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ノンストップ 夜がまわる篇

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準備をするバンドメンバーをバックに
ゴウさんは話し始める。

「ぼくはね。
 ライブを主宰することもあって
 そんなライブの最後には、決まって
 演者さんの評価というか…
 ダメ出しというか…いつも
 そういうのをやるんだけど」

ぼく、嘘つけないんで
と、前置きをしたうえで

「今日出てくれたバンドはねぇ…
 いや、もうみんなわかってると思うけど
 なんも言うことありません。
 みんなホンマ最高でした!」

沸く会場

「それぞれ世界観がハッキリしてて…」

と、1つ1つステージに立った面々へ
エールと称賛をおくる。そのあとで
やりにくいなぁなんて軽くゴチりつつも
雰囲気バンドの演奏はスタートする。


雰囲気バンド

「夕暮れオレンジ道路」
「光」
「夜がまわる」など

最初の曲で、ゴウさんのギターに電源が来ず
音の出ない機材トラブルが発生。

けれどそこは「夕暮れオレンジ道路」
この夜、会場に来ている人の大部分は
この曲を知っていたのではないだろうか。

歌詞には
「もういいかい?」「まあだだよ!」
のくだりがある。

本来だとゴウさんが
「もういいかい!」とコールして
オーディエンスが「まあだだよ!」と応える

今回は逆になった。これもライブの醍醐味。
客席が「もういいかい?」とコールし
ベース、ドラム、キーボード、ギターが
演奏とコール「まあだだよ!」と
時を繋いでいく。
ゴウさんのギターの音が来るまで
コールは繰り返し流れ、その時は来る。

会場はより熱く。演奏はその上をいく。

肩を組んで演奏に参加するオーディエンス。
こんな光景と、この曲をライブで聴くと
ある思いが頭に呼び起こされる。

 
気持ちや感受性の問題なのだろうけれど
皆どこか、小学生くらいの自分を持っている。それは大人になってもどこか心に必ずあって
いつだって友達と遊んでいたい。
そんな部分が、確かにあるように思う。

ノスタルジアな感覚にある景色
夕飯のできる時間まで、長くは遊べない
けれど、だから、全力で遊ぶ時間

遊ぶのに「理由」なんて考えない。
遊ぶのに「将来」なんて必要ない。

日が暮れるまで、遊びたい。
夕飯に呼ばれるまで、遊ぶんだ。
そんな時間があったろう。

私は彼ら彼女らを見ながら
そんな時間があったならと羨む。
距離をとり、肩も組めない自分に
小さな情けなさを感じてしまう。

恥ずかしさでそうしているのではなく
記憶がそうさせる。記憶消したい。
まだ怖いんだろう。ならまだいいさ。

内側から滲みくる感情に
小さくかぶりを振る。



素晴らしい演奏が続き
あっという間にエンディングを迎える。

アンコールに「夜がまわる」が始まる。

音楽に全身を任せ、踊りながら顔を隠す。
途中で感情の蓋があふれてしまった。
涙で表情を保てなくなっている。

きっとひどい顔に違いない。

いや。

感情に素直になれたのなら、それで十分か。

素晴らしい夜がまわっている。

 

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いささか飲みすぎたのだと思う。
ふらつきはしないが。
酔いの感覚はある。

感情がジェットコースターだな。
今は笑っていられる。

いったい、いま何時だ?

22:30

これはいけない。終電がなくなる。
そうなれば流石に笑えない。

隣のチャンエリさんに声をかける。
「今日、ライブ最高でしたね…」
「良かった…すごく…」
彼女も同じ様な気持ちのようだ。
「また、どこかのライブハウスで」
そう言い、手を振ってお別れする。

菅野さんとkazさんに声をかける。
「じゃ、お二人とも。また明日!」
あちらさんは
驚いているのか、喜んでいるのか
「えー!また明日って!」
と笑っている。
「菅野さん、またDMしますね!」
2人とハイタッチしてお別れする。

藤山拓さんへ声をかける。

バンド演奏めちゃくちゃ最高だったこと
この1年、おかげで楽しかったこと…。
動画、送りますね。今日は来れてよかった。
またお会いしましょう。
軽くハグをしてお別れする。

流れるように、馴染みの皆に短く声をかけて
私は店を出る。

 

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店を出たところに、今日の1番手
The Shiawase のお2人がいらした。

といっても、メインの方々ではなく
ギターとドラムスのお2人。
2人には恐らく、初めて会う。

昨年、茶飯事さんのレコ発で見た時より
バンドの音楽性、方向性がハッキリしてて
圧倒的に良くなっていたことを伝える。

彼らは両手を握りしめ
「マジっすか、よっしゃ…!」
「めっちゃ嬉しい…!」
噛み締めるように喜んでいた。

20代。素直な子たちだ。
こちらもホッコリ嬉しいような…
けど、やっぱり何か
ちょっと悔しくなって
「メインの子らには内緒だよ?」
と伝える。

まぁ、ここには書くんだけどね。

またどこかで、と告げ別れる。

 
駅へ向かう
もうあと5分もない。

横断歩道でフウジンさんが歩いている。
夜の街の光に、歩く姿は煌めいて見える。
オーラが、やっぱり凄くカッコいい…!

うー、だけども。声掛けしてたら乗り遅れる。
止まるわけにはいかないのだなぁ。

ワッペリンでは、まだライブを観ていない。
フウジンさんソロで2、3回観ただけである。
しかも、残念ながら今年観る機会はなかった。
来年は、是非とも、爆音で溺れたい。

駆け足で地下鉄新栄駅のホームへ。

息を整えると、間もなく
電車が滑り込んでくる。

 

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23:40
近鉄四日市駅 ホーム

帰りの道中、1日を反芻している。

昼過ぎまであった嫌なことなど
とても下らないことに思えている。

観て、聴いて、感じたもの全てが
自分を支えていた。


終電ですわ…

サブスクでVANQULLWAR'Sを聴く
「にゅーわーるど」「温泉へ行こう」…
やっぱり好きだ。超カッコいい。
また名古屋来てほしい。
早めにスケジュールわかれば
合わせるから…。

うーん。
ワッペリンと対バンしないかな…。
楽しいが飽和状態になるわ。お祭りだ。
酒のおかげか妄想と夢が広がるなぁ。


爆発的な歓喜の渦が、ライブの音楽にあって
それは圧倒的な情報量として記憶になる。

藤山拓さんの「girl2」の動画を
簡単に調整、編集する。
スタートとエンドはフェードインアウト…
それくらいしかできないが。
これは明日朝にDMで送りつけよう。
どんな気持ちになるのだろうか。

そして、ちょっと考えはしたが、やはり
実際するとは思っていなかった
「明日のライブ」

直接言われちゃあ、断れないよなぁ。

またブレーキぶっ壊れちゃった?

ま、それもいいか。明日の準備をして
今日は帰ったらすぐ寝よう。

結局、午前様になってしもた

帰宅して荷物を整理する。
重たいノートパソコンは置いて。
濡れたタオルは洗濯へ。
明日も銭湯に行きたいので
かわいたタオルを入れておこう。
よし。明日も朝早い。
風呂に入って眠ろう。




この時にはまだ


翌日がどうなるかなんて


わかるはずもなく…。

 

 


つづく





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