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STaD vol.12 : 日本画入門

月1回開催している、鎌倉ゆかりのクリエイター・エンジニアによる勉強会「STaD」。
第12回目は、鎌倉を飛び出して、上野で開催しました。

テーマは「日本画」

フロントエンドとはカスリもしない分野ですが、私が学生時代に日本画を学んでいたこともあり、いつかやりたいと2年ほど温め続けてきたテーマです。
技術力バリバリのベテランさんも、流行に敏感な若手さんも、表現の幅を広げるには異分野のアイデアがヒントになるかもしれない、と期待を寄せて、日本画の画材と表現、それと歴史を中心に紹介させて頂きました。


恒例の勉強会前の腹ごしらえは、老舗の上野藪そばさん。
頼んだお蕎麦に早くもどこか日本らしい表現を見いだしてテンション高まる一同。
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勉強会は、場所を移動してコワーキングスペースBasePoint 上野店さんを使わせて頂きました。

ところで日本画って何でしょう?

日本画って聞いて、どんな絵かイメージできますでしょうか。
さっそく参加者に4枚の絵から「日本画だと思うもの」を選んでもらいました。
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北斎や、大河ドラマ「いだてん」のオープニングの絵画を担当された山口晃さんなど4枚中、答えは1枚のみ。みなさん分からないながらにも思い思いの選択をしていただきました。

答えは、日本画=日本画の画材を使った絵です。
(正解者はいませんでした・・!ひっかけ問題ですみません!)

明治維新で西洋文化が入ってきた時に、西洋絵画と区別するために日本の絵を「日本画」と呼び出したのが始まりです。書き方も多様化している今は、日本画の画材を使って書かれた絵全てを指します。

宝石で描く、日本画の画材

日本画は、水彩絵の具みたいなチューブ状ではなく、自分で練って絵の具を作るところからスタートします。

岩絵の具 ー 鉱物や染め付けた水晶等を砕いた状態の絵の具
胡粉 ー 牡蠣の殻を10年以上乾燥させて出来るとびっきり白い絵の具
(にかわ) ー 絵の具を紙にくっつける為の動物の皮や骨の煮こごり
明礬(みょうばん) ー コラーゲンを扱いやすくするため混ぜる
・その他墨や和紙などなど。

『宝石の国』にも登場するキャラクター・辰砂も、岩絵の具にあります。
岩絵の具は実際に見るとキラキラしているので、日本画かどうかは実物を見ないと分かりづらい部分もあります。

余談ですが、インスタ映えで有名になったPIGMENT TOKYOでも、日本画の絵の具作りなどのワークショップをやっているので、ご興味あればぜひ。
» PIGMENT TOKYO

実際は量り売りで買ったこんな画材を使っていきます。

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アートというと感性が大事と思われがちですが、画材は化学です。感性のままに描いた一枚を残すためには道具の知識が必要です。
日本画の場合、道具を正しく使えば、紙に書いた場合1000年、絹でも500年持つと言われています。

岩絵の具の元になる鉱物はラピスラズリやアズライトなど様々で、それぞれ結晶の原子配列が異なるので、現代では昔の絵画の修復をする際に、X線などで剥がれ落ちた絵の具を特定することができるそうです。

では、画材を知ったところで、気を取り直してもう一度、どれが日本画でしょうか…?

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正解は、全部…!
平安時代から現代まで多数の作品を選びましたが、全て日本画の画材を使った日本画です。道具さえ使っていれば、表現の幅は広いですね。

日本画は、このように平安時代から現代に至るまで、時代に合わせて表現を磨きながら描かれ続けてきました。

狩野派にはなれないけど、琳派にはなれる…?

道具の使い方が超重要な日本画。
昔の人たちは弟子入りすることでその技術を習得して、画風築いてきました。

例えば、日本最大の専門画家集団だった「狩野派(かのうは)」。
基本的には血族による徒弟制度に支えられ室町〜江戸時代までの400年続きましたが、徒弟制度自体、明治維新の際に廃止にされているので、もう弟子入りは叶いません。

一方もう一つ有名な「琳派(りんぱ)」は、時代を隔てた作風のファンによる画派です。
本阿弥光悦や俵屋宗達の作風に惚れ込んだ尾形光琳などがさらに発展させ、その後も酒井抱一や、近代では加山又造さんなど脈々と引き継がれている表現です。

過去の画風を研究して再現して、その上で自分の表現を極めていく。
そんな取り組みは、日本画でもウェブでも同じですね。
琳派の作風はデザイン性が高いので、ウェブでも琳派的な表現合うのでは?!と思ってます。誰か作ってください。

