昧爽

地元を離れ、上京して10年。
帰省の際に寄り道して彼女に会いに行った。
着陸態勢に入った飛行機の窓から見える懐かしい街の夜景は
まるで両手を広げて私を迎い入れているかのよう。

久々の乾杯。近況に思い出話、最近読んだ本。
にじむような酔いとともにゆるゆると満ちる時間。
人生の一時期、密に時間を共にした彼女とのひとときは
私にとって、この先数年を、
また自分らしく生きていくための力となってくれる。

「あと何回、飲めるかな?」と彼女が問う。
「何回だろうね」と答える私。
離れてから飲んだ回数をふたりで数えてみる。
ひい、ふう、みい、よう……。
「なんだ、結構飲んでるじゃん」
そう言って笑い合う。

さんざん飲んで、3軒目を出たときには空が白み始めていた。
「じゃあね」
「ん、またね」
彼女に「またね」と言う日は、これからも何度だってやってくる。

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