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ばくよろLINEと谷口農園と2021シーズンのアルビレックス新潟とわたくし

序章として「ばくよろLINE」についての解説から始めたい。
サッカークラブのSNS戦略は様々である。従来の新聞・TVなどを用いた広報、自社サイト、メルマガ、Youtube公式チャンネル、そして令和の時代なのでTwitterやInstagramなどのSNSも広報戦略には欠かせない。客層の新規開拓に加え、既にSNSの公式アカウントを余さずフォローしている既存客(サポーター)を如何に満足させるかも現代のスポーツクラブ広報部門の手腕であるといえるだろう。
さて、広報戦略とかそういったマーケティングの視点とは全く無関係に独自の狂気を自家発電し、既存客たるサポーター内でカルト的な人気を誇っているのが、我等がアルビレックス新潟が「勝った時だけ」公式LINEに配信されるテキスト、通称ばくよろLINEである。当方登録したのが2019年からだったので起源は分かりかねるが、かねてよりサポーターにこのLINEが届くたびに「ばくよろ(爆発的に喜ぶこと)www」「広報部の人が酔っ払って書いてる」「むしろ酒以外をキメている」「控えめに言って怪文書」という不穏なツイートが一気にTLを席巻する現象が起きており、気にかけてはいたのだ。癖の強い絵文字、謎造語、選手の言われよう、どうかしている言語感覚、新潟県民も分からない強烈な新潟弁。最後はYES YES YESで強引にシメる。無料でアクセスできる既存客へのサービスとしては過剰、いやこれがサッカークラブの提供するファンサービスなのかもよくわからない。繰り返すがこのLINEが届くのはチームが勝利した直後だけ。勝ち試合直後の浮かれたサポーターの脳内を言語化すると多分こうなる合法酩酊体験、それがばくよろLINEだ。

本稿は、アルビレックス新潟の2021シーズンの近年稀にみるファンタスティックで美しいサッカー(戦術の話は出てこない。こういったことはその道の先達に任せたい)、地獄の昇格争いとその後、サッカークラブのコンテンツ戦略、ある選手の歓喜と絶望と栽培と収穫、そしてそれらに揺さぶられ続けたとあるサポーターことわたくしの1年間の記録である。合間合間にばくよろLINE等がちょっとずつ挟まる。選手・スタッフの氏名は敬称略とさせていただく。

スーツケースのカギが開かずに慌てた男は👜冷静にゴールの鍵を開けた👛

2021年初頭のわたくしは推し選手(渡邉新太)大分へ完全移籍の報を受けて分かりやすくやさぐれていた。思えば2020シーズンは散々な年だった。クラブ初のスペイン人監督アルベルト・プッチ・オルトネダが就任、開幕戦でバカ勝ちして未来は明るいぞ!スペインの風吹きまくり!と思ったらコロナ禍で第2節から数か月リーグ戦が中断、やっと調子出てきた矢先に推しの負傷長期離脱、外国籍選手の不祥事、社長の辞任、そしてびっくりするほど勝てないリーグ終盤戦。散々だった…とは思うが楽しいシーズンでもあった。毎年こう言ってるし次に来るシーズンには過去のどの年よりも明るい未来しか見えない。サポーターは単純な生き物である。

私事で恐縮だが当方、1月~4月は本業の最繁忙期でありサッカーのプレシーズンの情報を追える気力体力が毎年尽きている。そんな中でも寝る前に布団の中で公式モバイルサイト(以下「モバアルZ」)のキャンプ中のトレーニング動画を眺めたり週末のトレーニングゲーム中継を観たり、新加入の選手たちを下の名前で呼ぶ関係性を一方的に自分内で構築したり、千葉和彦のYoutubeチャンネルをどういう顔で観たらいいのか悩んだりしていた。

繁忙期の合間を縫って、開幕戦アウェイ北九州戦はDAZNで観ることができた。前半数分でダイレクトパスが気持ちよく繋がり、今季初得点はまさかの千葉和彦である。持ってるな。新加入選手も順調に結果を出し、鈴木孝司のゴールを観た時には自然に「コージ!!!」と叫んでおり下の名前で呼ぶ関係性を一発で構築できた。移籍の噂が流れながらも最後の最後に契約更新、同じ日にスーツケースの鍵が開かないまま春季キャンプに突入していた本間至恩もゴールという結果でもってその選択が間違っていなかったことを証明した。スマホの画面の中にしか存在しなかった新しいチームの新しいサッカーが、一気に実像を伴って目の前に現れたような気持ちになった。

第2節の長崎戦はホーム開幕戦。高木善朗のゴールで1点リードで迎えた後半、本間至恩がイエローカード累積で退場。わかりやすく危機が訪れたが不思議と負ける気はせず、これは残り30分死ぬ気で守って勝っちゃう展開だな…と感じたし実際そのとおりになった。シーズンが終わった頃には「あの試合がターニングポイントだった」と言えるゲームに間違いはなかったがそもそもまだ2連勝しただけである。早すぎるだろターニングポイント。

第3節アウェイ山口戦、まだまだコロナ禍に陰りは見えず緊急事態宣言下の県外移動もままならない状況、友人宅で5人以下のマスク会食を楽しみながらDAZN観戦。替えが効かないと思われていた本間至恩のポジションに入った星雄次は速攻でゴールという結果を出した。前半のボール支配率70%と相手の3倍近いパス数432、本当に意味が分からない。後半は順調に調子を落とし1点差に詰め寄られたが、反省点を残しつつ勝点3を奪取。開幕3連勝は22年ぶりだそうで三戸舜介もまだ生まれていない。大いに浮かれる我々だが落ち着いて考えよう、J2のシーズンは長いしまだ3連勝しただけである。

第4節ホーム群馬戦。10年ぶりに新潟に凱旋した千葉和彦の縦パスがいつ入るのかをうずうずと見守る快感たるや。鈴木孝司はわたくしの大好きな「センターフォワードらしいセンターフォワード」タイプなので、神ユニ(その日MOM級の活躍を見せた選手の背番号がギラギラしたプリントで入ったレプリカユニフォーム。レプユニなので決して安くはないが勝利後の浮かれたサポーターが勢いで注文するのでだいたい売り切れる)が出ると分かった瞬間に軽率に注文した。当方アルビレックス新潟の箱推しなので全選手を軽率に推していきたい。アイドルオタクあるあるで、推しが脱退なり卒業なりした後にしばらくの期間、特定の推しを作らない箱推しを自称する現象があるだろう、当時のわたくしはまさにあれだった(あと高宇洋の神ユニも割と軽率に買った)。手持ちのユニは2着になったがまだ4連勝しただk…4連勝?マジで!?

