小説指南抄(2)推敲の例 説明から描写など

推敲の例 説明から描写など

 今回は自分の作品を事例にして作品をなおしていく際の注目点を解説。例に挙げた作品は現在「ステキブンゲイ」という投稿サイトで連載形式でアップしている「奥安アパートメントの四季」というもの。

 執筆は2008年の休職時期から1年間、その後2年のブランクの後、うつ退職後に完成させた作品である。箱書き方式でゼロから構想して書き上げた作品で未発表のままだったのをブラッシュアップして公開しているわけ。10年前の私の未熟さがよくわかって直しがいがある。では見ていこう。

(元稿)
 芝居の初顔合わせが行われたのは十二月第一週の金曜日の夜だった。現場の雰囲気を全員で共有するために、アパートメント三階の会議室が、場所として選ばれたのだ。
 直美や向井など虚構座のメンバーに加えて、近年地元の演劇シーンで勢いのあった「弱酸性シアター」から花輪マルオが参加していた。
 マルオは、ひょろりとした外見とメガネがトレードマークで、気の弱そうな、でもどこか抜けていて図太い、というキャラクターを演じて、地元のテレビでも人気があった。
 他には、共催者として、オフィス・エッヂのディレクター小川と国松が顔合わせに参加していた。
 会議室には時田の手によって古い石油ストーブが持ち込まれており、アパートの昭和なムードとぴったりだと向井が喜んだ。
 まず今回のカンパニーのリーダーを務める向井〆太から挨拶があった。
 創立二十年を迎えた今年は、今までの虚構座の演目から一番人気の作品を演じるつもりだった。でも、若い座員から新しいものに挑戦したいという声が上がり、なおかつ脚本まで上がってきたこと、そしてそういった前向きなチャレンジ精神こそが、虚構座の本質であったことを再確認し、二十年の総決算を新作で問うことにしたのだと言った。
 「今回の作品は、わが虚構座だけでは大きすぎる作品になったので、ここにいる花輪さんを客演としてお招きした。弱酸性シアターは虚構座のライバルとして、みんなもよくご存知だと思う」
 紹介された花輪が立ち上がり、軽く頭を下げると、関係者から歓迎の拍手が起きた。
 「堀井女史は以前から知っていましたが、こんないい脚本を書くとは思いもしませんでした。才能に少し、嫉妬しますが、演じるのはとても楽しみです」と花輪。

以上引用ーーーーーーー
 箱書きから始めた弊害で、全体がシナリオのト書きのような説明で終始している。映像喚起力が弱いのだ。この文章では作者の私だけがわかってる。誰の目線のシーンかも読者はわからない。群像劇では致命的。早い段階で視点となる人物の会話なり動作なりを入れてやる。そこで次のように修正した。

(修正後)
 芝居の初顔合わせが行われたのは十二月第一週の金曜日の夜だった。現場の雰囲気を全員で共有するために、アパートメント三階の会議室が、場所として選ばれたのだ。
 室内には古い石油ストーブが置かれていた。反射式の旧型で赤熱した網が見えている。上に置かれた薬缶がしゅんしゅんと蒸気を出している。
「このアパートの昭和なムードとぴったりだなあ」と向井が苦笑いした。
「管理人の時田さんがね、これも演出の一つですって出してくれたの」と直美。
 折りたたみ椅子が並べられた室内には、直美や向井など虚構座のメンバーが座っている。他には、共催者として、オフィス・エッヂのディレクター小川と国松が顔合わせに参加していた。
「じゃ、始めますか」と言って向井が立ち上がった。
「みなさん暮れのお忙しい中ご足労いただいてありがとうございます。今回のカンパニーのリーダーを務める向井〆太でございます」と頭を下げると「なんか〆太さんらしくないぞ」と茶々を入れる声がかかり、どっと一同が笑って空気が和んだ。
「創立二十年を迎えた今年は、今までの虚構座の演目から一番人気の作品を演じるつもりでしたが、若い座員から新しいものに挑戦したいという声が上がり、なおかつ脚本まで上がってきたこと、そしてそういった前向きなチャレンジ精神こそが、虚構座の本質であったことを再確認し、二十年の総決算を新作で問うことにしました」と言った。
 「今回の作品は、わが虚構座だけでは大きすぎる作品になったので、ここにいる花輪さんを客演としてお招きした。弱酸性シアターは虚構座のライバルとして、みんなもよくご存知だと思う」
 紹介された花輪が立ち上がり、軽く頭を下げると、関係者から歓迎の拍手が起きた。
「弱酸性シアター」は近年地元の演劇シーンで勢いのある劇団で、花輪マルオはその創立メンバーの一人だった。
 マルオは、ひょろりとした外見とメガネがトレードマークで、気の弱そうな、でもどこか抜けていて図太い、というキャラクターを演じて、地元のテレビでも人気があった。
「堀井女史は以前から知っていましたが、こんないい脚本を書くとは思いもしませんでした。才能に少し、嫉妬しますが、演じるのはとても楽しみです」と花輪。

以上引用ーーーーーーーーー

 このように小説原稿の推敲は、文章の「意味が通じる」ことや「てにおは」ではなく、読者に「どのように伝えたい」か「どのような印象を与えたい」か「ストーリーや作品の狙いに反するような誤解や予断を与えていないか」などがポイントになる。

 この「読者目線」を意識するためには、作品を何作かコンプリートするだけでなく、プロの作品を浴びるように読んでいくことも重要。自作との違いがうっすら見えてくる。さらに人に読んでもらうことで、その人に気づいてもらう事も出来る。お試しください。

この作品は下記「ステキ文芸」にて公開中です。

奥安アパートメントの四季

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