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『Ride 'Em Cowboy』 ~Sparksの詞を訳す⑨~


近況

『ビートルズ全詩集』を買いました。
『ボブ・ディラン THE LYRICS 1961-2012』を買いました。
『シャウト!金髪先生 ドリアン助川のロックで講義』を読みました。

前半2つは説明しないでいいとして3つめは何かといいますと、元「叫ぶ詩人の会」(バンド名)のリーダー、ドリアン助川さんがやっていた深夜番組を単行本化したものですね。

'96年10月~'98年9月までの2年間。
タイトルはもちろん3年B組のもじりですが、内容はほんとに先生。

ロックを愛する熱血英語教師
拳を振り上げ、涙を流しながら
人生を、ロックを、
そして三人称単数現在形を教える男
ひとは彼を金髪先生と呼ぶ!
「LOVE & PEACE!」

オープニングナレーションより

金髪先生(ドリアンさん)が毎回ロック史に残るバンドの1曲を採り上げ、授業してくれるのです。黒板横にかけられた額の言葉は

「Boys, be Sid Vicious!」

というわけで、これほど今ほしかったものはないのでした。

(どなたかがVHSからアーカイブしてくれています 全98回中の59本、
98回もあればスパークスもあるか・・・と思いましたが略)


さて、そうして翻訳の腕は、上がったんでしょうか???



『Ride 'Em Cowboy』 (行け行けカウボーイ)


スパークス19枚目のアルバム『Lil' Beethoven』(2002年)の5曲目。


無理

はじめに宣言しますが、無理です。この曲は。
これまでも別に、無理だったが、この歌詞はもう、日本語に移植なんてできっこないですでございます。

動画紹介

公式。CD版。


ライブ版。

疾走感のあるカッコいい曲ですね。

じゃあ、さっそく見ていきましょうか。
どんな歌なんだ? と、まず輪郭をつかもうとしてみる。そうして大方針がつかめてくれば、まあなんとか・・・なるんじゃないかと。


じゃあ1行ずつ見ていきましょう。。。
めんどくさい方は、「で、どういう歌なのか?」に飛んでください。
(「訳してみた」でもいいけど、わけわかんないと思います)



歌詞を読み解く 1

引用元こちら。
まず、YouTubeで歌を聴きながら、読んでみてほしいですね。

どうでしょう わかりました???



They laughed with me
Then laughed at me

They said "how true"
Then said "not you"

They thought how wise
Then thought goodbye

You hit your stride
Then Mr. Hyde

※韻だろうというところを太字にしています。以下同じ。

まず出だし2行ですが、「laughed」=笑った、のあとがwithなのとatなのとでは何が違うんでしょうか。
わかりません。
いや、たぶん「~と一緒に笑う」と「~を笑う」の違いが出るのだと思います。
だから「彼らと私は一緒に笑ってた」そして・そのあと(then)「彼らは私を笑った」。

次の2行
「how true」=まったくその通り、と辞書には出ています。イニシエの言葉では「禿同」といってもいいでしょう。彼らは激しく賛同していたわけですね。
そのあと彼らは言った、「not you」=あなたではない。
なにが?
とにかく、否定的な言葉であるのは確かでしょう。

さて次の2行、彼らは考えた・思った、は共通していて、「how wise」「goodbye」だけが違うのですね。
このへんでわかってきますが、この詩はとにかく韻の引力が強い!
「ハウ ワイズ」と
「グッ バイ」という、韻のために並んでるようなところがある。それでも、意味はもちろんある。
直訳すれば「なんて賢いんだ」と「さよなら」。
これも、肯定と否定、という対比ですね。

そして4つめの対比。
「hit one's stride」=調子が出る、本調子になる。You hit your stride. 君は調子が出る。
そして(then)、ミスター・ハイド。
誰?
これは『ジキル博士とハイド氏』(スティーブンソンの名作小説)のハイド氏でしょう。
???
読んだことはなくとも、ジキル博士が人の善良な面、ハイド氏が同じ人間の悪の面、という、キカイダーを分裂させたみたいな話だということは、なんとなくご存じじゃないでしょうか。だからMr.ハイドは悪い方の面、悪人、極悪非道な方のこと。
これも、先の1行が肯定的(いいほう)、後の行が否定的(わるいほう)、というのはお判りいただけましょう。
話のつながりはわからないにせよ。

そして、

(Ride 'em cowboy, ride 'em)

Ride(乗れ。文頭なので命令形)
'em(them=それら、の省略形)
cowboy(カウボーイ、という呼びかけ)

という、サビ? になっていきます。


・・・おわかりいただけただろうか・・・・・・・・・?