第5節ホーム東京V戦。結論から言うと7-0で勝ってしまった。開幕から絶えず磨き上げられてきたパスワークで相手をハメたなと思う瞬間があり、ボールロストからのリカバリーも爆速である。これは対ヴェルディ初勝利あるんじゃね?などと思っていたらそれどころではなかった。高木善朗は完全にゾーンに入っており手が付けられないほど躍動していたし島田譲のミドルも炸裂、本間至恩、鈴木孝司に続いてルーキー三戸舜介も初ゴール。相手GKがあからさまに心が折れているのが傍目にも明らかで何故かこちらが辛くなる。7点取られる試合は何度も観たけど7点取ったのを目撃するのは当然初めてで、6点目あたりから喜び方がわからなくなっている。本当にこれが我々の知っているアルビレックス新潟なのか。5連勝だ、文句なしの5連勝だ。あかん昇格してしまう…!

幸せすぎて🥺ドーパがミンミン🍀

昇格してしまう~

この調子で全ての勝ち試合と全てのゴールを書き連ねていきたいがそういう訳にもいかないので以下は駆け足となるが、その後も引き分けを挟みつつ5月上旬までアルビレックス新潟は一度も負けなかった。ほぼ毎週のように神ユニが発売され、毎週のようにどうかしているLINEが届き続けた。新加入の選手は一人残らず何らかの結果を出しているし、既存戦力も新しいサッカーの中で輝きを増していく。アルベルトは一体このチームに、今年の選手にどんな魔法をかけたんだい?(勿論戦術の浸透と個人の技術向上に根差したサッカーであることは間違いないのだけど、魔法と言い切った時の快感があってつい言っちゃうよね) ポゼッション率の高さはそのままチャンスシーンの多さに繋がっており、正直J2でこんなに強いアルビレックス新潟を観た記憶がない。いくらなんでもこのままリーグ戦全勝はしないだろうけど今後失速してしまったらどうしよう、替えの利かない選手が負傷で長期離脱したら、考えたくないけど感染者がたくさん出てしまって試合ができなくなったら、そんなことになったらわたくしのメンタルはもたないに違いない。シーズンが終わる頃にはどうなっているか分からないけれど、J2降格から3シーズン分の鬱屈した感情が、辛かった敗戦の数々がすべて報われる瞬間が必ずやってくるんだと信じて疑わなかった。

サッカーそのものとはあまり関係がないけれどサッカーカルチャーにはまあまあ関係ありそうな話をひとつ。序章でクラブの広報・マーケティング戦略について簡単に記載した(無論これはサポーター目線に過ぎない)が、チームが勝ち続けていると大体のプロモーションが良い方に作用する。これはクラブ自体の広報だけではなく、各種SNSにおける選手・スタッフの個人アカウントも並べて観ると今のアルビレックス新潟のサッカーが立体的に見えてくるということもある。アルベルト監督が欧州系の小粋なジョークでファンにいいところをアピールすれば、高木善朗は毎週恒例の平日夜のインスタライブで踏み込んだサッカー談義とファンサービスを両立させる。勝てなかった試合の翌日でも、堀米悠斗や島田譲が「もっと強くならなければ」といった言葉を発信する(普通に考えれば勝ち星を落とした日のアスリートなんて悔しさで一杯のはずだが、伸びしろがあるからこそ前向きな言葉を発信できたのだと想像する)。やはり若い世代はSNSの活用法を心得ているな、と思ったがもっと若い世代だと一回りして「やらない」まである。やらないのも勿論自由だ。アスリートから一般人までみんながみんな適切なセルフプロデュース能力に長けている訳ではないので。

適切なセルフプロデュースが得意ではない選手がいたとして、ではそういった選手のパーソナリティを誰がプロデュースする? J1だったり首都圏のクラブだったりであればメディアがいい感じに選手の素顔を紹介(時に誇張)してくれることもあるだろうが、アルビレックス新潟はしがない地方のJ2クラブだ。だが、ローカルアイドルが独自の戦略で首都圏を経由せず全国にファンを増やしていくのと同様に、地方クラブにも独自ルートで選手というコンテンツを確立していく方法はある。コロナ禍の煽りで多くのファンサービスが中断に追い込まれている現状、そこまで出さなくてもいいのではレベルで選手・スタッフのパーソナリティを開陳していくモバアルZの存在は貴重だった。むしろ限られた人にしか提供されない直接のファンサより、有料会員登録しているサポーターみんなが観れる動画コンテンツや広報スタッフしか知らないエピソードの強味というものもある。若い男子の集団なので若干荒っぽい(もっと言えば映像や文章として出しにくい)パーソナリティもあるだろうけれど、モバアルZでは絶妙の匙加減で「出しても良い」部分をフィーチャーしていたと思われる。プレイの魅力が前提にあるのは当然として、サイドからがんがん中央に切り込んでいく期待の新戦力藤原奏哉、その彼が日々自炊でこさえている味噌汁の具情報、要ります?と思うだろうがこういったエピソードからしか得られない栄養も間違いなくあるだろう(あるんだよ!)。こういうのはやりすぎると「そんなことより本業を」と苦言を呈する人は絶対出てくるしあまり擦り過ぎると陳腐化するのだけれど、なにぶん4月も5月もチームが上位をキープ、一人残らず内容の伴った結果を出している以上文句のつけようがなかった。希少な栄養を遠慮なく摂取した我々サポーターが、今年のアルビレックス新潟を疑似ファミリーと見做すのにさほど時間はかからなかった。少々主語が大きすぎたが、実際わたくし周囲のサポーター仲間は、老若男女(ろうにゃくにゃんにょ)問わずこの疑似ファミリー感をとても楽しんでいたと記憶している。選手のパーソナリティを前面に出したコンテンツビジネスはこの時点である程度成功していたのだ。

