炎節

大学のサークル仲間で、海水浴に出かけた。
この日のために買った赤いビキニ。
他の誰でもない、大好きな彼に見て欲しいと思って。

美しく光る海、パラソルが織りなす色の洪水、
人々のはしゃぐ声、肌を刺す太陽。
夏のエッセンスを全て凝縮したかのような光景は、
私に大きな期待を抱かせた。

さりげなく彼の側に行って話しかける。
「楽しいね」
「ん? うん」
生返事の彼の視線の先には、サークル内で人気の女の子。
ああ、そうか。そうなんだね。
萎んでいく心に反比例するかのように、
暑さはその耐えがたさを増し、私を纏う。

さて、もう20年も昔の話。
今年もテレビから猛暑のニュースが流れてくる。
ふと思い立ち、タンスを開ける。
捨てられなかった赤いビキニ。
この先、出番はないけれど、
あまずっぱい記憶と共に、
この夏もタンスの奥にそっとしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?