マニアック備忘録 ~新型財布の開発よもやま話~
こんにちは。HAKUです。
noteもYouTubeも…SNSは最近トンとご無沙汰してしまっていましたが、只今新作の二つ折り財布づくりに没頭(悶絶?)しています。
ほぼ完成というところまで来たのですが、実際に試作品を自分で使用してみると、どうしても気になってしまう点がポロポロと出てきます。
この財布はなかなか構造が面白いこともあって、ご要望があれば作品の販売に挑戦したいなぁなんて思っています。そうなると試作段階の小さな気がかりも見逃せません。
あともう少しというところでアレコレ悩むのはかなり精神的にも大変ではありますが…。今日のnoteでは、そんな試行錯誤の中でなかなか面白い学びになった事例をご紹介してみたいと思います。
ゲンコ型ホックを採用したけれど…
こちらの写真は「THK」というブランドのバネホックです。最近はレザークラフトショップでも取り扱うところが増えてきましたね。有名なホックメーカーのHASHI-HATOさんの高級ラインだそうです。
THKホックはHASHI-HATOさんのNo,1ホックよりも一回り小さいサイズ(No,8サイズと呼ばれて知るそうです)。プリムホックなど海外製品対抗の高級ラインということで、バネ部分の素材も一般的なもの(黄銅製)より耐久性も高い素材「リン青銅」が使われています。
たいがいバネホックの不具合はこのバネ部分の破損や摩耗ですから、バネ素材が高耐久なのはポイントが高いですよね。
ダボ側についても一般的なプレス加工品もありますが、こちらは写真の通り挽物ゲンコにも対応しています。小さなパーツですがTHKの挽物ゲンコに変えるだけでヤベー位に高級感マシマシです。
試作2号までは一般的なHASHI-HATOのNo,1サイズを使っていましたが、その後、販売を意識しはじめてからこちらのTHKホックの採用を前提に設計・試作を進めていました。
「ほほー、やっぱり挽物ゲンコ型のホックはカッコイイなぁ」なんて悦に入っていたのですが、実際に使用しているとアイテム全体に何だか違和感が…。
ちょっと言葉にしてお伝えするのが難しいのですが、完成品がどうも手に馴染まないというか、持ち心地が悪いというか…。形にはなっているけれどもプロダクトとして「これじゃない感」がありました。
どうしたもんだろうとアレコレと検証・検討してみたところ、どうやら原因のひとつは「カッコイイ!」とテンション爆アゲだったはずの挽物ゲンコ型のホックだったよう。
ちょっとわかりにくい写真ですが、こちらを御覧ください。
左側が挽物ゲンコを使ったもの。右側は完成後無理やりHASHI-HATOホック(No,1サイズ)に付け替えたもの。(縫製解いたのでコバが割れて革も傷だらけ…)
挽物ゲンコの方は結合部分に結構な厚みがあるのがお分かりになるでしょうか。それによってアイテムの隙間が広がって角が浮いてしまっています。
もちろん「挽物ゲンコはプレス品に比べて厚みがある」なんて事は取り付ける前から分かっていたこと。でも「たいして使用感に違いはナイだろう」くらいに思っていたのです。
まさかこれが「違和感」を生み出す要因となってしまうとは…。せっかく気に入っていたのに。
実際に結合部の厚みを測ってみた
HASHI-HATO No,1ホックと、THKの挽物ゲンコタイプ。両者の違いは具体的にどれほどのものなんだろうと結合部分の厚みを測定してみました。
取り付けたときに革の中に埋まらずに表に露出する部分の厚みを測ってみました。実測ですし製品の個体差も多少あるでしょうが、概ね以下のような感じでした。
HASHI-HATO No,1ホック…約2.4mm
THK No,8ホック(挽物ゲンコ)…約3.3mm
厚みの差:約1.1mm
数値的に見ると大した差ではなさそうですが、できあがったアイテムの仕上がり、手に持ったときの感触はだいぶ異なります。
以前、ATSUSHI YAMAMOTOさんが動画の中で「革小物の世界で1mmはかなり大きい」「0.5mmの違いでも視覚的・感覚的に違和感を覚える」とおっしゃっていたのを思い出しました。ホックの厚みも然り、という事ですね。
人間の感覚ってなかなかスゴイ。そう、1ミリはデカイ!
