河邑肇 Hajime_Kawamura, Dr. of Commerce,

A Social Scientist specializing in History …

河邑肇 Hajime_Kawamura, Dr. of Commerce,

A Social Scientist specializing in History and Technology of Economics and Environmental Economics. 映画、演劇、コンサートなどを中心に、レビューを書いています。

最近の記事

映画『THE LEGEND&BUTTERFLY』はディカプリオ版の映画『タイタニック』を超えるか?

さて、久しぶりの映画評な訳ですが、率直に言ってこの映画『THE LEGEND&BUTTERFLY』は日本映画の歴史を画する作品になるかもしれません。さらに率直に言わせてもらえば、何よりもまず面白いです。 私は、公開初日の舞台挨拶付き上映を観て、その翌日に、別の劇場でもう一度この映画を観ました。今後は「3回目以降もありだな」と思っています。それくらい面白いです。 古典的な名作かと問われれば、そうではないと答えますが、歴史ラブロマンスという新たなジャンルを切り拓いた映画として

    • 『オープン・シーズン』、そして『博士の異常な愛情』:アメリカ帝国主義を支える映像表現②(『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々③)

       スピルバーグの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』におけるアメリカ帝国主義的な表現と全く同じ役割を果たすような映像表現は、愛くるしい動物たちを主人公にした子ども向けのアニメーションにすら散見される。2006年に公開された『オープン・シーズン(原題:Open Season)』という長編アニメーション映画の場合、人に育てられた熊が森に帰るまでのプロセスを描く物語なのだが、問題はその最大の見せ場にあたる部分である。  そこでは、野生動物の敵という立場で人間のハンターたちが登場し、

      • 『バック・トゥー・ザ・フューチャー』と『シンドラーのリスト』:アメリカ帝国主義を体現する映像表現(『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々②)

         アメリカの人々が、いかに戦争について無知であり、それゆえ戦争に関わる映像表現に対して、その表現が観る者に与える痛みに対して、いかに無神経であるかということは、いわゆる戦争映画ではない映画にこそ、よく現れていると、私は考えている。  スティーブン・スピルバーグは、制作者として関わった青春娯楽SF『バック・トゥー・ザ・フューチャー(原題:Back to the Future)』のラストシーンで、主人公の相棒であり、タイムマシンの発明者である博士を、民族衣装を着たアラブ人に殺さ

        • 『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々(初出:2007年2月17日mixiに投稿したテキストを加筆修正)

           さて、懸案の『硫黄島からの手紙(原題:Letters from Iwo Jima)』の第1回である。  この日記を書こうとして、実はもう一度、この映画を観に行った。今週の月曜日に、割引料金で、最終回の夜10時。終わるのは零時過ぎなので、さすがに観客は少ないが、観客の反応は前回と同じ。同じ列に座っていた黒人のおじさんは、最後のクレジットが消えて灯りがついても、しばらくは席を立てずに、何も映っていないスクリーンを、茫然と見詰めていた。  前回観たときは、客席の8割以上が埋ま

        映画『THE LEGEND&BUTTERFLY』はディカプリオ版の映画『タイタニック』を超えるか?

        • 『オープン・シーズン』、そして『博士の異常な愛情』:アメリカ帝国主義を支える映像表現②(『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々③)

        • 『バック・トゥー・ザ・フューチャー』と『シンドラーのリスト』:アメリカ帝国主義を体現する映像表現(『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々②)

        • 『硫黄島からの手紙』:世界で最も戦争を知らないアメリカの人々(初出:2007年2月17日mixiに投稿したテキストを加筆修正)

          映画『ギルバート・グレイプ(原題:What's Eating Gilbert Grape)』

          切ない。あまりにも切ない。 映画『ギルバート・グレイプ(原題:What's Eating Gilbert Grape)』は、現在では社会問題として取り上げられることも多い、ヤングケアラーの存在に、シンプルでありながら奥行きのある脚本によって、真正面から向き合った本格的な映像作品。 端的に言って、名作です。 レオナルド・ディカプリオが知的障害のある18歳の少年を演じて、その天才的な才能を絶賛されたことは知っていたので、いつか観てみたいと思っていたのだが、実は、この映画には

