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長沢芦雪と浮世絵師・鈴木春信が描いた“美人画”……@東京国立博物館

わたしはそう思わないのですが「奇想の絵師」と形容される長沢芦雪さん。なぜそう思えないかといえば、わたしはまだ長沢芦雪さんの絵を、きちんと観たことがないからかもしれません。

そんなふうに思っていたら、描かれた2人の女性の絵が、目の前にありました。東京国立博物館(トーハク)の本館2階でのことです。

へぇ……これが長沢芦雪さんが描いたものなのか。

《桜下美人図 A-12437》
長沢芦雪筆|江戸時代・18世紀|絹本着色

解説パネルには「円山応挙門下の鬼才、芦雪の数少ない日本美人画の優品」だと記されていました。「匂うような美の表現」とまで記されています。トーハクの解説パネルとしては、解説を記した人の感情が表現された解説文ですね。通常の解説パネルで、こうした表現をみることはマレです。

タイトルに《桜下美人図》というように「美人画」と記されている絵は多いです。特に近世以降……浮世絵師が描いたものに、そういうタイトルが多いですよね。わたしがひねくれものだからなのか、「美人画」と書かれていると、「え? そうかなぁ……わたしの好みではないなぁ」なんて思いがちなのですが、ほかの鑑賞者の人たちは、そういうことは思わないものでしょうか。

「豪華な装いの若い娘と侍女。生彩な目、精緻な髪、眉、着物の文様の入念な描写がみどころです」とあります。とにかくこの解説文を書いた人は、長沢芦雪が好きっていう感じがしますね。

「右袖前に舞い落ちる一片の花びら。右下に蝶3匹を舞わせ、気品と動感を生んでいます」と書かれているのを読んではじめて、もうすぐ女性の手のひらにひらりと落ちそうな一片の桜の花びらが描かれていることに気が付きました。

《呉美人図 A-1173》部分

こちらも長沢芦雪の美人画……《呉美人図》です。トーハク所蔵ですが、見たことがあったようななかったような……。こちらの美人は、ストンッと美人だなって思えます……わたしの好みの話で、絵の上手下手とは無関係ですけどね。長沢芦雪さん、やっぱり評価が高いだけあり、とても上手な人だと感じました。

と思ってWebをさまよっていたら……こちらの《呉美人画》が、九州の国立博物館で開催されている特別展『長澤芦雪…若冲、応挙につづく天才画家』へ出張中でした。この特別展、とても行きたいですね……芦雪のすごい作品がたくさん見られます。

■鈴木春信の美人画

長沢芦雪さんが生まれたのは江戸時代の1754年のこと。それよりも20年も“前”に生まれているのが、浮世絵師の鈴木春信さんです。

トーハクの2階は、おおむね反時計周りに部屋を回っていくと、時代ごとの日本美術が見られるよう構成されています。1室が縄文・弥生から古墳、飛鳥や奈良時代で、2室は国宝室。3室が平安から室町時代までで、4室が茶の湯、5と6室には平安から江戸時代の武具があり、7から8室が安土桃山から江戸時代の美術品です。

長沢芦雪さんをはじめ、前回noteした与謝蕪村さんも市河米庵さんも、松花堂昭乗さんなんかも、主に8室の「書画の展開―安土桃山~江戸」というコーナーに展示されています(屏風の場合は7室のこともあります)。そうやってトーハク2階を巡っていると……困ってしまうのが10室の「浮世絵と衣装―江戸(浮世絵)」なんですよね。最後の部屋です。

例えば今回であれば、8室で長沢芦雪さんを見た後に10室で鈴木春信さんの作品を見るわけです。勝手に、長沢芦雪さんの方が鈴木春信さんよりも歳上だと思ってしまうんですよね。実際には20歳以上も鈴木春信さんの方が歳上なのに。

《下駄の雪取》
鈴木春信(1725?~70)筆|江戸時代・18世紀・中判錦絵
A-10569-109

ということで、なんとなく今回展示されていた与謝蕪村や長沢芦雪を中心に、ジャンルにあまり関係なく、関連がある人もない人も、同時代を生きた人たちの生没年を図にしるしてみました。

与謝蕪村と伊藤若冲は同世代……ってなんとなく知っていましたが、浮世絵師で美人画を得意とした鈴木春信とも10歳くらいしか差がないんですよね。この鈴木春信や(葛飾北斎の師匠である)勝川春章などが浮世絵1.0世代といったところでしょうか。その後に、京都では円山応挙が、江戸では歌舞伎の中村仲蔵が生まれる。その約15年後の1750年前後には、江戸では太田南畝や蔦屋重三郎などが出てきて、少し遅れて喜多川歌麿や、さらに葛飾北斎などが現れて、町人文化が花開くわけです。その時代に江戸の町人絵師ばかりが活躍していたかと言えば、さにあらずで、狩野養川院もいたし、京都では呉春や長沢芦雪も生まれています。

ちなみに尾形光琳や本阿弥光悦などは、もう少し前に活躍していましたし、酒井抱一などは、もう少し後に活躍した人たちです。

ということで、鈴木春信さん……。トーハクには、この人の作品が何枚所蔵されているんだろう? っていうくらいに毎回多くの作品が展示されています。今回も5〜6枚は展示されていたかと思います。

葛飾北斎や喜多川歌麿、歌川広重などに目が慣れていると、この浮世絵1.0世代の人たちの作品は、かなり地味に映ってしまい、あまり「おっ、これは!」となることはありません。ただし今回の《下駄の雪取》は、「へぇ〜、なんかいいかもなぁ」と思いました。なぜでしょうかね。女性がわたしの好みだったこともあるでしょうけど、傘に積もる雪を見てみると……ちゃんと雪が積もっていたんですよ。これって絵師の技というよりも彫師や摺り師の技量なんでしょうけど……きれいだなと感心しました。

ということで、今後は鈴木春信さんの作品もしっかりと鑑賞していこうと心に決めたのでした。

↓ 以前noteした菊川英山や歌川豊国の作品も引き続き展示されています。わたしは長沢芦雪の美人よりも、これらの江戸美人の方が好みだなぁ……なんて書いたら、コンプラ違反とか言われるんでしょうか? コンプラってよく分からないです。

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