「経済評論家の父が息子に伝えた、お金の稼ぎ方・増やし方とは?」

 書籍のタイトルを考えてみた。いかにもありそうな書名で、似たテイストのものが既に複数あるにちがいない。
 もの欲しげな、率直に言って少し下品に思えるタイトルだ。私は自分の本に使いたいとは思わない。しかし、編集者との話が煮詰まって疲れてくると、「このタイトルが売れると思います」と説得されて、これに決めてしまうかも知れない。
 そうなると困るので、noteに要点を書いて、このテーマを手放してしまうことにしよう。世はコスパ(コスト・パフォーマンス)、タイパ(タイム・パフォーマンス)の時代だ。書き手にも、読み手にも、要点だけ早く伝わることのメリットは大きい。
 私の書く本も含めて、世間の本は無駄に長い。

 さて、先日私は息子に手紙を書いた。大学に合格したのでそのお祝いと、父親として息子に伝えたい事柄をあれこれを認めた。偉そうな内容で、読者に紹介するのは少なからず恥ずかしいが、たとえば、以下のようなことを書いた。
「貴君は18歳なので、以後大人として扱うことにする」
「東京の大学生なのに一人暮らしをさせるのは、親から離して早く本当の大人にするためだ。父としての最後の教育方針である」
「ここまでで親孝行は十分に済んでいる。あとは元気ならそれでいい」
「父として息子に継いで欲しいと思うことはない。職業は自由に選べ」
 このようなことを書いた後に、以下の十数行を付け加えた。

<手紙からの引用>
 お金の稼ぎ方では「株式」に上手く関わることがコツになる。起業でも、ベンチャーへの参加でも、ストック・オプションをくれる会社への転職でもいい。
 私の時代は、出世したり専門家になったりして「労働時間を確実に高く売る」のが無難な道だったが、時代は変わった。株式性の報酬が有利だ。
 「自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ」ことを目指す古いパターンよりも、「自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る」のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった。
 仕事で株式性のチャンスに恵まれない場合は、インデックスファンドの長期投資が効率のいい株式リスクとの付き合い方になる。これは、凡人でもできるけれども、一見偉そうな他の投資よりも優れている。お金にも働いて貰うといい。
 以上、平凡だけれども、経済評論家としてアドバイスしておく。
<引用終わり>

 本の前半に働き方編を書き、後半に運用方法を中心にお金の扱い方を書いて、両者の内容を適当な長さに伸ばすと本が一冊書けるテーマではある。だが、その本から読み取って役に立てるべきエッセンスは、上の十数行に十分含まれている。
 読者の「理解のタイパ」のために、少しだけ補足説明を加えよう。

 向こう何十年も先まで有利かどうかは分からないが、大金持ちに効率よく近づくための効率的な手段は、現在株式である。
 世界、日本いずれも長者ランキングの上位は株式による大金持ちだ。たとえば注目すべきは、マイクロソフトの前社長だったスティーブ・バルマー氏だろう。創業者でもないし、社長時代にむしろ会社は伸び悩んだが、株式のおかげで彼は大金持ちだ。ザ・グレーテスト・サラリーマンである。
 効率よく大きく稼ぐ手段は、起業する、起業に加わる、いい会社に出資する、ストックオプションに期待できる会社に入る、などで株式に関わることだ。株式でリスクを取って稼ぐことは、どうやらリスクを取らないで経済に関わる人から経済価値を集める手段なのだが、上手く行くと価値を広い範囲の人から、将来の期待のも分も含めて効率よく集めることができる。積極的に関わるといい。
 肝心なことは、自分にできるところまで臆せずにリスクを取ることだ。これは成果主義の下での働き方にも言えることだ。株式も成功報酬もオプションの一種だからボラティリティ(=リスク)を大きく取る方が価値が高まる。
 ただし、無駄なリスクを取り続けるのは愚かであり、経営者として必要な場合などを除くと、株価の上がりきった自社株に漫然と集中投資しているのは一般論として賢くないことを知っておくべきだ。
 かつての職業選択の王道は、官庁や大企業で出世を目指したり、医者や弁護士など価値ある専門家になって、リスクをなるべく抑えつつ安定的に高報酬を得られる人になることだったが、これらの「一人の時間労働をお金に変える稼ぎ方」はせいぜい中金持ちくらいへの道にすぎない。時代は変わった。

 しかし、人生で、都合良く株式にありつける職業機会が得られるとは限らない。ベンチャーには、成功よりも失敗が多い。ストックオプションも、いつも儲かるとは限らない。そもそも普通のサラリーマンにはこれらのチャンスがない。
 それでも、株式性のリスクを取ることは有利なので、持っているお金は株式で働かせたらいい。トマ・ピケティが調べたように、資本からの所得は有利なのだ。自分の労働を売って稼いだ所得と、株式を持つ資本家としての所得とを比較して、後者が大きくなるといい。「資本家比率」を高めよう。
 具体的な方法は当面インデックスファンド(全世界株式連動型を勧める)への投資が簡単だ。
 アクティブ運用の「平均」に分散投資して、売買や手数料の「コストを掛けずに」、「長期投資」するのが、一見偉そうで手数料や手間の掛かる各種のアクティブ運用や金融商品よりも有利なことは、一回頭を使うと分かるはずなのだが、一回分の頭が働かない人が多いのは残念なことだ。
 はい。要点はこれだけです。しかし、やっぱり、もう一冊本を書かなければならないか?

 以上の骨子は、「今は株式を手段として使ってリスクを取ることによって、リスクを取らない人から価値を吸い上げること」だ。資本家側の戦略である。ただし、状況によっては、資本家側がカモになることだってあるとも付け加えておく。世の中は面白いねえ。
 息子よ、まあ必要な程度にはお金を稼いで、人生を大いに楽しんでくれ。

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