西部地区。函館発祥の地とされ、伝統的建造物群保存地区にも指定される美しい街並みと坂道を残す街だ。ところが、近年は空き家率が30%を超え、老朽化したまま放置される建物が函館市内でも著しく増えているという。そんな中、地元の若い宅建士・建築家・パン職人などが集まって結成されているのが「箱バル不動産」だ。代表の蒲生寛之さんにその名前の由来を聞くと、かつて「箱館」とよばれていた地名と不動産を表す箱、また「バル街」という2004年から函館で行なわれている取り組みに敬意を表したという。

箱バル不動産は2015年頃から「函館移住計画」などの企画を通して、空き家の内覧会を開きながら、自分たちの手で空き家を改修し作り上げていける入居者を募っていった。驚くべきことは実際集まった入居者は関東圏からのIターンの方が多いということだ。箱バル不動産のメッセージが、それまで接点がなかったが函館の旧市街に魅力を感じていた人々に確実に届いている。

蒲生さんたちの街へのアプローチの仕方も面白い。基本的には「ブラブラ」する。そして気になる空き家らしい建物を眺めては、勝手に想像を膨らませているらしい。そうこうするうちに持ち主らしき人などに声をかけ、世間話をしながら建物を面白がっていると、次第に借りたりもらうことが(笑)できるという。

このように空き物件はリストアップできていくが、使う人がいなければ空き家のまま。どんなところで使いたい人とマッチングしていくかというと、取締役のひとり苧坂さんの経営するパン屋さんtombolo。ふとパンを買いに来た人と世間話をしているうちに、「そういえば空き家ありますよ」といった感じで紹介していくことがよくあるらしい。パン自体も非常に美味しいし、店内もお父様の陶芸作品とともに落ち着いた雰囲気。苧坂さん自身移住者であることからも、まさに函館の新しい仕事と暮らしを体現している人だからこそ、相性のいい人達が集まってくるのだろう。

こうして町中に箱バル不動産が再生していった場所が徐々に増え、彼らの想いに賛同する個性豊かな入居者が全国から集まってきている。彼らと話をしていると、ひとつひとつの店舗のオーナーの自立性がしっかりと確立されつつも、ゆるやかな連帯が生まれているのを感じることができる。

SMALL TOWN HOSTELの入る大三坂ビルヂングもその一つで、元生命保険会社であった重厚な建物だ。ここにレストランやキャンドルショップ、シェアオフィスなどが共に入居している。かつての函館の風情を残す坂道である大三坂にすっと立ったような建ち方が誇らしい。本当に西部地区らしい建物だ。

SMALL TOWN HOSTELはこの建物の奥に位置し、3つの個室と1つのドミトリールームを備えている。いまのところ、いわゆる宿泊室を多棟に分けて連携させる、といった形ではないのだが、それでもこの宿(街)は明らかに「まちやど」と言える。それは彼らのコンセプトでもある「暮らしを見つける宿」という言葉に表れている。

ここに滞在すると、今まさにこの街に暮らしを見つけようとしている彼らと同じ目線で街を見たい、と思わせてくれる。街が変わろうとしているその真っ只中に入ることができる。まちやどは「1日からの街の住人のための家」という側面があるが、まさにそのような感覚を感じさせてくれる宿である。


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