見出し画像

ライブハウスの妖精たち

12月16日(土)
名古屋 吹上 鑪ら場

田中外
たけうちなおや
ハルラモネル
佐古勇気

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

12/16(土)

07:07
自宅の最寄り駅

電車を待つ

今日も今日とて「みどりの日」である。

長袖のツナギを着て、久居の先へ向かう。
先週「忙しくなりそう」と言われていた。

念のため着替えを準備している。
夏ほどベタベタにならんだろう、と高を括る。



 

16:25
久居あたりの某駅

夕暮れのホーム

朝とは違った装いの私が、電車を待つ。
ここまでの1日を振り返る。

午前中に、全身濡れてしまった。
水仕事をしたおかげである。内容は鉢洗い。

これは別日。洗い待ちの中古鉢
鉢は水とクロス(布)で洗って整頓

合羽を着てはいたものの、実際は蒸れる。
水撥ねで濡れはしないが、蒸れてしまう
下に着ていたツナギは、ずぶ濡れになる。
晴天下であったのも関係しているのだろう
合羽の作業は、冬でもお構いなしである。

しかし、この作業
これ自体することは全く不快ではない。
苦でもない。楽しみつつしている。

なぜか。

それはこの現場で、少なくとも
私が求められているから。
腕力がいる仕事。体を動かす仕事。
女性が殆どのここでは重宝がられている。
頼りにされている実感がある。

純粋な充実感がここにはあるのだ。
ありがたいことだ。

ともあれ、着替えを持ってきて正解だった。
昼に着替えて、午後は軽作業を中心にこなす。

シャワーを浴びたいところだけれど
今日のライブは18:30から開始。
だから、銭湯には寄れないなぁ。
うん…まぁ、致し方ない。


電車が来る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

吹上駅

名駅で乗り換え、桜通線から吹上まで来た。
いつも6番出口を目指すのだが、
なぜだか2番出口へ出る。
なんでなん?
次来る時は、乗車位置変えてみるか。
向かう方角が違うんだろうなぁ。
帰りはスッと帰れるんだけど。

時刻は18:15を回っている。
ああいかん、急がねば。

鑪ら場

開場する前にたむろしないようご注意下さい
通り角にある、普通のビル
楽しみですねぇ

階段を降りると
たけうちさん、佐古さんがロフト下の客席に
並んで座っている。軽く挨拶をする。
ロフト階段横に、のうぴぃさんもいる。

「今日イベント被りすぎじゃない?」
「わかるわ~」
受付を済ませる。
お腹が空いていたのでフードも頼む。

この日は四日市の「どれみふぁといろは」で
藤山拓さんがライブしている。
さらに、金山の「ブラジルコーヒー」では
西島衛さんがライブしている。
Zepp Nagoyaには、くるりも来ている。

なんなんだ今日は。
まぁ、私たちはここで。

西島さん(ザ・シックスブリッツ)は
先月末まで来週の23日と勘違いしていた。
大変申し訳ない。3月ワンマン行きます。

ともあれ今日は、先月早々に予約していた
佐古さんの出演するライブへ来た。

初めて聴ける人もいる。楽しみだ。
最前席が空いていたので腰を下ろす。

2人連れが来場し、1人が隣の机の席に座る
椅子が無い様子なので、横のを差し出す。
2人あわせて座るのが良かろうて。
こういう時、身一つで良かったなと思う。

名物「鶏からあげ丼」ドリンクはメキシコーク

メシが開演直前に来てしまった。
忙しなく掻き込むのも味気ない。
合間に食べて、演奏を聴きこもう。

開演する

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

田中外さん
「都会」 ほか

本日はバンド編成からソロへ変更。
バンドの音が聞けるかと少し期待したが
次回への楽しみができたと思おう。
「ぼくは煙草も吸わないし、酒も少しだけ」
と話す田中さん。繊細に心縁取る歌詞が
丁寧なギターサウンドに染み入る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

たけうちなおやさん
「シェルター」 ほか

前回のライブでは演奏が見られなかった。
久しぶりの歌。今回お酒を飲んでいない。
前回飲みすぎて演奏も大変だったようで
今日は、戒めとして飲まずにやるようだ。
「調子が上がらないなぁ」と笑っている。
少年の日の夕方を見るような楽曲が
変わらない無邪気さに溢れていて好き。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ハルラモネルさん
「最新世界」 ほか

名前は存じ上げていた、「最新世界」は圧巻。
「さよならインターネット」も、素敵な曲だ。
熱い演奏に対して優しい歌声が素晴らしい。


酒が進みすぎないように
だいぶ気を付けていたのだが
すぐに空っぽになる。

いいライブのせいにしよう。
ウイスキーとごぼうの揚げたやつを頼む。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

鑪ら場へ到着した直後
言葉を交わした時に、佐古さんから
「移動距離バグってるよね~」
と冗談ぽく言われる。

そう。佐古さんに会うのは福島ライブ以来だ。
名古屋でもライブは見ているが、
東京、京都でも顔を会わせている。
確かにお客さんとして…というより
人として異常な部類である。
心当たりも、自覚もある。