違和感の正体
そんなこんなで、私が感じていた違和感の原因が分かりました。
違和感の正体は、ホックの厚みが大きすぎるためにアイテムの「角が浮く」こと。それによって手に持ったときにイマイチ作品が手に馴染まなかったのだと思います。
確かスタジオタック・クリエイティブさんの書籍の中でも、「革小物は内側に向けて端や角を反らせるのがセオリーだ」と説明されていました。
確かにきちんと仕立てられた革製品は端や角が内向きに湾曲しているものが多い印象。見栄え的にもその方が良いでしょうし、今回の実感として手に持ったときの馴染み方、持ち心地も大きく違うと思いました。
特に今回のアイテムはホックのオス側・メス側ともにカードポケットに付く構造。固くて平らなカードが入ったポケット同士が結合する訳ですから、端をそこまで大きく湾曲させる訳にもいきません。
そんな場所に厚みの大きいホックをつけたら、より隙間ができやすく角が浮いてきちゃいますよね。そりゃ、持ったときに違和感を覚えるハズだ…。
それに気がついたことで、この「どうも収まりが悪いぞ問題」については、ホックの種類を変更することでなんとか解決の糸口が見いだせました。
実際に課題にぶち当たってみて、こういう「内側に向けて貼り合わせる」➞「見栄え・手馴染みが良くなる」といった、従来の製品に隠れた職人さんの「叡智」ってスゴイなぁと思いました。
きっと「エルゴノミクス(人間工学)」とかの科学・学問が誕生する前から手肌の感覚を頼りに培われて、セオリーとして作り手に脈々と伝えられてきたのでしょう。
うーん、奥が深い。こういう部分は大事にしたいなぁと思うと同時に、アマチュアの自分なんかがいっちょ前に作品販売なんてしていいのだろうか、という気がしてきてしまったぞ…。
ゲンコ型ホックの良いところ
ここまでの内容ですと、何だか「挽物ゲンコタイプのホックは厚みがあって悪い」と言っているように思われてしまいそうですが、決してそういう訳ではありません。
適材適所。今回はたまたま私の作るアイテムと相性が悪かったということ。
見た目について言えば私は挽物ゲンコタイプの方が高級感があって好きです。プレスで作られるものよりも肉厚ですし、中の空洞が少ない分ダボが潰れてしまうような変形・不具合も起きにくいでしょう。
今回、私の場合は「問題」となってしまった結合部分の厚みについても、通常はスペースが生まれて指がかかりやすい(フタが開けやすい)という「メリット」になるようです。
このあたりのちょっとマニアックな部分は「alt81」さんのWebサイトの記事を読むとすごく勉強になります。
今回の私のアイテムの場合、ホックの開けやすさという点については、縫い代部分に凹型の段差があるので指をかけるスペースは確保済み。
なのでホックについては「開けやすさ」よりも、余計な隙間を作らないための薄さ・コンパクトさが必要だったという事なんだと思います。
いやー、小さなパーツですがなかなか探求すると奥が深い。
最後に
いかがでしたか?
かなり四苦八苦している今回のお財布デザインの一例をご紹介させていただきました。細かすぎて伝わらないだろ?というところに結構悩んでいたりします。
プロダクトのセオリーから外れると違和感がある。良い素材も使い所を間違えるとデメリットになり得る。私にとってすごく大きな学びでした。何だか革製品についてひとつ知見を深めることができた気がします。
今は「生みの苦しみ」の真っ只中。なかなか理想を最終的な形にできず苦しい面もありますけど、そんな中でもこうした学びを得られるとググッとやる気が湧いてきますね。
さあ、もう少し頑張ってみよう。
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