碧空

旅は苦手だ。
いつだって計画通りにいかない。

付き合ってまもない彼との、初めての温泉旅行もそうだった。
些細なことで口論になり、最低最悪な夜。
朝、チェックアウト後に乗り込んだ彼の車は、
その日の計画は全てキャンセルだと言わんばかりに、
帰路へとハンドルを切った。

険悪なムードの中、突然、彼がこう言った。
「寄っていこう」
急に左折した車は、この先の観光牧場を目指しているようだ。
そんなの計画にない。
私は黙って助手席に座っていた。

車から降り立つと草の柔らかな匂い。
鳴き声が聞こえてきた。ヤギの赤ちゃんだ。
この世に生を受けてまもないヤギたちは、
ただただ生きることを謳歌している。

「あれ、やる?」
彼が指差す先には「子ヤギのミルクやり体験」の看板。
「…………やる。やりたい!」
抜けるような青空の下、彼が笑う。

旅はいつだって計画通りに行かない。
だから、人は旅に出る。


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