          映画『ギルバート・グレイプ(原題:What's Eating Gilbert Grape)』

          映画『ノープ(原題:NOPE)』

          もはや伝説の女優であるジョディ・フォスターが、このところ毎日のようにそのInstagramを更新して 「もう観た?まだ観てないの?すぐに観に行かなきゃ!」 という具合に、あまりにも急かすように繰り返すので、当初、ありきたりなホラーだろうというくらいに思って、観に行くリストから外していた映画『ノープ(原題:NOPE)』。 あのジョディ・フォスターがここまで推すのだから、流石に無視はできないな、と考え直して新宿歌舞伎町のTOHOシネマズで鑑賞。 実際に観てみると、ホラーと

          映画『ノープ(原題:NOPE)』

          映画『ガザ-素顔の日常-(原題:GAZA)』

           まだ、言い知れぬ怒りがおさまらない。特にこの作品のラスト20分の映像は、やりきれない怒りと深い悲しみによって、心は塞がれるとともに、胸がつぶされる感覚に陥る。あまりの重圧に、息が苦しくなる。さっきまで楽しそうに遊んでいた10歳にも満たない少女が、次の瞬間、担架で運ばれ、目を閉じ、身動きひとつしない。呼吸することも忘れて、それを見つめていた私は、「どうか生きていてくれ」、と心の中で祈る。  昨夜、渋谷のイメージフォーラムで観た、映画『ガザ-素顔の日常-(原題:GAZA)』は、

          映画『ガザ-素顔の日常-(原題:GAZA)』

          ニューヨーク・ジャズ紀行 第四夜「Birdland:白人モダンな夜」

          初出;2007年9月19日(mixi) 第四夜は、バードランド(BIRDLAND)で聴いたベース、ドラム、ピアノのトリオ。私でも名前くらいは聞いたことのあるので、おそらく有名な店なんだろう。トレードマークのフラミンゴとペリカンの写真を載せておく。 トリオ名はとくにないようで、プログラムには、ゲイリー・ピーコック(GARY PEACOCK:ベース)、 ポール・ブリー(PAUL BLEY:ピアノ)、ポール・モーシャン(PAUL MOTIAN:ドラムス)という大御所白人三人

          ニューヨーク・ジャズ紀行 第四夜「Birdland:白人モダンな夜」

          映画『ベイビー・ブローカー』

          あまりにも、深く、繊細で、優しい。その優しさに、身体の内側をすべて、じわじわと掴まれていく感覚。エンドロールが終わっても、しばらくは席を立てず、その余韻に浸っていたくて「もう当分は、映画もドラマもいいかな」と感じてしまう。そんな映画が、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』だ。今年のカンヌ国際映画祭で、ソン・ガンホが韓国人としては初めて主演男優賞を受賞したことでも知られるこの作品、何年かに1本、出会えるかどうかという、名作です。子どもの幸せとは、母親とは、父親とは、家族とは、

          映画『ベイビー・ブローカー』

          Billy Joel &Meatloaf:Every body loves you now.

          初出;2007年4月15日(mixi)  昨夜は、私のミスで、二つの予定をダブル・ブッキング。MAYUMIさんのディナーと、ビリージョエルのコンサート。結局、ディナーの時間を早めて貰って、一通りお料理をご馳走になった後、コンサートの間だけ抜けて、また戻って、デザートに合流という、なんとも我が侭なスケジュールにさせてもらった。しかも、鉄道の駅まで車の送迎までホステスのMAYUMIさんがしてくれて、当分、頭が上がらない。  食事はミートローフをメインにした、アメリカらしさがテ

          Billy Joel &Meatloaf:Every body loves you now.

