ブックガイド(21)「朝、上海に立ちつくす 小説東亜同文書院」

「朝、上海に立ちつくす 小説東亜同文書院」(大城立裕)中公文庫

(2004年 03月 10日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 みなさんは東亜同文書院という日本の大学を知っているだろうか。
 1901年(明治34年)東亜同文会(会長近衞篤麿貴族院議長)によって中国の上海に創立された。日中提携の人材養成を目的とし、戦前海外に設けられた日本の高等教育機関としては、最も古い歴史を持つ。中国・アジア重視の国際人を養成し、ここから日中関係に貢献する多くの人材が育った。
 特に学生達が授業の一環として行った「調査大旅行」は中国各地を調査する学術旅行で、この大学の大きな特徴として伝えられている。
 が、悲しいかな建学の理想とは裏腹に、大戦中はこの旅行すら軍の調査に利用され、学生達も通訳として兵役に赴いたのである。
 この物語の主人公は、日本人ではあるが、沖縄出身(作者の分身である)であり、支配側の日本と支配される側の中国との間に位置する。
 日中両国の学生たちのとまどいやいらだちやあせりを通して、この悲しい運命の大学とその果たした役割を描いている
 実は、私の母校の愛知大学は、終戦でこの同文書院が閉鎖された時の学生と教授達によって、豊橋に建学された、いわば同文書院の残党のような立場である。そんなこともあってこの本を手にしたのであった。
 戦争と日本による中国支配に利用された国策大学という汚名を着せられていた同文書院の真の姿を伝えたい、そんな作者の声が聞こえるようだ。青春小説としても優れている。

※愛知大学の現代中国学部では、3年次の3週間、学生自身が中国を訪れ、中国社会の実情を多面的に調査。その結果を、中国主要大学の学生との日中学生シンポジウムで発表、ディスカッションしている。これは同文書院の「調査大旅行」に相当するのだ。

朝、上海に立ちつくす―小説...中公文庫
東亜同文書院大学記念センター
愛知大学

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