歯白満月歩行男の日本海キャノン✨

前章で「一人残らず内容の伴った結果を」と述べたが、チームが5連勝だ13戦負けなしだとビクトリーロードを驀進していたシーズン序盤、なかなか個人として結果が出せていない新加入選手が一人いた。前年度のJ3得点王、ロアッソ熊本から完全移籍で加入の谷口海斗である。

前々章でも述べたとおり当方プレシーズンの期間中に新加入選手の特徴などを把握する時間と心の余裕がない。なので公式戦で顕わになるプレイがその印象の全てとなる。開幕から途中出場が続いた谷口海斗のフォワードとしてのインプレッションは「こんなもんじゃないな??」であった。センターフォワードとして周りを活かしながら自分の得意な形に持ち込んで冷静にゴールを狙える鈴木孝司とは明らかに異なるタイプで、DFラインの裏に抜ける形のゴールを狙っているらしきことは分かった。しかしなかなか結果に結びつかない。4月中旬になって遂に先発出場のチャンスが回ってきたが、鋭いシュートは放てどもキーパー正面だったり枠外だったり、とにかくもどかしかった。そしてわたくしの直感が「これは矢野貴章(現・栃木SC)の系譜だ」と告げている。そこそこ古参のアルビサポなら感覚としてご理解いただけるものと思うが、期待されて移籍してきた選手のシュートがとにかく入らない、良いプレイは出来ているのだけどとにかく結果に結びつかない、かと言って期待することをやめられない。そう、2007シーズン序盤の矢野貴章である(あと2011年の川又堅碁)。こういう選手はとにかくサポーターに偏愛されがちであることを我々は肌感覚として知っている。初ゴールを決めたらいろんな意味でハネそうなところも。なんてったって「こんなもんじゃない」のだから。

そんな谷口海斗の今シーズン初ゴールは第10節アウェイ愛媛戦。ゴールラインぎりぎりで星雄次が折り返したボールを頭で綺麗に合わせてゴールネットに叩きこんだ。DAZN観戦だったが叫び声が出た。この後三戸舜介の退場、本間至恩の美しすぎるダメ押し弾、三戸舜介の胴上げなど叫び出す瞬間には事欠かない試合であった(胴上げなんで?)。これで勢いのついた谷口海斗は次節ホーム千葉戦で2ゴール。2点目がまた白眉で、本間至恩の鬼キープ鬼ドリブルから相手DFの裏に抜けてパスを受け、一人かわしてニアハイにズドン。ゴールパフォーマンスはムーンウォーク(マイケルジャクソンのアレではない、数日前にモバアルZで披露されていた斬新なムーンウォークだ)。これはハネるな、の予感から僅か2週間でハネた。思った通りこんなもんじゃなかったのだ。シーズン毎の選手の入れ替わりでポストシーズンはメンタルがずだずだになるが、こういう新しい出会いもあるのでサポーターはやめられない。

チームは5月中盤に少し足踏みをしたものの相変わらずの上位キープ。谷口海斗も順調にゴールを重ねておりその好調はチームの好調とも重なっていた。とあるフォロワーさんが始めた「海斗のゴールを祈願して森永のムーンライトクッキーを食べる」願掛け習慣、真似して始めたところ食べた後に本当にゴールが決まるということが何度もあり、普通に考えたらムーンライトクッキーが凄いのではなくて谷口海斗が凄いという話だが、この願掛けを辞めたらゴールが止まるのではないかと思うと怖くてやめられなくなった。因みにムーンライトクッキー一袋2枚入りで84kcal。ゴール祈願と中高年の健康トレードオフである。健康なんか要らない。なんとかしてこの愛すべきストライカーと愛すべきチームをJ1へ。

めっちゃ猫背(6/5アウェイ甲府戦)

🍅いっぺごとできっといいねぇ🍆

5月下旬だったか、高木善朗のインスタストーリーで拝見した一枚の写真。クラブハウスの駐車場と思しき場所の一角でクラブスタッフが土を掘り起こしており、そこには「谷口農園」の看板が。有料会員サイトモバアルZの2021シーズンNo.1キラーコンテンツ、谷口農園の序章であった。

有料会員サイト故に画像や動画の切り出しは憚られるので、谷口農園については文章で簡潔に説明する。アルビレックス新潟クラブハウス玄関前に登場した小規模な家庭菜園。植えられた苗はトマト、ミニトマト、パプリカ、ナス(長いのと丸いの)。朝晩の水やり係は谷口海斗。すくすく育つ野菜。水を撒く谷口海斗。いじるチームメイト。収穫する谷口海斗。食べるチームメイトとクラブスタッフ(たまに社長)。そういう全7回の動画コンテンツである。何もかもがおかしいだろう。どう考えてもサッカークラブのモバイル専用サイトの一コンテンツにこれがある意味が分からない。だがその映像には抗えない魅力があった。「カイトマト絶対売れんやろ」「畑で結果出すなピッチで結果出せ」「水やりじゃなくてパスにこだわってよ」「カメラ回ってる時だけやってる感出してる」「それ枯れてね?」とチームメイトから続々といじられ、怒るでもなくニコニコしながら野菜と対話している谷口海斗、癒し要素しかない。加えて通りすがりに声をかけて行く他の選手達もそれぞれにキャラが立っていた。不穏なBGMと共に現れて全てに突っ込みを入れる堀米悠斗、いつ食べられるのか聞きにくるゴンサロゴンザレス、たまに手伝う星雄次、手伝わない高宇洋。雑草を取る取らないで20~30代の男子集団が議論を交わしているのもまあまあおかしいが、レジェンド田中達也が「雑草を取らない令和の農業」について持論を展開しているのも本当に意味がわからない。先に選手をコンテンツと見做したサッカークラブのマーケティング戦略について思うところを述べたが、畑仕事をやらせるという方向性は想像していなかった。個人的には変な仮装をさせて炎上リスクに晒したりするよりは余程健全だと思う。サッカーには直接関係ないと思いきや、谷口海斗本人が「農園やってるといいことしかない、視野が広がるし間のスペース見れるし」と述べており実際この期間はチームも本人も絶好調だったので、もしかして農作業は現代サッカーにおいて有効?という気がしてきた(本当にそうだったらガチの農業部門がある福島ユナイテッドは今頃J2昇格だ)。あとトマト育てて見れるようになる間のスペースとは一体なんなのか。

