寸景

「旅の終わりは物悲しい」と言う友達がいる。
その旅が楽しければ楽しいほど、帰路は物悲しいと。

私は、旅の終わりは、気がはやる。
やっと辿り着いた最寄り駅。
足早に自宅へ向かい、玄関を開ける。

「ただいま、ちびちゃん」
声をかけたが出てこない。
彼女の定位置である猫ベットに向かうと、
眠そうな顔をしてこちらを見る。
そして、みるみる間に怒りの表情を浮かべて、
「にゃーーーー!!」と私を叱る。
なんども謝りながら、
トイレを掃除したり、餌や水を交換。

一息ついて座ると、
まだ不機嫌な彼女がやってくる。
留守の間を埋めるように彼女を撫でながら、
旅の思い出を反芻する。
白濁した温泉、豪華な夕食、
散策途中に出会ったユニークなおじさん。

ふと彼女を見ると、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
私が一番安心する、いつもの風景。
その瞬間、私の旅は最高のものとなる。

旅の終わりは、気がはやる。
だって、その旅を早く最高の思い出にしたいから。


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