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喉元過ぎれば

 毎年恒例の人間ドックを受診してきた。今回も東南アジア赴任の際に一連の予防接種を受けたクリニックでの受診なので、もう25年のお付き合いになる。

 会社の雑談で同僚たちは人間ドックで足並みを揃えて胃カメラ(内視鏡検査)をやっていると知って驚いたこともあり、初めてオプションで追加した。

 予約の際に「当院では局部麻酔による口からの検査になりますが、いいですね?」と確認される。「そういえば胃カメラってえのは苦しいから、最近では本格的な麻酔でやるとか聞いたこともあるなあ」と思ったが、別のドックを探すのも億劫でそのまま承認してしまった。

 まず「喉の感覚をなくす薬です。飲み込まずに5分間喉の奥に溜めておいてください」と注射器のようなシリンジから口をめがけて液体が注入される。無念無想で上を向いているうちに舌の奥が痺れて来るのがちょっと気持ち悪い。

 いよいよの検査では、なかなかの太さがある管を口からニョロニョロと突っ込まれる。喉と胃の違和感、不快感はかなりのものだった。看護師さんが背中をさすってくださるのが、なんだか嬉しい。麻酔のおかげなのか「オエッ」となることは少なかったが、ゲップが出ると看護師さんに「ゲップは我慢してください!目は開けていてください」とたしなめられる。結局目は終始瞑ったままだった。カミさんは「自分の胃の画像が視界の端に見えた」というが。

 フラフラと検査室を出ると、次の順番を待っていたカミさんとすれ違うことになる。「ゲボゲボと聞こえてきたよー」と、あちらも不安顔だ。すまん、不安がらせたくはなかったが、そこまで配慮する余裕はまったくない。

 「麻酔が効いているから1時間は水を飲まないでください」と言われる。廊下の椅子にぐったりと座りこむが、なるほど胸が詰まったかのような感覚で唾を嚥下することができず、これが一番不快だったかもしれない。

 それでも。

 この喉の違和感も10分程度で解消し、検査本体の不愉快な記憶もあまりあとを引いていない。「これぞまさしく『喉元過ぎれば』ってやつだなあ」といにしえのことわざの妙に改めて感心する。

 なによりも、通常だったら数日間は苦しめられるバリウム便秘に襲われる心配がないのはサイコーだ。

 検査直後、医師からは「胸焼けするでしょ?そんな時は「ガスター」みたいな薬を飲んでくださいね。食道炎があるから、毎年胃カメラは受けてください。ポリープはありますが、悪いものではないのでこれは大丈夫です」と言われた。

 あとで聞けばカミさんは「前の方はご主人ですよね?パレット食道炎があるから、毎年来てくださいね」と言われたそうで、なぜ本人ではなく家人に詳細が明かされたのかは不明だが、ま、悪い結果でもないようだし、このあたりは正式な検査結果として通知されてくるるのだろう。

 とにかく。

 不快感はあったものの、終わってしまえば脅されるほどでもなかった感覚だ。それよりも、検査をやったことによる安心感は何ものにも代えがたい。
(23/8/24)

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