          映画『Spider-man3』 in Cleveland

          初出;2007年10月12日(mixi) クリーヴランドのダウンタウンで、子供の銃乱射事件があった。 サクセステック・アカデミーという、この少し変わった高校は、 レイクサイド・アヴェニューの東13番辺り。 私のアパートから車で10分もかからない。 http://www.cmsdnet.net/successtechacademy/Default.htm 今回は、自殺した14歳の白人少年以外に、死者は出ていないらしい。 それがせめてもの救いか。しかし、自殺した

          映画『Spider-man3』 in Cleveland

          映画『ハケンアニメ』

           映画『ハケンアニメ』の最も優れた点は、テレビのアニメーション作品について、これまで専門家の間でも必ずしも明らかにされてこなかった、開発、生産、販売、消費のプロセスを、あたかも企業調査者が企業の調査記録を作成するかのように、具体的に描写して見せていることである。   それによって、アニメの監督であるクリエーターの抱える葛藤や情熱が、彼らを制作サイドで支えるプロデューサーの作家や作品に対する立場やアプローチ方法が、アニメという商品によって生み出される巨額の利益を獲得しようとする

          映画『サタデー・ナイト・フィーバー(原題:Saturday Night Fever)』

          初出;2022年4月18日(Facebook)  新宿ピカデリーにて、リバイバル上映中の『サタデー・ナイト・フィーバー(原題:Saturday Night Fever)』を鑑賞。1977年の公開当時、書き下ろしの5曲を含むビージーズの楽曲がメインのサウンドトラックが、ビルボードで24週連続1位となるほど一世を風靡した作品。観る前は、トラボルタのディスコダンスがメインの、ノリの良い気分の上がる映画だろう、という程度のイメージしかなかったのだが、実際に観てみると、そんな印象は良い

          映画『サタデー・ナイト・フィーバー(原題:Saturday Night Fever)』

          ニューヨーク・ジャズ紀行 第三夜「Jazz Standard:スタンダードな夜」

          初出;2007年9月14日(mixi)  あまりにも工夫のないタイトルですね(笑)。  しかし、そのような印象でした。何がスタンダードか、それは私には厳密には分かりません。ただ、第一夜の南米音楽、第二夜の前衛音楽、第四夜の抽象度の高いジャズ、そして、音楽というより、大変な詰め込み座席で高額な点が印象的だったブルーノート、などと比較すると、このジャズ・スターダードで聴いた演奏は、シンプルなカルテットで、サックスやピアノが前面に出るのではなく、重厚なベースとドラムの技龍が高い

          ニューヨーク・ジャズ紀行 第三夜「Jazz Standard:スタンダードな夜」

          映画『見えるもの、その先に-ヒルマ・アフ・クリントの世界-(原題:Beyond the Visible - Hilma af Klint)』

          初出:2022年4月27日(Facebook) 「一つのスケッチを完成させるたびに、人間、動物、植物、鉱物、創造物すべてに対する私の認識が、より明確になっていく。私は限られた意識から解放され、その上にいるかのような気持ちになる。」  これは、映画『見えるもの、その先に-ヒルマ・アフ・クリントの世界-(原題:Beyond the Visible - Hilma af Klint)』における、スウェーデンの女性画家、ヒルマ・アフ・クリントの言葉。1911年にカンディンスキーた

          映画『見えるもの、その先に-ヒルマ・アフ・クリントの世界-(原題:Beyond the Visible - Hilma af Klint)』

          『債権取立人』&『悩める美女』&『恋の病』:31stCIF東欧三部作

          初出:2007年4月5日(mixi)  さて、第31回クリーヴランド国際映画祭が終わって早10日。実は、まだ観た映画の多くについて、何も書いていない。そこで今回は、中東欧三部作と題して、この映画祭の特徴でもある東欧からの映画を紹介しよう。  私がチケットを買ったのは三作品。ポーランド(POLAND)『債権取立人(The Collector:Komornik)』、チェコ共和国(CZECH REPUBLIC)『悩める美女(Beauty in Trouble:Kráska v n

          『債権取立人』&『悩める美女』&『恋の病』:31stCIF東欧三部作