礼遇

「飛行機を乗り継いで帰省する」
そういうと、東京の友達は笑う。
「実家は海外?」って。

福岡空港から乗り継いだ小さなプロペラ機は
私を生まれ育った町へと運んでいく。

この町は、帰省するたびにその静寂を厚くしている。
さびれたバス停には、一日に3本しかない運行表。
中学校の隣にあった駄菓子屋は店主老齢のため廃業。
そもそもその中学校すら、数年前に廃校になり
今は誰もいない校舎だけが残る。

「あら、いつ帰ってきとったんね?」
隣のおばちゃんに声をかけられる。
その声を聞きつけて向かいのおじちゃんも出てきた。
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、親しみと冗談を交えて返答する。
年を取ったけれど、ふたりとも笑い方は昔のままだ。

緩慢に老いていく町。多くの人にとって来る理由のない町。

「トマトば、持っていけ」
おじちゃんが畑から真っ赤なトマトをもぎってくれる。

きっと私は来年もこの町に帰る。
あまい、あまいトマトが私の帰る理由だから。

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