犯罪被害者に上訴の権利を与えることの是非について

皆さんは、「熊谷連続殺人事件」をご存知でしょうか。

熊谷連続殺人事件とは、埼玉県熊谷市で発生した、ペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタンにより、6人が殺害された事件です。

犯人の裁判では、被告の事件当時の精神状況が争点とされました。

第一審で検察は死刑を求刑し、犯行時完全責任能力があったとして、死刑判決が言い渡されました。被害者遺族の方々も死刑を望んでいました。

無残にも殺されてしまった被害者の方々や、遺族の方々の無念は計り知れないことでしょう。

第一審の判決を不服とした被告側は控訴しました。

被告の弁護人は、「被告人は事件当時心身喪失の状態であった」とし、無罪を主張しました。

高裁では、被告は犯行時心身喪失ではないものの、統合失調症によって善悪の判断に支障があったとして、心神耗弱を認め、無期懲役としました。

被告側は、心身喪失を認められなかったことを不服とし、最高裁判所に上告しました。一方で検察は、「事案の重要性や遺族の心情などを踏まえたうえで、さまざまな角度から判決内容を慎重に検討したが、適法な上告理由が見いだせず遺憾だが上告を断念せざるをえない」として、上告をしませんでした。これにより被告が死刑になる可能性が消滅し、現在は無期懲役か無罪かを争っているところです。

判決について、妻子を殺害された被害者遺族の一人である加藤さんは、こうコメントしました。

「被告人にも心を殺され、さらに、検察官が上告を断念したことにより、司法にも心を殺されました。被告人はどんな荒唐無稽な理由でも控訴したり上告したりするそうです。遺族に上告する権利はないのでしょうか。」

加藤さんは、被害者にも上訴の権利を与えることを求めています。これについて、私は一応の同情は示します。

しかし、被害者に上訴の権利を与えることは、結論から先に言うと、私は絶対に反対です。

理由としては、

①まず上訴には手続きが必要であり、手続きについてよくわかっていない人もいます。

②また、そもそも「被害者なき犯罪」の場合は上訴を検察官だけしか行うことができなくなってしまい、被害者のいる犯罪と比べて刑の量定に影響を与えてしまいかねないです。

③また、家族のいない者が殺害された場合は、処罰感情を述べたり上訴をしたりする遺族がいないので、被害者に上訴の権利を与えることは、家族のいない者を殺害した場合の刑は軽くてもいい、と言っているも同然です。

④そして、あまり知られていないようですが、日本の殺人罪の50%は、家族間の殺人です。被害者の上訴権を与えた場合、家族間の殺人にはあまり機能しないでしょう。

被害者遺族の方々には誠に申し訳ない次第ではありますが、被害者遺族に上訴をする権利を与えることは、上記の4つの理由から、私は絶対に反対です。もちろん殺人犯を許せなどとは一言も言っていませんよ。殺人犯を絶対に許してはいけません。

今回の事件でお亡くなりになられた6名の方々のご冥福をお祈りいたします。



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