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まえばし心の旅11:臨江閣

利根川に臨み、堂々とした佇まいを見せる臨江閣。国から重要文化財の指定を受け、夜に なるとライトアップをされている。空襲などにより古い建物が少ない前橋の中で、明治から 残る臨江閣は、その規模や歴史から、前橋のシンボルと言ってもいいだろう。


子供の頃から、別館の2階の大広間に偶に行っていた。お箏を弾いていたから、合奏練習 やちょっとしたおさらい会などで使っていた。2階に上がる階段は、子供にとっては圧巻の スケールだった。⻑く太い柱に圧倒された。その頃は、ずーっと、別館が臨江閣のメインと 思い込んでいた。大人になって、本館の存在や、建築好きということもあり、その存在の意 味に気づいた。

皇族も宿泊し、萩原朔太郎の結婚式も開かれたという。また、明治の県令楫取素彦も、建 築中の現場を訪れていたのかもしれない。ひょっとしたら、そういった人たちと同じ景色を 見て、同じ床の上を歩き、同じ柱に手を触れたかもしれないと考えると、自分と歴史上の人 物が、臨江閣を通じて急に繋がった様に感じる。

「江(かわ)に臨む」との名前の通り、目の前には利根川が流れる。そして、裏手には風 呂川も流れている。本館一階の和室は、部屋から利根川が見える様に、床の間の横が大きな ガラス戶になっている。本来の建築形式ではなかなかあり得ない作りだ。ガラスも当時のも のが多く、外の景色が若干歪んで見える。また、使っている木材などは、現在ではなかなか 手に入らない大きな一枚板などがあり、貴重だ。縁側を歩き、外を眺めると、なんとなく自 分が、大名や県令にでもなった様な気がしてくる。

平成の大修理の際に、新たに補強や補修で取り付けた木材は、従来ある木材と塗装の色を 揃えなかった。最初見た時は、「こんな不揃いな仕上げはおかしい!」と思ったが、後日「オ リジナルの木材と修理で追加した木材を区別がつく様に、敢えてその様にしてある」という コンセプトを聞き、自分の不明を恥じると共に、そのコンセプトに納得した。そういった専 門家や技術者の努力によって、臨江閣が 100 年以上、その姿を変えずにいるのだろう。

今年の1月、箏曲・尺八・日本舞踊の公演を臨江閣の本館で行った。舞・音、そしてそれ を包む空間。全てが統一された和の空気に満たされた。コンテンツはハードによって一味も 二味も変わる。食に例えれば、器とお店の設えが、料理の味を引き立てる。逆もまた然り。 臨江閣は、建物や都市緑化フェアで整備された庭園などの器は素晴らしい。私の様に日本文 化に携わる者や、多くの前橋の方がコンテンツを提供し、臨江閣を磨き続けて行きたい。

まあ、そんな難しく考えなくても良いか。縁側から庭や景色を眺めるのも良いし、逆に、 外から建物を観察するのでも良い。平成の大修理によって新しい命を得た臨江閣、そこに魂 を入れるのは、前橋にいる、私たちだ。

放送日:令和3年6月16日

音声データはこちらからお聞きください。


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