で、どういう歌なのか?

こんな感じで、いっこいっこ確かめながら歌の輪郭をつかもうとしてきたんですが、ここでその結果をいいますと。

展開としては、アップテンポに ♪タンタン/ \タンタン♬ と矢継ぎ早に何事か歌っていく構成。
そして内容は、タンタン/\タンタン、音符に対応するように(?)、人生の、「浮き」と「沈み」を、最小は1単語だけで並べ、対比していく。もちろん韻を踏みながら、既定の音数におさめながら・・・。

それら人生の「栄光」と「挫折」、人生の荒波、とでもいうべきを、荒馬を乗りこなすロデオボーイ・カウボーイにたとえて
「Ride Them(それに乗れ、乗りこなせ) Cowboy」!
という、歌・・・です。

たぶん。


つまり翻訳にあたっては、原詩において韻を踏んで音数もおさめてるからこそ「まとまり」「対比」として成立している、(すごい数の)「浮き」「沈み」大喜利を、
日本語にしていかなければならない。
韻や音数を度外視するにしても・・・いやむしろ韻と音数を度外視すると「まとまり」がなくなり、「対比」じゃなく「羅列」に近づいていってしまう。
この2行はペアなんです、というところを成立させなければいけない。

構成的にはスチャダラパーの「後者 -THE LATTER-」が、似てるかもしれません。


それでは、その困難さをじっくりしっとり染みこませるように、
続きを読んでいきましょう~。



そのまえに

元ネタ? 映画

曲タイトルで検索すると、こちらの映画も出てきます。
『Ride 'Em Cowboy』
  (邦題『凸凹カウボーイの巻』1942年)
日本では「凸凹(でこぼこ)コンビ」の名で紹介されていたコメディアン:アボット&コステロの主演作。

スパークスのことだから、曲タイトルの元ネタもこれなんではないかと・・・? 
であればこそ、曲名を「行け行けカウボーイ」なんて感じに訳しても、いいのではないかと思うのです。

こういう歌もある。
むむむ・・・。



歌詞を読み解く 2


第2段落はくり返しなので省略して、次はサビのようなところです。

Ride 'em
I got thrown again
Ride 'em
I got thrown again
Ride 'em 
Get back on again

「Ride 'em」は、それに乗れ、それ行け、みたいなことでしょう。
throw→threw→「thrown」=投げられた、という状態をgetした、again=また。というわけで、また投げられた。つまり落馬した。

get back=もどって、on=接触しろ、again=また。
馬に振り落とされたけれど、また乗れ、というような。
(ちなみに『ビートルズ全詩集』でのGet backは「帰れ」)

つまり、七転び八起きの歌、ともいえる。

肯定・否定、いいほう・わるいほう、起き・転び、栄光・挫折、そういうセット
が、
これから、恐ろしい数登場してくるのです。


I swam, I sank
Top seed, unranked

The pole, the wall
The pride, the fall

A state of grace
Slapped in the face

A state of mind
Then card declined

「sank」はsinkの過去形で「沈んだ」。「私は泳いだ、私は沈んだ」。
「top seed」は、そのまんま、シード権の選手ってことですね。それがランク外に。

「the pole」「the wall」はもうわからへん。ポールは柱、極点、などの意味があって、ウォールは壁、ですね。
ニュアンスが広い!
「pride」も、プライド。「the pride of ホニャララ」だと、ホニャララが最も誇りに思う存在、たとえば the pride of Goshogawara → 五所川原出身のオリンピック選手・・・とか。
それが「fall」落下。

「state of grace」=神の恩寵を受けている状態。
「slap in the face」=顔を平手打ちされる。

「state of mind」=心の状態。
「card declined」これがよくわからない。
  cardはカードです。declineは下降、とか、お断りする、という意味もある。ご招待的なカードがお断りされる、申し出を却下される、みたいな?


