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シチリア・サマー|Fireworks

ひたすら心痛。

美しいシチリアの情景を目にしながらも、終始ヒリヒリと感じる不穏な空気で心が痛かった。
これは実話をもとにした作品。

この「実話」も、作品の予告編すら結末のネタバレになってしまう(のもあった)ので、純粋に何も知らず見たい方は本当に何の前知識なしに見てほしい。

あらすじとしては、1982年のシチリア島が舞台。17歳と16歳の青年ジャンニとニーノが偶然出会い、友情を育む。シングルマザーとその愛人のもとで暮らすジャンニと、愛情深い家庭に囲まれて暮らすニーノは、対照的な環境で育ちながらもお互いに惹かれて友情が次第に変化していくことに気づく。

今でこそ、多様性が認知され性的マイノリティに関するトピックも数年前と比べると扱われやすくなってきたけど、国や地域、また宗教によっても捉え方に大きなギャップのあるトピックと言える。
本作の舞台は1982年、そしてカトリック信仰も強く保守的なシチリアの町では「同性愛者」の話題はなかなかのタブートピック。
理解をする方法を知らない家族や周囲の人々の複雑な眼差しや、当人2人のまだ定まらない定義にモヤりながらもお互いを想う気持ちを抑えきれない純粋な感覚がとにかくヒリヒリもんなのである。



ここから先はネタバレ含む語らいなので、見終わった方はどうぞ。






この作品は、実際にシチリアで起こった「ジャッレ事件」を元にした映画。
ジャッレ事件は1980年にシチリアで若者2人が犠牲になった事件で、事件直後に多くの若者が街頭に繰り出して性的差別に対する抗議を行った。このムーブメントを発端としてイタリア最初にして最大の同性愛者支援団体「ARCIGAY(アルチゲイ)」が設立された。

私はジャッレ事件については作品を見終わってから調べたので、なんの予備知識もなくふらっと本作を見たのだけど
映画紹介のあらすじに「実際にあった事件を元にした」と書いてあったため、事件というからにはまぁ何かしらよくない終わり方なんだろうと予想しつつ。
シチリアの美しい情景、そして純粋な青年達に降りかかる災難に心痛が続いたけど、最後はなんだか前向きな方向に進んでいるようで一瞬ホッとしたら、最後に心を一刺しされた作品だった。

同性愛を取り上げた作品として有名な、これまたイタリアが舞台の“Call Me By Your Name(邦題:君の名前で僕を呼んで)”と比べると、家庭や周囲の温かさがなくジャンニがひたすら不便でならない。
一方のニーノは暖かい家族から愛情たっぷりで育てられて、ニーノめちゃくちゃ良い子やし
仕事を真面目に頑張るジャンニもニーノの家族から優しくされてほんまよかった…
と思ってたら、あくまでそれはそれ、これはこれ、の手のひら返しがエグかった。

ちなみにジャッレ事件の犯人はあがらず、真相は不明のままだという。
被害者の1人の甥が一度容疑者として逮捕されたが、釈放されている。
本作の最後にニーノの甥が狩猟で初めてウサギを仕留めるシーンがあったのは、この伏線をにおわせているのか?とか。

ニーノの甥トトは、ニーノを兄の様に慕い独占したかったのに、ジャンニが現れてからというもの、ジャンニとつるんでばかりになって構ってもらえなくなったので終始むくれていたし…2人が会えなくなり、やっとニーノが戻ってきたと確信してトトが喜ぶシーンもあり、そこからのニーノがまたジャンニのところへ行ってしまった…
というのはなかなか決定的な動機にもつながる。

という憶測があったかどうかは定かじゃないけれど、見終わって数日は色々と考えさせられる作品だった。

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