映画『逆転のトライアングル』を観た日記

※ネタバレとか、あるのでご注意ください



リューベン・オストルンド監督の最新作。

この監督の作品は『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を見て、
「コントの人だ!」
という印象を持っている。

だって『フレンチ~』は、スキーリゾートに家族で来たところ雪崩に遭遇、父親がひとりで逃げ出してしまうのだが、じつはその雪崩は雪だまりを流すための安全なもので、何事もなかった妻と子が食事を続けているラウンジに、何事もなかったように父親は戻ってくる。でも決定的に関係は終わってしまった・・旅程は終わっていないのに・・。
という、コントだし、

『ザ・スクエア』は、現代アートのキュレーターをしている主人公が「ザ・スクエア」という新作を大々的に発表、床に四角い線が引かれただけなのだが、この枠内では人々は必ず相手への深い思いやりをもって接するのです、という体験型アートである。あとはその新作のプロモーションがおこなわれている期間中のスケッチがつづくだけなのだが、「思いやりの聖域」をうたった人間の行動と思って見ると・・・
という、コントなわけで。

まあ、コントというには、画面のルック、セレブほか文化の解像度のすさまじい高さ(現代資本主義欧米社会への皮肉)とか、俳優の芝居の確かさとか、とにかくあらゆるクオリティがつまりは世界レベルで、なんと『ザ・スクエア』と今作『逆転のトライアングル』はカンヌ国際映画祭の最高賞「パルムドール」。連続受賞! という破竹の勢いなのだ。

コントのソウルをもった作品が、映画界のてっぺんに登りつめている、と思うと、なんともなんとも。

そして今回も、とてもコントだった。


「フレンチアルプスで起きたこと」「ザ・スクエア 思いやりの聖域」など、人間に対する鋭い観察眼とブラックユーモアにあふれた作品で高い評価を受けてきたスウェーデンの鬼才リューベン・オストルンドが、ファッション業界とルッキズム、そして現代における階級社会をテーマに描き、2022年・第75回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した人間ドラマ。第95回アカデミー賞でも作品、監督、脚本の3部門にノミネートされた。

モデルでインフルエンサーとしても注目を集めているヤヤと、人気が落ち目のモデルのカール。美男美女カップルの2人は、招待を受けて豪華客船クルーズの旅に出る。船内ではリッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでもかなえる客室乗務員が笑顔を振りまいている。しかし、ある夜に船が難破し、海賊に襲われ、一行は無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態のなか、人々のあいだには生き残りをかけた弱肉強食のヒエラルキーが生まれる。そしてその頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃係だった。

オストルンド監督は本作で、前作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続いてパルムドールを受賞し、史上3人目となる2作品連続のパルムドール受賞という快挙を成し遂げた。ヤヤ役は、2020年8月に32歳の若さで亡くなり、本作が遺作となったチャールビ・ディーン。カール役は「キングスマン ファースト・エージェント」のハリス・ディキンソン。そのほか、フィリピンのベテラン俳優ドリー・デ・レオンや、「スリー・ビルボード」「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」のウッディ・ハレルソンが共演。

2022年製作/147分/G/スウェーデン
原題:Triangle of Sadness
配給:ギャガ

「この転覆劇、あなたは笑えるか?!」

だそうで、なんだか宣伝のあちこちが、いやだなあ。と思いながら。別に笑えなくてもいいし・・・。まあ「笑えるか?!」という言い方で、こういう笑わせ方は、あんまり馴染みがないかもしれませんが、いちおうコメディとして作られてるんですけどネー、とお知らせしておきたいということなんだろう。
それにつけてもあらすじの紹介も、本作の三部構成のなかの三部め、上映の半分以上済んだあたりまで言っちゃっているし、パンフレットのインタビューの各人の口調もなんだか、古臭い英語の訳し口調だなあと感じて、困った。

映画自体は、オストルンド変わってないなあという、嬉しさあり、
序盤にあるモデルをしている主人公の男:カールと、同じくモデルの恋人:ヤヤがディナーの会計の支払いで揉める小競り合いのシーンなど、細かい心理のつばぜり合い、状況の更新、思わぬ裏切り(カード止まってる)といったものを芝居で見せる、
コントだし、

安い服はモデルが笑顔だ、ハイブランドのモデルになりたけりゃ不機嫌な顔を! とけしかけられて臨んだオーディションで
「その悲しみのトライアングル(眉間のしわ)、やめてみて」
と言われるとか、まるで「軽い胃潰瘍ですよ」並みのフリ・オチだし、

(ちなみに原題は『Triangle Of Sadness』で、この眉間のこと。
邦題はそこに、PART3での展開=作品テーマ? の予告をプラスしたみたい)

なにより、PART2の後半、ここで映画が終わってもいいくらいの(というか、おっ、終わりに入ったな!と思ってた)すさまじいカロリーがぶち込まれている。『ザ・スクエア』の、パーティー会場でのゴリラ芸のシーンも思い出すような、セレブ達をバッタバッタとひどい目に遭わせていくさま。それまでのシーンの、ツッコミ不在のボケたちで溜まった不満、セレブへのふざけんなの心の、
溜飲を下げる感じ。

逆かな。
溜飲は上がりまくっていたかもしれない。

(『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』(Monty Python's The Meaning Of Life)のMr.クレオソートを思い出した。しかしCGだと思うけどこういう使い方もあるんだなあ)


ともかく、いやあすごい。これはすごいよ。と思ったあと、まだPART3があって、
ここは案外、なんか、見慣れた展開になっちゃったし、無人島で金銭とか社会的地位がご破算になり、サバイバルが第一の価値観になったら・・・というのは、オストルンドの帰結点かもしれないけどオストルンドの持ち味ではないよなあ、と思う。
でもテーマ的にはやるべきかもしれない。

どうなんだろう。


ともかくも、すべてのクオリティとか解像度とか作り込み、リサーチがすごいなあ。それでいてワンカットが長めで、お芝居の妙もたくさん撮れているし、嵐の船内が傾いている様子なんて、たぶんセットの床を傾けて撮っていて、
「ドリフか?」
と思ってしまう。コントが世界で普遍なさまを感じられてうれしいなあ。

っていうかまだ観てないけど『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の監督は『スイス・アーミー・マン』のひとで、あれもコントだし。

いやあ、こんとって、ほんとにいいもんですね。

と思った。

なんだこの感想は。
解像度のかけらもない。。。




ちゃんとしたものは宇多丸さんへ。


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