流派によって表現の仕方に差はありますが、根本にある表現をいくつか紹介します。

目で見る景色と違う遠近感

日本画を見ていて「建物の角度おかしくない?」と気になる人もいるかもしれません。見慣れたイラストや、西洋の絵とは全く違う、おかしな遠近感です。

遠近の表現は、いわゆるパースという線遠近法や、大気の遠くのものほど朧で霞んで青みがかる性質を使った空気遠近法など様々ですが、基本的には、「目に見えた状況を再現する」ことを目的にした技法です。

日本画は、描いた人の視点から見た景色の再現ではなく「その時の状況を再現」します。

角度の違和感は、一枚の絵の中に複数の視点の高さが入っているせいです。
人や生き物は横から見た視点で書き、建物や小物は丘や木など高いところから見た時の斜め上からの視点で描いています。
人は横から見た時が一番顔や体がわかりやすいですが、建物は上から見た時の方が構造がわかりやすい。状況を再現するのに、そのものが一番分かりやすい角度で描くのが日本画の独特な遠近感を出しています。
特徴を捉えて象徴化するのは、ピクトグラム的な表現や漫画の表現とも結びつく日本の特徴かもしれません。

ちなみに上から見て描くことを、空飛ぶ鳥の視点から見た絵ということで鳥瞰図というのですが、これは日本には登りやすい小さな山が多いせいではないかと、個人的に思っています。西洋画がどこまでも地面からの視界で描かれた絵画が多いので、生活圏の地形が表現に影響しているのかもしれません。

名脇役「霞」

和風のデザインでこんな形の雲を取り入れたこと、ありませんか?
和風の表現といえば富士山、日の丸、鶴などに続いて雲を思いつきます。

この雲は、日本画では(かすみ)と呼んでいます。

私の一番好きな画題の一つが洛中洛外図屏風なんですが、見ていると大量の金色の雲が描かれています。
絵の中の霞は、物語の区切り、余白、書きたくない所を隠すなど超便利な名脇役なんです。

なんでこんな表現があるのかというと、鳥瞰図と同じで、日本には、まさにこういう光景があるからだと思います。
雲の形は気象や地形によって変わりますが、日本のように水が豊富で山も多くて、雲との距離が近い場所も多いからこそ、見られる景色があります。
この間、早朝に中央自動車道走っていて、霧が山の麓を隠してる景色を見たのですが、実際にそういった景色から雲で隠すというヒントを得たのかもしれません。

似た話では、日本の水墨絵師は、お手本にしていた中国の水墨画に書かれる切り立った鋭い山を「強調の表現」だと思っていたらしいです。実際中国に行って見れば、絵と同じ鋭い形の山でびっくりした、というエピソードがあります。

表現の最初のヒントは普段目にしている、身近な日常にもあるかもしれません。

時間経過

漫画は日本が培ってきた文化の一つですが、戦後マンガの表現が突然広まったわけでなくて、800年くらい前の日本画の中にもすでにマンガにつながるような表現が見られます。

日本画の特徴の一つは、絵の中で流れる時間があることなんです。
西洋は画家の視点で一瞬を切り抜く、写真のような絵画でした。
日本画は、状況の美。その状態がどう作られているのか解説し、前後含めた状況変化を表現します。

日本画は、屏風や襖、掛け軸だけではなく、巻物にも描かれていました。
時間表現は巻物が一番わかりやすく、鳥獣戯画絵巻物などが有名です。

縦書き文化なので、文章が右から左に進むように、巻物は右手で持って左手で広げる製本です。
絵の中の時間軸も一緒で、最初に見るのは右端に書かれた内容になるように、時間が右の過去から、左の未来に向かって進むように描きます
ウェブに応用するなら、上が過去で下が未来になるのでしょうか。

日本画の知識を少しインストールしたところで、さっそく東京国立博物館に実物を見に行きました。

実物を見る

ちょうど開催していた皇室ゆかりの国宝・重要文化財を始めとする特別展覧会を見てきました。
» 特別展 美を紡ぐ日本美術の名品ー雪舟、永徳から光琳、北斎までー

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結び

江戸時代など見ても、平穏な時代には文化が栄え、やがて成熟してくると、遊び心が出て来ます。
令和となった現代、ウェブも成熟してきている今だからこそ、遊び心に飛んだウェブサイトを作りたいですね!

1日に盛りだくさん、参加された皆様お疲れ様でした!

今回初めての主催をさせていただきました。準備ギリギリで、心に余裕がないと遊び心なんか到底できないな、と今回通してつくづく実感しています。

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