なんもしてないのになんかフォロワー増えててワロタ

話をリーグ戦に戻す。ここからは極めて個人的な話を交えていくが(ここまでも十分個人的だ)、コロナ禍の煽りで去年アウェイ遠征に殆ど行けなかった反動で、緊急事態宣言が出ていない地域のビジター席が用意されているアウェイには躊躇なく出かけるようになった。車でスタジアムに行ってどこにも寄らずに帰れば感染リスクも最少。車で片道5時間程度の地域であれば日帰りも可能。一人で出掛けると交通費も馬鹿にならないが、2020年の行ったつもり貯金がある(今なら言えるが、そんなものはない)。アウェイなのでちょっとした贅沢としてメインスタンドに席を取ることが多く、ピッチ上だけでなくピッチ外の、具体的に言うとベンチメンバーのアップの模様などを観ているといろいろ発見がある。一例としてその時スタメンではなかった阿部航斗とロメロフランクのベンチからあげる声のデカさ、途中出場の選手を送り出す瞬間のぴりっとした空気感など。2020年のステイホーム期を経由して配信文化にすっかり順応した気でいたが、やはりカメラに映らない部分まで実感体感できる分、配信はライブのオルタナティブにはなり得ないのだなと改めて感じた(感染拡大地域にお住まいで行きたくても行けなかった時期を経験した方々には申し訳なさもある。DAZN観戦もあれはあれで良いものだ)。

これもわたくしの悪癖なのだけど、煮え切らないホームゲームを目の当たりにした直後、煮え切らなさの代償として次節の無理めアウェイに発作的に参戦を決めがちだ。シーズン当初は圧倒的なポゼッション率と繋ぐ意識の高さで向かうところ敵なしだったサッカーがだんだん対戦相手に対策され始めて、そう簡単には勝点を奪うことができなくなりつつあった。第20節ホーム水戸戦、秋葉監督の策略にまんまと嵌められてスコアレスドロー。タイムアップの直後には既に「行くしかねえなエコパ」という気持ちになっており、帰宅後はまあまあネガティブな言葉が飛び交うSNSから離脱して静岡への経路と最寄りのさわやか(炭焼きハンバーグ)を深夜まで検索していた。「応援するしかねえだろ!俺達がついてるぜ!」などという大それた動機ではなく、単純に旅の予定を立てていると気が紛れるのである。

第21節アウェイ磐田戦。当時2位の磐田との対戦は所謂6ポイントマッチ。新潟から6時間あれば行けるはずが豪雨の影響で東名道が通行禁止になっており、12時間かかってエコパスタジアムに到着したのはキックオフ1時間半前。この時点でだいぶ擦り減っていたが試合が始まってみれば前半すごい勢いで3失点、しかも隣席はネガティブな独り言を言うタイプのご老人でメンタルはごりごりに擦り減り、ヤケになってムーンライトクッキーを貪る。長期の負傷離脱から復帰した福田晃斗が途中交代で入ってからボールが格段に回るようになり、ロメロフランクのPKで1点返したがいまだ劣勢。貪り食うムーンライトクッキー。口の中パッサパサ。これは今日は終わったな、次の試合に向けて切り替えだな…と内心の折り合いをつけた終了間際、千葉和彦から通される縦パスを中央に切り込んだ堀米悠斗がアウトで前方へ、これに反応した谷口海斗がくるりと体を反転し、左足で放った鋭いシュートがゴールネットを突き刺した。多分多くのサポーターの胸中にも刺さったと思われたしわたくしにも刺さった。谷口海斗に落ちた瞬間であった。一瞬で試合の空気を変えることができるストライカー、そういうものに我々は滅法弱いのだ(まーた照れ隠しで主語を我々にしようとしてる~)。そして後方から丁寧に、時に鋭くボールを繋いで攻撃していくスタイルはやはり美しく、敗戦はしたもののこのサッカーで、このメンバーで昇格しなければならないという気持ちを新たにしたアウェイの夜だった。あと翌日の新潟への帰路は8時間を費やし、しばらく自走遠征は懲り懲りだよ~往復20時間あったら四国とか行けるよ~という気持ちも新たにした。

二度と来ないわよ!(多分また来る)

チームは五輪中断前のリーグ戦を1勝1分けとまずまずの成果で折り返し。首位は譲ったがまだまだ上位の磐田・京都には追いつける勝点差だった。中断期間はモバアルZのオフシーズン特集を楽しく眺め、大好きなNegiccoのKaede嬢が寄稿したコラムに「谷口農園を応援しています」の一文を見つけて分かる!分かるよかえぽ!!と小躍りするなどして過ごした。なおこの期間の格段にいい話といえば、五輪スケートボードで堀米雄斗選手が金メダルを獲得した直後にアルビレックス新潟所属の堀米悠斗のツイッターのフォロワーが1万人増えたエピソードである。1万人は増えすぎだと思う。

嫌な流れはもんじゃくってぶちゃったろ🌧

中断期間明けの8月9日第24節ホーム大宮戦。当方この日は外せない用事があって欠席する予定だったのだが、徳島所属の河田篤秀が大宮に完全移籍しかも対新潟戦から出場濃厚と聞いて非常に取り乱しており(※解説:筆者は河田篤秀の個サポ…というより様子のおかしいオタクであるため、その動向にはマイチームと同じぐらい動揺する)、更にはこの日「谷口農園手ぬぐい」「カイトマト」(ミニトマト6個700円、破格に高い)も物販に登場するという。なんなんだよサッカークラブのグッズで農園手ぬぐいとミニトマトってそんなの完全に買うだろ。結局外せない用事は最後だけ切り上げて後半からビッグスワンに駆けつけた。カイトマトは抽選に外れた。

