灰田かつれつ

日本における背広の歴史を研究します

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最近の記事

背広研究 ドレープのはなし 2

前回、余裕量が増えたからネックポイントが前進したという説明をしました。 とはいえネックポイントの移動による胸巾のバランスの配分と言われてもピンとこない方もいらっしゃるかと思いますので、 今回は型紙操作(マニピュレーション)によってドレープ型と非ドレープ型の違いを説明しようと思います。 型紙操作(マニピュレーション)とはなんぞや? 採寸方式を問わず、メジャーで測った数字だけで完全に人体の凹凸にフィットした服を作ることは至難の技です。 ようは、服の型紙作りというのは、3Dの人

    • 背広研究 ドレープのはなし

      前回に引き続き、ネックポイントの話です。 なぜ時代とともにネックポイントが起きた=前進したのでしょうか? 答えは簡単。 ユトリが増えたからです。ここでようやくドレープの話につながります。 昭和ヒトケタ以前の背広のシステムでは、 パターンを起こすときに胸周りのユトリ量として2.5インチを加えました。 システムによりバラツキはありますが、それでも2インチ〜3インチの間です。 そして、このうち1インチが縫い代として引かれます。 (縫い代の話は改めてどこかでします) これは半身

      • 脊廣硏究 ネックポイントのはなし

        現代のパターンと過去のパターンの違いは他にもまだまだ沢山あるのですが、 こういう小手先のことは置いておいて、いよいよ本題に切り込んでいきます。 前身頃の肩の襟元の先端の部分をネックポイントと呼びます。 (どうでも良い話ですが戦争中は頸点と呼ばれました) このネックポイントは、上着類の裁断において最も重要な意味を持つ場所です。 ここの設定が悪いと、肩や首周りに変なシワが出て、 みっともなくて着心地の悪い服が出来上がります。 ウエスト周りや裾のあたりまで作用して服を崩壊させる

        • 脊廣硏究 肩線のはなし

          前回に引き続き、なかなかドレープの本題に入れませんが、 もうすこし過去のパターンを見つめてみましょう。 今回は背中のパーツ、つまり後身頃に注目してみます。 肩の部分の線がかなり傾斜しているのがわかりますでしょうか。 ここで「そうか!昔の人はなで肩だったのか!」と早合点してはいけません。 実際に縫合すると謎がわかるのですが、 ここでは実例をお示ししましょう。 横側から見ると、肩の縫い目が首元から袖にかけてネジれこんでいるのがわかります。 前側のパーツ、つまり前身頃が肩先で背

        背広研究 ドレープのはなし 2

          脊廣硏究 サイバラのはなし

          背広のカタチを研究するにあたって重要なのがパターン(型紙)です。 実物でお示しすることももちろん大事なのですが、 縫い上げる際に体の曲面に合わせるために癖取り(くせとり)と言ってアイロンの熱と水分で生地を変形させており、 はたまたイセといって縮めたり、場所によっては伸ばしたりしてあるので、 どうしても写真では現在と過去の形を3D的に比較するのが容易でありません。 実際に目の前に実物を並べて話すより他ないのです。 パターンは個人のセンスで線を引かれる部分も大きいので、 歴史

          脊廣硏究 サイバラのはなし

          脊廣硏究 日本製品の味わい

          今と過去とを問わず、とくにスーツ愛好家の間で取り沙汰されるのが「お国柄」の問題です。 イギリス仕立ては固く堅実、イタリア仕立ては柔らかく開放的など、 デザインの問題と括ってしまえば大きな主語になりますが、主に生地の好みと仕立ての傾向から構成されるようです。 もちろんそうした傾向がその国で仕立てられた製品の100%に当てはまるわけではないことは言うまでもありません。 現代におけるこれらの問題はファッションに詳しい専門家の方々が論じておられるので今更自分が稿するのも烏滸がま

          脊廣硏究 日本製品の味わい

          脊廣硏究

          みなさん初めまして、私は趣味で昔の洋服の実物や型紙を集めているものです。 この分野の研究はすでに少なからず行われているものですが、「屋上屋を架するにあらざるを信じ」図々しくも私の寡聞を晒そうという試みで書き始めるものです。 さて、従来行われつつある洋服史については、 あるものは読み物としてのストーリーを重んじ、 あるものは印象論に終始し、 果たして史学・考古学的にどれほどの根拠があろうかと疑念を抱いておりました。 端的に言ってしまえば、それらを読んだからといって、 具体