From great to good
From good to fair
To barely pass
Stay after class

I'm hot, I'm cold
I'm bought, I'm sold

First accolades
Then hand grenades

前半4行は「いい・悪い」2個セットの流れから変わっています。今度は
1段ずつ落ちていく、というパターンですね。すべて学校の成績用語。
グレートからグッド、グッドからフェアー(そこそこ)、barely(かろうじて)pass(通過)、そして
授業後もクラスに居残り。

後半
私はホット、私はコールド。
このホットは「若者のホットスポット」とか「今、台湾カステラが熱い!」みたいなホット、なのかな。
be+過去分詞で「私は買われる、私は売られる」。これも、ニュアンスの幅が広い・・・。

「first」=最初は。
「accolade」=称賛、誉め言葉。
「hand grenade」=手榴弾。
これもアコレード、ハンドグレネード、の韻。称賛、そしてハンディサイズの爆弾。

韻は引力で、対比は反発力ですから、あの矢継ぎ早なリズムでこれが頭に入ってくると、まさに炸裂してきます。


They hate your look
They hate your book
They hate your guts
You've heard enoug

It's not your day
It's not your week
It's not your month
It's not your year

ここは「わるいほう」のみを言っていくパターン。メタメタにされます。
「hate」=蔑む、嫌悪する。「look」見た目を。
ブックもガッツも、日本語でわかる範疇の意味でいいかと思います。
君は十分に聞いてきた→聞き飽きた。(アンチの声を)

「It's not one's day」=(人)にとって、ついていない日だ。
自分の日じゃない→ついてない日、という慣用句ですね。それを、ぐんぐんと拡張していくパターン。

韻とは違う展開の仕方もでてきました。


First AOK
Then IOU

BMOC
Then MIA

From DIY
To DUI

From 411
To 911

さてそんなふうに、「いい-わるい」のセットが尽きたのか? という「わるい」連発ヴァースのあとに、略語連打の超絶技法(?)タイムがやってきます。ペアには同じアルファベットが必ず入っている。

「AOK」(エイオーケー)=オールオッケーの略。とても良い状態。
  (ふつう「A-OK」と書くようですが、歌詞カードに従います)
「IOU」(アイオウユー)=I owe you
  私はあなたに借りました、の略から、借用書のこと。
  音数的には略してないが…。

「BMOC」(ビーエムオウシー)=big man on campus
  大学の有名人、輝いてる男。
「MIA」エムアイエー)=missing in action
  戦闘で行方不明(生存はしているはず)。軍隊用語。

「DIY」ディーアイワイ)=Do it yourself
  自分でやってみな、つまり一般人がする工作・修理、日曜大工。
  これはもう日本語にもありますね。
「DUI」ディーユーアイ)=driving under the influence
  飲酒運転。

この、DIYからDUIって、どういう話のつなげ方をすればいいんだか・・・

「411」(フォーワンワン)=アメリカの電話番号案内、の番号。
  日本だと104ですね。
「911」(ナインワンワン)=アメリカの緊急電話番号。
  火事・救急・警察すべてこれ。日本だと110と119にわかれます。


From soup to nuts
From job to cuts

From sure to chance
From can to can'ts

From smart to dumb
From bread to crumbs

From wowed to bored 
Olé, then gored

「soup」はスープですね。in the soup だとトラブルの渦中、という意味になるようですが、それが「nuts」ナッツ、とどうつながるか。
nutsには「頭がおかしい」という意味もあります。
スープからその原料のナッツにつなげて、それが同音異義語でイカれてる、の響きも持って、なのでしょうか。

「job」から「cuts」。これは仕事とクビ、かな。

「sure」「chance」はどちらも可能性に対して使える言葉なので、sure(ほぼ確定)から、chance(なくはない)へ。

can(できる)から、
can'ts(できない、の複数形(そんなのあるのか?))

smart(頭がいい)から、
dumb(ばか)

bread(パン)から、
crumb(細かいくず、パンくず)

wow(ワオ!と言わせるような素晴らしいことをする)
bore(飽きさせる)

Olé(闘牛士へ観客がかける応援の声「オーレ!」)
gore(角や牙で突く)