後半の飲水タイム前ぐらいにスタジアムに到着し(河田の交替前には来れたが正直よく覚えてはいない、ほぼ反対サイドだったので)、島田譲のゴールで得た1点リードを守れず同点に追いつかれるのを目の当たりにする。やっと脳がサッカーに切り替わった頃にはもう終了間際だ。中断明け勝って景気付けしたかったな~大宮戦といえば伝統のドローだしな~…などと平熱モードでタイムアップを待っていたアディショナルタイム。諦めるのはまだ早かったのだ。右サイドからのクロスのこぼれ球を拾って中央に切り込んだ谷口海斗がグラウンダーのシュートを放つ。揺れるネット。爆発するスタンド。もう何がなんだか分からないほど興奮した、息が止まるかと思った。呼吸困難になりながら「これは海斗の神ユニ出るわ絶対買お」まで0.1秒ぐらいの間に脳内で皮算用してしまった。浮かれるなというのが無理な状況で、まさかそこから1分足らずで同点にされて2点分の勝ち点と神ユニが露と消えるとは思わなかった。思わなかったのだ。あんなに分かりやすいぬか喜びは人生でも初レベルではないだろうか。試合終了の笛が鳴った後はひたすら呆然としており、河田がゴール裏に挨拶にくるまでの記憶がない。

中断明けのこの頃からだろうか、アルビレックス新潟は何かがおかしかった。シーズン序盤のように何もかもがうまくいく訳ではないことも、対戦相手がアルビレックス新潟のサッカーを分析して対策してくることも理解していたはずだ。後方からボールを繋いでポゼッションで対戦相手を上回るスタイルも変わっていない、だが簡単には勝てなくなっている。言語化できるほどサッカーを理解している訳ではないわたくしでも、相手に対策を打たれている以外のなにか解決しなければならない問題があるな?という気にはなっていた。加えて地方局のインタビューに答えたアルベルトが「勝てなくなったとしてもチームを支えてほしい」と若干トーンダウンしていたことも気になった(今にして思えば、ではあるが、晩夏の時点でアルベルトは昇格が難しいことを薄々勘付いていたのかもしれない)。それでも試合がやってくるたびに残り全勝で昇格いけるっしょ、磐田も京都もそのうち落ちてくるっしょ、とひたすら楽観的なわたくしであった。なおわたくしの「いけるっしょ」は去年もその前も、なんならJ3降格のピンチを迎えていた2018シーズンも言っていたのであてにしてはいけない。

第28節ホーム北九州戦。この日は縁あってピッチサイドの砂かぶりシートで友人と観戦。スタンドが高くて観やすいとはいえ陸スタのビッグスワンで通常観ている我々にとっては、ほぼゼロ距離で観るプロのプレーはとても強烈だった。選手同士が接触したときのバチンという音も耳に入るし、調子を落としているとはいえ本間至恩がドリブルで相手をかわす動きは観ていても何が起きているか分からず脳が処理しきれない。同じ地平で静かなピッチに響き渡る阿部航斗のコーチングの声は本当にでかかった(相手と一対一になって大声で威嚇したあとかわされて最大のピンチを迎えており、すげえなこの人…と思った)。トマト育てたり茶々を入れたりしてる彼らの姿もスマホの画面で垣間見て身近に感じたりはしていたけれど、よく考えたらこの人たち普通に超人だ。一瞬でも気を抜いたらやられる、そういう週に一度90分の緊迫した舞台でギリギリのところで戦っている。多分それは一緒に戦っているつもりのサポーターにも完全には理解しきれていない、別の次元の出来事なのだと思う。

スコアレスのまま試合は進み膠着した展開の試合終盤、キャプテン堀米悠斗がピッチ後方から「諦めんな!これからだ、まだいける!」的な声をあげると、呼応するかのようにピッチの方々から「そうだ、いくぞ」といった声があがった。正直この瞬間が一番痺れた。我々はスタンドの上から観たいものだけを観ているので、チームまたは選手をコンテンツとして自分内で消化する在り様は人それぞれだ。思うような結果が出なければ「あいつらやる気ない」と見做す人がいても、その人の中でそういうコンテンツなのであれば致し方ない。しかし彼等は我々には決して見えない光景が見えている。歓喜にも落胆にもどちらにも転がりうる瞬間をギリギリで生きている。そして、おそらく勝利も昇格も諦めていない。では我々も諦める訳にはいかないのではないか?

ゼロ距離の至恩

9月以降はなかなか勝ちきれない試合も多く、上位2チームとの差が少しずつ開いてはきたがわたくしの計算だと残り全勝すれば余裕で昇格圏に戻ってこれることになっていた(THE皮算用)。そしてこのチームをもっと長く観ていたい。この美しいサッカーで晴れやかな結末に辿り着くのを見届けたい。そういう曇りなき希望しか見えていなかったのだ。

浦佐毘沙門堂裸押合大祭で💨サンヨー、サンヨ⚽

ばくよろムーンウォーカータオルが届いた。

♪月が歩くのムーンウォーク

何の話かというとクラブ公式が「ばくよろグッズ」というものを売り出した。「狂気のLINEがグッズ化!」だそうで、あー狂気って自分で言っちゃったか~という感想はあれど、選手をコンテンツ化することに一点の迷いもない、商機を逃さないマーケティング部門強いな、ということでわたくしは概ね好意的に見ている。チームはいつでも調子よくいられる訳ではないけれど、プロモーションとマーケティングはチームの勝ち負けに関係なく鉄の意思でふざけ続けてほしい、そうあるべきだと思っている。

10月3日、第32節アウェイ金沢戦。2連勝後のアウェイ、昇格を狙うには今後ひとつも落とせない時期である。単独遠征が続いていた今シーズンだがこの日は久しぶりに友人と2人で現地入り。谷口海斗にゴールしてもらいたいので、バッグにはばくよろムーンウォーカータオルもムーンライトクッキーも潜ませてある。というか誰がゴールしても嬉しい。してくれ。頼む。

