白痴太郎

白痴太郎

最近の記事

性の物質化と圧縮について。

男が女に抱くあらゆる感情を圧縮したものがTENGAだ。 女を完全な道具としてしまいたい欲求が、男の性根の深くで長い時間をかけて圧縮されたのだ。 圧縮とは簡略化であり、分解と再構築による解釈の余地そのものであり、究極の記号化だ。 古くからある仏教が、悟りの複雑性を梵字ひとつに圧縮してみせたように、全ての名のない欲動と感動には、圧縮による記号化という果てがある。 電子メールに添付されたZIPファイルが解凍されるように、水分が与えられた乾燥食品のように、圧縮された記号は何ら

    • つめたいひがんばな

      「おじさん、どうやってんのそれ」 声、瞬間、刺す。 目の前の若者、口の白い息、蔑みの声。 私の中で何かが立ち上がり、冷たい青に濡れ固まった絵筆を振りかざす。 若者の目で青と赤が混じると、淀むシアンの河流が流れた。 「ぐふ」とだけ鳴いた若者は目を抑えて倒れた。 観光地の中心で地べたに尻をつき、段ボールの机に向かって闇雲に絵を描いていた。 眼前に聳える銀紙を固めたような下品な塔や、この地で生まれ育った昭和のスター達、街を縦断する川に浮かぶ屋台船の温かい明り、ここにゆかりのあるもの

      • 逃避、創造。

        多くの場合、私にとっての創作の根源は現実逃避である。 規定された現実という場から逸脱し、規定とも規則ともつかない曖昧な場で勤しむ自慰である。 マイナス方向の自慰とも言える、苦しみによる快楽、あるいは痛みを伴う排泄だ。 全く矛盾する二つの概念が重なり合う時、創作は成立するように思える。 人類が何かを作ろうとする時、それによって壊される対象が存在しなければならないからだ。 生命、概念、枠組み、法、波長、空気、流れ、意味、どれでもよい。 我々は、我々以外の何かを破壊し、作り替えるこ

        • 私がiPhoneに保存したのか、      iPhoneが私を保存したのか。

          霧のようにはっきりとしない音が耳元で揺れている。 文字通り揺れながら鳴るそれは、見覚えのある形で発光しているはずだ。 水分の分泌がようやく始まった目元を擦りながら、うるさく揺れる光を見ると、知った名前が白色の文字で液晶に浮かび、着信を知らせている。 iPhoneには所有者の社会活動が保存されている。 ボタン一つで睡眠する上、常に電子的活動状態であるこれは、人間のスリープとは違った形で眠っている。 よって、任意の時刻や特定の条件で発光しながら鳴くことができ、睡眠中の所有者はその

        性の物質化と圧縮について。

          剃刀、薄膜、人間性

          作品は、作品としてしか存在の仕方を知らないまま存在しはじめたものだ。 作品は、何よりも実在している。 我々の仮定的実在性の微かな影は、あれらの真っ白な光によるものだろう。 自身の仮定を、実在へと具現する営み、これを芸術という。 自身の仮定を、補強・拡張するものを具現する営み、これを工学という。 その仮定とは、即ち人類の自我である。 非質量・非実体の自我を、質量・体積の具現の場へ産み落とそうとする時、自我は必然的に分裂する。 見る自我と見られる自我とに裂け別れるのである。 主

          剃刀、薄膜、人間性

          赤子と紙幣

          友人の幼い息子が、私の財布から紙幣を不器用に持ち上げ、その柔らかく小さな口に放り込んだ。 邪性のない、おおらかな粘液の海に、乾き疲れた冬の木の葉が沈んでいく。私の膝に、彼の軽い重みが乗って、感動的に温かい。 友人は、一万円札を咥えた息子を叱っている。 言葉も通じないほど幼い子に、お金というものの価値を、物理的かつ概念的な、その深い汚れを、そして他人のものであるという所有の概念を、言葉にして浴びせている。 私はこの幼子の小さな頭から発せられる熱を感じながら、その言葉達の実感のな

          赤子と紙幣