#29 等身大でいること


考え事が多すぎて、モヤモヤしながら実家に帰った。

なんかスッキリしない。別に憤っている訳ではないし

仕事も日常生活も特に問題は無い。

なのになんだかモヤっとする。

とりあえず自分の部屋を掃除し始めた。

本棚を見ると小中高の卒業アルバムがこっそり顔を出していた。

私は思わず高校の卒業アルバムを手に取った。


3年D組のページを開き、引きつった顔で笑っている自分の顔写真に向かってこう言った。

「おい、

何ぎこちない顔で引きつった顔して笑ってんだよ。

本気で笑ってなかったからそんな顔になるんだろ?

写真屋のおっさんに無理やり笑かされたからそんな顔になってるんだろ?


残念だったな!自分に嘘をついて我慢することがかっこいいと思ってたんだろ?

部活引退して、かつては漫画やゲームや音楽の話をしていた周りが進路の話をし始めて

流されるように慌てて自分も進路探して

野球部という居場所がなくなってからは
同級生に金魚のフンのようについて行くことでしか自分の居場所を測れなかったよな?

そうすれば仲間に入れて貰えると思ってたよな?


お前のその顔を見ればどんな高校生活を送っていたかがすぐわかるぜ!

中身のない3年間が集約されてるってな!



お前が欲しがっていたのは
どうでもいい友達からの
「誕生日おめでとう!」じゃない!

お前の事を尊敬している人でもない!


「こいつにはバカにされても構わない」と思い合えるような信頼し合える友達だ!



お前が結婚したいと思っている人は
顔面偏差値80点以上の美女じゃない!

「この人となら幸せになれる」と思える人でもない!



「この人となら不幸でも構わない」と思い合えるような人だ!


よかったな!間違ってることを間違ってるって言ってくれる友達や先輩がいて!


よかったな!
「お前は変わり者。自分を基準だと思うな。」とか
「お前は思ったことを顔に出しすぎ。」
って夜遅くまで説教してくれる友達がいて!

よかったな!自ら反面教師になってくれるヤツがお前の周りにいて!」


部屋にいた黒猫がなにやら不思議そうな顔でこちらを見ていた。



・誰にも媚びないスタンス

・マイペースで自己中心的

・ありのまま   等身大

なのに愛されている。


だからこそ愛されている……のか。  

俺の憧れはお前だったんだな。


猫と暮らしてから20年たってようやくわかった。
等身大でいることの大切さを。


そういえばこの間4歳の女の子に
「なんでそんな頭ボサボサなの?」
と聞かれ

「ちがうちがう、これパーマなの。」

女の子の母「そんなこと言っちゃダメ」(小声)

というくだりがあった。

彼女も等身大だったんだな
どうりで愛おしく思えたわけだ。

赤ん坊や子供が愛されている理由がわかった。

人間の欲なんて掘り下げるほど生々しいものだ。
「愛されたい」「認められたい」
「わかってほしい」
「モテたい」「お金が欲しい」


人より共感するのが上手い人は
人より人間の生々しさを知っているからなのかな

どうせ死ぬなら貪欲にいこう。
等身大でいよう。
出る杭は打たれるっていうなら
いっそのこと突き抜ければいい。

私はバカにされることが嫌だったんじゃなかった。
バカにされた自分を自分で蹴落としていたことが歯がゆかったんだ。


バカにされても、バカにされてる自分を
自分で尊敬できれば無敵だ。


この時Creepy Nutsの
"のびしろ"のこの歌詞の意味がようやくわかった。

「やっとわかってきたかも
        このポンコツの操縦の仕方を」


これだ!ずっとモヤモヤしていたものが!
自分も他人も傷つけずに自分だけ気持ちよくなる方法!
人生はどう思い込むかによって決まる!
そうだ!人生は自己満足劇場なのだ!

世界が広いか狭いかも!
人生が単純かも複雑かも!
長いか短いかも!全部全部!思い込み次第!


こういったことを日本では「厨二病」と揶揄されるのだろう。

構わん。私が影響を受けた人たちも見る角度によれば厨二病だ。
あの漫画のヒーローも
心を熱くさせてくれたあのロックバンドもそう。

色んな人にバカにされ、ネット上で叩かれ
それでも突き抜けてきた。

そうだ。みんな同じだ
目まぐるしく変化し、
何をするにも常に正解が求められ、
誰にどう思われるかを気にしなければいけなくなった時代を生き抜くには避けては通れないんだ。


私の悩みなど、

「世界の悩みランキング」


の5億位にも入っとらんわ。
ははははははははは!


私は儀式として卒業アルバムを捨てようと思ったが、先生や友達に失礼だと思い、自分の顔写真だけを切り抜いてゴミ箱へ放り投げた。


「さっきから俺の言ってることがわからない?
なぁに。7年たてば分かるさ。

あ、あと服や髪型をオシャレにしたからって彼女ができるわけじゃないぞ?
見栄やプライドを塗りたくったところでお前はお前のままだからな?

だから何度も言わせるな。7年たてばわかる。」


そうボソッとつぶやきながら
ハウスダストと猫の毛が舞う部屋を後にした。



部屋掃除は、また気が向いたらやろう。