試合は開始早々にリードを許し、そうは言ってもボールは保持できていたので追いつくのは難しくないな、と信用しきって戦況を睨んでいたが、なかなか決定機がやってこない。後半61分に谷口海斗投入、我々も慌ててムーンライトクッキー投入。もどかしい展開に口の中もパッサパサ。後半78分、田上大地がペナルティエリア内で倒されPK獲得。谷口海斗が蹴る。「…ムーンライトもう一袋あけたほうがよくない!?」「食おう!食おう!」友人とわたくしの謎のハイテンション。祈るしかない時間。そしてPKは止められ、頭を抱えてピッチに膝をつく谷口海斗。心がぱきんと折れる瞬間が見えたように思えて、そこからムーンライトクッキーの味がわからなくなった。試合は0-1で敗戦、もういくらでも言いたいことはあったが、見るからに憔悴してチームメイトに代わる代わる肩を抱えられながらふらふらとゴール前に現れ、まるで敗戦のすべての責任を負っているように深く頭を下げた谷口海斗の姿を観たら全く言葉が出てこなくなる。帰りの車では試合後のあのシーンの話で金沢から富山ぐらいまでの間「元気出してほしい」「一晩寝て忘れてほしい」と友人と共に延々と谷口海斗を気遣い続けた。更に帰宅してから寝る前にうっかり観てしまったモバアルZ。試合前、ハーフタイム、試合終了後のチームの表情を淡々と映し続けるInside of Albirexという動画コンテンツがあるのだが、試合後ベンチに戻る際にカメラと擦れ違いざま、谷口海斗が発した小さな「ごめんなさい」の一声に胸が潰れそうになった。この人をこれ以上、コンテンツとして消費してはいけないのでは? 公式のモバイル専用サイトで課金ユーザーに見せるべきはこういう残酷なリアリティショーではなかったのでは? そんな事を3日ぐらいぐるぐる考え続けた。

あの人たちは生業として週に一度の天国と地獄を行ったり来たりする生活をやっている。地獄を観たくないために残りの6日間をサッカーに没頭して過ごしている(はず)。家族でも友人でもない我々は、そんな彼等が目に見えて落ち込んでいたとして同調してダウナーになる必要などこれっぽっちもないし、言うて生業なので本人は気持ちの切り替えがプロとしてできるはずだ。しかし我々は既に巻き込まれてしまっている。直接会って話したこともない、トマトとナスの苗に水あげてとれたてのバジルでジェノベーゼ作ってヤーとかフゥーとか叫びながらミキサー回していることを一方的に知っているだけの選手を疑似ファミリーとして認識してしまっている。そういうコンテンツビジネスだったかどうかは置くとして、ファミリーが喜んでいるならこちらも嬉しいし、ファミリーが傷ついたら我々も傷つく。だけど本当の家族ではないので慰めることも叱咤激励することもできない。我々にできるのは応援だけだ。乱高下する感情のジェットコースターに、我々は既に乗せられてしまっているのだ。

金沢からの帰路、車中で友人と話している中で何度も「今年のこのチームが好きだ」「今いる選手がみんな好きだ」という言葉が出てきた。このチームのこのサッカーがとても好きで、それは絶対にどこかで報われるべきだと思っていた。J2クラブにとっての到達点はもちろんJ1昇格、でも全てのクラブがそこに辿り着ける訳ではない。2018シーズンから今まで、アルビレックス新潟がJ2において昇格争いをしていなかった年は当然なかったというつもりでいたのだけれど、今シーズンは本当に昇格争いをしているのだな、そして本気の昇格争いというのはこんなにもメンタルが擦り切れるものなのだな…と4年目にして初めて実感した。

敗戦や勝ちきれないドローが続くたびに、到達点であったはずの昇格圏が少しずつ遠ざかるたびに、口では(主にSNSでは)いけるっしょ希望を捨てちゃダメっしょと言いながら、これは厳しいなというどんよりした感情が少しずつ心中にたちこめていった。第35節ホーム秋田戦、アディショナルタイムで決勝点を取られて敗戦を喫したときは、数字上まだ逆転昇格の可能性はあるといえども流石にとどめを刺された気になり、タイムアップ後はしばらく言葉が出てこなかった。谷口海斗のハーフウェーラインからのループシュートで呼吸困難になるほど喜んだあの多幸感を返してほしい(個人技でのゴールでいえばあれと矢村健のオーバーヘッドが今季ベストゴールを争うと思っている、そのぐらい衝撃だった)。言葉が出てこなかったのはサポーターも、そして選手も恐らく同じだ。試合後の場内一周で高木善朗はずっと俯いたままだった。あんなに落胆した高木善朗を目の当たりにするのは初めてでこちらも戸惑った。スタンドから或いはSNS上から叱咤の声をあげるのもサポーターの一つの在り様だと思うし、それは傷ついた自らの心の代償作用でもあると思うので同意はできないが一定の理解は示したい。しかし疑似ファミリーの一人が悔しさで顔もあげられない状況で、かけられる声ってなんなんだ? 我々の心に代償作用を求めるとしたらどうすればいいのか?(余談になるがわたくしの代償作用は「次のアウェイに行く」だった。秋田戦から帰ってきて、余計なことを考えたくなくてひたすら一週間後の岡山への交通手段を検索していた。なにか心に効く劇薬が欲しかったのだ。そんなバカはわたくし一人だと思っていたが、友人も同じ時間帯に西日本方面へのフライトを検索していたらしい。流石わたくしの友人だと思ったし、突発岡山旅行は勝てなかったことを除けば実に楽しかった)

第37節ホーム磐田戦。首位の磐田相手に景気よく攻め、小見洋太が予測不能な動きを見せるたびにスタンドの熱気が上がるも得点は奪えず、この試合をもって2位以内に入る可能性は消滅した。身も蓋もない話だが結局J2を勝ち抜く最適解はポゼッションで圧倒する美しいサッカーなどではなく、得点力のある外国籍選手の存在だったのだな、という象徴的な試合だった。試合後は友人と甘いものを食べて溜息を存分に吐き出し、家に帰ってからも虚無に襲われて寝るまでずっとぼんやりしていた。同時になにか憑き物が落ちたような気持ちにもなっていた。勝てなかった試合のたびに選手が誰かしら号泣している状況、チーム内部のことは我々サポーターには100%知り得るものではなかったとしてもやっぱりあれは普通ではない、異常事態だったのだと思う。それだけ昇格争いというものは重圧だったのだろう。サポーターにとっても同じだったのかもしれない。

応援するクラブがあるということはこういう、シーズン単位の感情の乱高下、週単位で訪れるメンタル面の死と再生を承知の上で、ハッピーエンドだけが待っているわけではない筋書きのない物語に寄り添うということなのだ。正直キツい。メンタルは削られるしヤケになって暴飲暴食してしまうので体脂肪も血圧にもよくないのよ、ざんねーんってNegiccoも歌ってる(※歌ってない)。なにを好き好んでこんな自分ではどうすることもできない事象に情緒を揺さぶられる生活を20年近く続けているのかという話だが、そもそもわたくしは限界まで揺さぶられたいが為だけにサポーターをやっている。みんなもそうだろう?