佐古さんには何度となく、会っているはずだが
何故だか今夜とても新鮮に思えた。
会いたい思いが強かったからだろうか。

飄々としているようで
音楽は、表情も色合いも強く慈悲深い

「どうも。佐古です」
口数少なく演奏が始まる。
はにかむ表情は、この時間を楽しむかのよう。

これまで見てきたであろう
ライブハウスの光景、してきた体験が
歌と音楽になって弾けていく。

はじめの曲、「びっこのマイコ」も
佐古さんの眼を通した、ライブハウスの
愛に満ちた曲だ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ステージが進み、チューニングをしながら
佐古さんは、ぽつりと話を始める。

「今年は、いろんな人が亡くなって。
 とても、ショックだったんですが…。

 ぼくは、九州佐賀の生まれで。
 高校の頃、ロックバンドが福岡に来ました。

 それを見るため、授業終わってから
 急いで家に帰って、私服に着替えて。
 電車に乗って、見に行ったんです。

 当時、ライブの箱はまだ
 大きなものは少なくて
 小規模のものが多くて。

 だから、今みたいにホールとか
 でかいステージでライブをしたり、
 やれる道を築いた、そのロックバンドは
 とても、偉大な存在だと思ってます。
 凄い人らなんだと思います。

 見に行ったそのロックバンドは
 ミッシェルガンエレファントって言います。

 ライブハウスには全てがあったし
 今でも全てあると思っています。

 次にやる曲は、ライブを見に行った
 そんな当時を思って作った歌です」

静かに語り続けるように、音楽が始まる

「ライブハウスの妖精たち」



目の前のステージがぼやけて見えない。

鎮魂の曲をするわけでも
お悔やみの言葉をなげかけるでもない
ただ、思い出を少し話し、
懐かしい光景を歌にのせているだけ。

それなのに、どうしてこんなに涙が出るんだ。

しかしはっきりと情景は押し寄せてくる。
熱く溢れる目の縁をそのままにしている。

続けて演奏される曲も
「次も、ライブハウスであったことを
 そのまま歌っています」
こう語られてから、間髪入れずに始まる音楽

「彼女の手帳には大切な印がある」

下北沢のライブハウスの廊下が
浮かんで見える。


情景の大波に飲まれてしまうも
きっと、我慢しなくていいんだろう。
だってここはライブハウスだから。


最後の曲は
「今夜、全てのバーで」
思いを伝えあう、人の愛が伝わる
夢のような音楽の時間。

アンコールで歌われた
「ショートホープと曲がったピース」

去年から今年にかけての
小形さんと尖さんの曲だと思いながら聴く。 


素晴らしい夜は、歌い継がれていく
連なりの一幕なのかもしれない。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

全ての演目が終わる。

客の波が引いてから、佐古さんへ声をかける。

自分の中が静かに興奮しているのは
ライブを称賛できることの喜びと
ようやく物販買える喜びが合わさり
混沌としているからだろう。

どこかで書いたかもしれないが
佐古さんのライブに行く時は
これまで決まって金欠だった。

だが今回は違う。惜しみ無い
「みどりの日」の成果が
財布に詰まっている。

「…物販を買わせてください」
「オッ!ありがとう~!」

佐古さんは、4枚並んだアルバムを前に

「えーと。今日の曲なんだけど
 ごめんー、ちょっと散らばってて…
 びっこのマイコはこれに…
 で、こっちはライブ盤で…」

1枚1枚、愛おしそうに教えてくれる。

「こないだライブした時に
 声枯れちゃって、冬は難しいね。
 いっぺんに、やる気なくしちゃった。
 今日は、やる前までマスクしてたよ…」

「冬場は乾燥でやられちゃう人いますね
 心当たりが、結構ありすぎて…。
 あー…そうですね、…4枚ください」

「エッ!?マジですか?」

「はい。4枚。いつも、買えなかったので…
 これでやっと聴けます」

佐古さんからCDを受け取る。

「大切に、大切に聴きます…」

「こっちがオリジナルだからね!」

そうか、佐古さんの曲を最初に知ったのは
小形さんのカバーだったなぁ。
そのことはお互い知っていて
「カバーじゃなくてオリジナル!」
と冗談ぽく笑う佐古さんは
高校生みたいに天真爛漫な目をしていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


12月17日(日)

06:26
みどりの日の朝は早い

1時間早く来てといわれたので
1時間早い電車で行く。
リュックに佐古さんのCDを忍ばせて。


昼まで、しっかり働く
午後からは事務仕事。隙を見て
佐古さんの曲をPCに取り込んで
それをスマホに転送する。

これで、いつでも聴けるぞ。

さぁ、仕事を終わらせよう。

帰り道ではブログを書こう。


ライブハウスの、憧れを目撃した夜を
残しておくために。

わたしの、素晴らしい夜を
残しておくために。


日々は一瞬で終わっていくようにも見えて
永遠に残り続けるものだ。

そうやって、わたしは生きていく。





おわり





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?