ここの「オーレ!と言ったとたん牛に角で刺される」ところ、笑っちゃうなあ。


From just desserts
To just desserts

From you're for me 
To ça suffit

From bon vivant
To sycophant

From open door 
To merde alors

さあ、いよいよ最後の山です。
ここでは、世間に行き渡ったダジャレ、さらになんとフランス語まで登場します。

「just deserts」=当然の報い
  (※desertは「砂漠」のほかに「報い」「功罪」という意味もある)
  慣用句ですが、歌詞を見てもらうと、Sがいっこ多いですね。
  これは誤用の「just desserts」。食後のデザートのつづり。誤用とはいえパティスリーの名前になったりもして一般的らしいです。
わからないのが、歌詞カードではどちらも「desserts」(誤用のほう)になっていること。
「デザート万歳」→「天罰が下る」なら、「いい・わるい」の定型になるんですが。「飴と鞭」みたいな。
勝手に、そちらと捉えておきましょう。

「you're (the one) for me」=あなたしかいない、あなたは運命の人。
  という定型句と考えておきます。
「ça suffit」(サ スィフィ)=(仏語)もううんざり、もうたくさん。
  これは別れの言葉になりますね。meフィーが韻を踏んでいます。

「bon vivant」(ボン ヴィヴァン)=(仏語)よく生きる。人生を楽しんでいる人。
「sycophant」(スィコファント)= おべっか使い、ごますり

「open door」(オープン ドゥァ)は、誰にでも開かれている、可能性がたくさんある、みたいな、とにかくポジティブな言葉ですな。
「merde alors」(メルデ アロゥァ)=(仏語)くそっ、ちくしょっ、ばかやろう。?
  ともかく、突発的にとびでるそうしたワード。



おつかれさまでした。

ここまで来たあなたは、もはやご自分で訳すことができるでしょう。



いや、できないって最初宣言したんだったか・・・。

ともかく、訳に頼らずとも、なんとなくの各行の対比関係はわかったはず。


あとは何度も何度もスパークスの歌を聴いてください。




では蛇足の訳文を。




訳してみた



みんなで一緒に笑ってた
そのうち僕だけ笑われた
みんな「そうだ!」と言ってたけれど
「お前じゃない」と手のひらかえす
頭がいいと思われて
そのあと、愛想つかされて
君はいよいよ本領発揮
行き着く果ては極悪人

(行け行けカウボーイ それ行けよ)

 一緒に笑い合ったあと
いつしか僕だけ笑われて
賛同からの
総スカン
賢い人のち
用済みの人
絶好調だ調子がいいぞ
ジキル博士か、いやハイド 

乗りこなせよ
また振り落とされて
乗りこなせよ
また振り落とされても
乗りこなせ
もう一度

泳いだ、沈んだ
トップシードから、ランク外
極めて また壁、ぶち当たり
全盛期から最底辺
神の祝福
顔面ビンタ
心がこんなに晴れやかなのに
招待状は燃やされて

優良から良へ
良から可へ
ギリギリ及第
居残り補習
今がアツいぜ、今はサムいぞ
腕を買われて、売り払われて
称賛の嵐がすぎれば
手榴弾の雨が降る

君は見た目が嫌われる
君の書物も嫌われる
君の度胸が嫌われる
君は勿論承知している

今日はツイてなかったな
今週ツイてなかったな
今月ツイてなかったな
今年は何にもなかったな 

最初は完全無欠
それから借用金欠
キャンパススターと呼ばれても
戦場行ったら行方も知れず
自分ひとりで何でもできた
たとえ酒気帯び運転だって
番号案内電話して
今すぐ救急手配して

行け行けカウボーイ 行けよ
乗れ乗れカウボーイ 乗れよ

万事快調
借金地獄
大学生活謳歌して
兵役服役消息不明
日曜大工を楽しんで
夜には酩酊ドライブで
番号案内411
緊急通報911  

野菜スープ、イカれポンチ
就職内定、失職確定
アリ中のアリ、ナシ寄りのナシ
できることから始めよう
できないことを数えよう
俊才始まり、凡才終わり
パンに生まれて、パン屑になり
ワーキャー言って、もう飽きて
「オ・レ!」受けたら、串刺しに

乗れ乗れ カウボーイ
また振り落とされても

乗りこなせ カウボーイ
もう一度あの背中を

スイーツな時間を過ごして
自業自得の目に遭って
愛しい手紙は
三行半
生きるは粋美
へつらいと媚び
どこにだっていけたんだ
ああ、くそったれ

乗れ 乗れ
投げ飛ばされても
乗れ 乗りこなせ
もう一度 あの背中に 

乗れ乗れ カウボーイ
行け行け カウボーイ 進め



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