良寛さんもたまげたねっかて😅

「推しは推せるうちに推せ」とは様々なジャンルのオタク(観測範囲だと主にアイドル)がよく口にする言葉で、昇格の目が消えた直後からわたくしが取った行動も正に「推せるうちに推す」だった。今年のアルビレックス新潟を残り数試合全力で消費する。残り試合全部現地で観る。グッズも惜しげなく買う。金の力で虚無を乗り越えろ。それは諦めない気持ちをチームに応援の形で届けようとかグッズ収入でクラブを支えようとか、そういう美しい動機とは残念ながら全く異なる。今年のチームは今年しかない、何かやり残したことがあったとしたらあとあと後悔する。今いる選手は来年誰もいないぐらいの覚悟でやりきれ。やりきってシーズンを終えろ。毎年毎年編成が変わるチームを追いかけているとこういう境地に辿り着くこともある、ということだ。尤もらしく断言はしてみたが、やっていることはアウェイに出かけてスタジアムグルメに舌鼓をうってムーンライトクッキーの箱をあけて、少しいい席を取ってアップ中の選手を眺めながら「毎週推しを生で観れるってすごいね」「すごいね」と言い合うぐらいの生産性の無さだ。実際この時期のわたくしと友人は毎試合ただの谷口海斗かわいいbotでしかなかった。かわいいbotに生産性など求めるな。

11月20日、友人と翌日出かけるアウェイの相談でLINEのやりとりなどしていた夜遅い時間にふとツイッターを開くと、アルベルト監督にFC東京からオファーがあって来季就任濃厚、という寝耳に水のニュースが流れておりサポーター界隈が大いにざわついていた。は?今??明日は試合ですが?? しばらくは混乱していたが、冷静になって考えるとそれはあるかもな…と思えた。地方クラブを足掛かりにステップアップしたいぐらいの野心は選手なら当然あるだろうし、監督も然り。まして過去ビッグクラブに関わってきたアルベルトである。あんなにSNSで新潟愛を語っていたのに!という意見も見られたが、地域愛と自らのキャリア選択はまた別の話なのでそこはあまりあてにならない。ただ、2年間でアルビレックス新潟に新しいスタイルを確立した監督が離れるとしたらそれは大きな痛手である。過去に行き当たりばったりの監督解任で何度も危機に陥っていたマイチームを思い出してどんよりとした気持ちになる。なんとか誤報という方向にならないか。ならないな。

どんよりしながらも次の試合はやってくる、なんなら翌日すぐにやってくる。第40節アウェイ群馬戦。長らく負傷離脱していた長谷川巧が、正統派サイドバックスタイルで眼前の右サイドラインを走り抜け時にシュートまで持ち込んだりしており、地元中の地元(新潟市西区)出身選手なので心底嬉しかったのだが、試合自体は痛み分けのようなドローに終わった。終了後にゴール裏に挨拶に行った選手・スタッフ陣がスタンド下に引き揚げていく中、少し遅れてアルベルトが観客席に大きく手を振りながらメインスタンド前に現れた。泣いているようにも見えた。昨日夜の報道を思い出し、ああこれはそういうことなのだな、もうすぐ居なくなるのだなこの人は、と納得がいった。そしてなにか魔法が解けたような気持ちで、今日の結果もシーズン通しての結果も必然だったのだなと、すっと腹に落ちた。現時点でのアルビレックス新潟のスタイルを確立したのは紛れもなくアルベルトの功績で、あの美しいサッカーをもってして頂点を掴めないなどということがあってはならない、これは在るべき姿ではないとずっと悔しい想いをしていたが、そうではなくてこれがアルベルトの限界なのだと。外国籍監督の威厳とSNSでのカリスマ性溢れる言動で少しその偶像を大きく見せてはいたけれど、美しいサッカーで確実に頂点を掴むほどの絶対的存在ではなかったのだ。それはチームも同様。みんな素晴らしい選手だけどチームとして何かが足りていなかったのだ。とても寂しい結論だが、そのように自分の中に落とし込んだことで残りの2試合は凪のように穏やかな気持ちで観ることができたのも皮肉なことではある。

第41節アウェイ琉球戦。シーズン序盤に上位を争っていた2チームのシーズン終盤の対戦、予定では昇格決定の大一番になるはずだったがそうはならず、まあこちらも琉球もドンマイという状況。1点ビハインドで迎えた後半48分。阿部航斗の短いゴールキックから堀米悠斗、島田譲、舞行蹴ジェームズ、高木善朗と全てワンタッチパスで繋ぐ展開。谷口海斗が落としたボールをノーマークで拾った鈴木孝司が、がら空きの右サイドを上がってきた藤原奏哉にパスを出す。低めのクロスから危なげなくゴールを決めたのは鈴木孝司。観ていた席とは逆サイドの出来事だったのでその瞬間得点者は分からなかったが「絶対孝司だ、あんなに落ち着いてゴールを決められるのは孝司しかいない」と確信して口にしていたし実際そうだった。それはとても美しく、奇しくもアルベルト本人が試合後のインタビューで「今季を通じて最も美しいゴール」と述べたように、この2年間のアルビレックス新潟の集大成のようなゴールでもあった。結果この後にゴールは生まれず勝てなかったことも含めて、美しいサッカーというのは砂糖菓子のように甘くて魅力的だけど、お腹は膨れないものなのだな、そんなことを南国の曇り空の下で考えていた。2021シーズンの残りはあと1試合。

もーよっぱららか❓ いんや まららいね⚽

ここまでの章で何度か「コンテンツ」という単語を用いてきた。卑しくもアスリートに向かって商材扱いとは何事か、選手だって人間だ、消費対象と捉えること自体が失礼だろう、というご意見もご尤も(そんな意見は出ていないが、予防線として)(それじゃあ選手の市場価値を勝手に採点して移籍市場の目玉とかなんとか騒ぐのも一種の消費対象じゃないのかい?わたくしはあれ好きじゃないな)。現にわたくし自身もこれらのテキストを名前の挙がった選手が目にすることで、何某かの不愉快な感情を持たれるのではないかという不安はある。ただ、プロアスリートには多かれ少なかれ、プレー以外の面でパーソナリティの開陳を求められている部分もあるかと思う。そこに消費者は対価を払い、その対価でアスリートは強くなる。一種の共犯関係だ。ある選手のプレイスキルやパーソナリティを消費する時、サポーターとしては対象との距離感をうまく保つことが必要であると考える。例えばファンサービスの場で、あるいはSNS上でのやりとりで、対象となる選手と適切な距離感(対外的にも内面としても)が保てているか?応援する態度として、クラブや選手と自己を過剰に同化していないか?応援していた選手がキャリアアップとしてチームを離れることになった時、勝手に裏切られた感情になって必要以上に悪しざまに糾弾していないか? 全ては距離感なのだと思う。アスリートを、またはサッカークラブを応援するということは先に述べた「自身との過剰な同化」という危うさをも内包している。どこまで寄り添ってどこから突き放すか。こればかりは経験でしか解決できないものなのだろう。

オフシーズンが近づいてくると選手の流出に怯えるのもサポーターの習わしではあるが、その前に契約満了で退団する選手も残念ながら存在する。ホーム最終戦を前にして、大本祐規とロメロフランクとゴンサロゴンザレスの契約満了、そして田中達也の現役引退がリリースされた。田中達也については遂に来たか…という気持ちが大きい。ここ1~2年は出場機会もなかったが、同じく出場機会のない若手選手達が口を揃えて「達さんが腐らずにチームを励ましてトレーニングにも手を抜かない、俺もやらなきゃいけない」と言っているように、公式戦を離れた部分でのチームへの貢献も限りなく大きかったのだと思う。浦和レッズのワンダーボーイだった頃、まさか新潟にくるとは思わなかった、本物だ、と驚きをもって迎えられた頃、スピードスターではなくなったけれどゴールを積み重ねていた頃、背中でもゴールを決めちゃっていた頃…等、9年間の田中達也を知っているから決断は尊重すれども寂しさはどうすることもできない。アルベルトは最後の試合に田中達也をスタメン起用し、引退の花道とするつもりなのだという。できれば勝利で華々しく送り出したい、そんな気持ちで今シーズン最後のホームゲームに赴いた。どうか良いサッカーを。

第42節ホーム町田戦。「今いる選手来年全員いないかもしれないと思って観とけよ」と口にして友人に嫌がられながらキックオフ。キャプテンマークを巻いた田中達也は「そういえばこういうプレイする人だったなあ」という動きを惜しげなく披露し、前半32分で三戸舜介と交替。ピッチを去る際、新潟の選手も町田の選手も全員サイドラインに向かって列を作り、文字通りの花道を設けていた。選手スタッフ全員に肩を叩かれながら、恐らくは泣きながらベンチに下がっていった田中達也。こんな光景をJリーグでは今まで観たことがない。試合の緊迫感をいっとき忘れて彼の21年間の選手生活に思いを馳せた瞬間だった。

ありがとう

残念ながら試合自体はこの暖かいセレモニーに相応しい結果とはならなかった。ボールを保持できてはいても決定機が掴めずそうこうしているうちに失点する、こう言っては何だがシーズン後半に何度も観てきた展開であった。2年間アルベルトが築き上げたチームのグランドフィナーレとしては些か寂しい結果だけれど、まあそうしたものだろう、物語はいつも御伽噺のように進むとは限らない。試合後の最終戦セレモニーでマイクの前に進んだアルベルトの第一声が「サッカーの話はもういいでしょう」だったのはちょっと失笑したが(いいんかい)、予想したよりもこの終焉を穏やかに迎えている自分自身にも驚きがあった。それは数試合前に既に今年のチームの限界を悟ってしまったが故の心の安寧でもあったのだと思う。出来るなら最後の最後まで、このサッカーに情緒を揺さぶられていたかった。みっともないほど昇格に固執して泣き喚いていたかった。でもまあ楽しい1年だったな。いろいろやりきったしな。

せーの、YES YES YES

乱高下する感情のジェットコースターから降りてオフシーズンはさぞかし安寧の生活を送っていると思われることだろう、しかしサポーターライフはここまでもこれからも全部本番だ。公式戦終了の翌日にリリースされた情報ではアルベルトの後任にテクニカルコーチの松橋氏が監督として就任することだけが分かっており、本稿を書いている現時点(12月下旬)では契約更新のリリースが続々と届き始めているところで、そのメールを受信するたびに「えっまさか移籍!?」と心臓が止まりそうになる。完全移籍加入の報に拳をあげ、逆にまだ契約更新のリリースがない主力選手の他チームへの移籍の噂に戦々恐々としている。正直に言うとこの時期がいちばん情緒に悪いとさえ思っている。

1シーズンを通して振り返ってみることで、今年のアルビレックス新潟に何が足りなかったのかは朧気ながら理解した気がする(外国人ストライカーとかそういう話ではなく)。来年もこの路線を貫くなら「美しくてしたたかでめちゃめちゃ強いサッカー」であってほしい。松橋新監督が本当にアルベルト路線を継承してしたたかさを上積みできるのか、どんな選手が揃ってどんなサッカーが展開されるのか、2022シーズン開幕戦の笛が吹かれるまで誰にも分からない。

だけどわたくしは楽観的に、今までも楽しかったのだから来シーズンはもっと楽しいだろう、昇格しちゃったらどうしよう大変大変、と思っている。いつだって次に来るシーズンには明るい未来以外の何も見えない。サポーターというものは単純な生き物なのである。

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