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シード期の起業家にとって、いかにカスタマーサクセスがありがたく、重要か

先月openpage藤島さんの、THE MODELはスタートアップに向いているのかという投稿から、CSオワコン論と呼ばれる議論が盛り上がりました。

それに対するCS界隈の反応はプレイドおたけさんのまとめに詳しいのですが、概ね「カスタマーをサクセスさせる機能自体は必要だが、現状のような守備範囲が広すぎるCSは役割が文化・明確化していく」、という感じの意見が多かったかと思います。

CSを営業からの分化と捉えると、人数が少なく状況も日々変わっていくスタートアップにおいてCSって本当に必要?、となるのも分かるのですが、私自身はシードスタートアップの経営者として少し違う捉え方をしています。端的に言うと、シードスタートアップにおいてCSはむしろ起業家の役割から分岐したものとも言え、強いCSの存在はPMFに向けてめちゃくちゃレバレッジがきく、というものです。特に共同創業者がいない私にとってはCSの存在はとてもありがたく、どういう点が重要なのか整理してみたいと思います。


PdMとしてのカスタマーサクセス

シードスタートアップにおいてPMFより重要なものはなく、創業者が顧客のペインに対して高い解像度を持っていることが大事だと言われます。それは間違いないのですが、実際には「顧客」と言っても様々な業種や事業フェーズがあり、それによりペインも異なってくることが多い。私自身Sansanでインサイドセールスのマネジメントをしていた際の課題感を起点に起業しましたが、実際に事業を始めて様々な企業の方と話してみると、むしろSansanと同じ課題感を持っている企業の方が少ない。そのため、色んな顧客のペインを拾いながら、何は現行のプロダクトでカバーできて、何はプロダクトの拡張が必要かを整理していく必要があります。それはPdMとしての起業家の非常に重要な役割なのですが、起業家がこの役割を一手に担うのはいくつかの課題があると思っています。

  1. 起業家が持つバイアス:起業家は一定のリスクを取って起業しているので、自分が向き合うペインは十分に大きく普遍的であると思っている(または思いたい)事が多いと思います。CSはもう少し客観的に顧客と対峙できる。

  2. CSが築く信頼関係:シード期のプロダクトは機能も少なく、オンボーディングではCSが汗をかくことが多いと思います。その分顧客との信頼関係も築かれ、プロダクトには直接関係ないが顧客にとっては重要なペインが引き出せる可能性がある。

  3. 起業家はどうしても時間が足りない:顧客ペインの解像度が重要と分かりながらも、起業家は調達、採用、開発、営業に追われて、十分には顧客と対話する時間が取れない。そこにおいて起業家の分身として顧客と対峙するCSが重要になる。

先日UPWARDの金木さんと話した際に「愚直に顧客の課題・要望と向き合うCSが一番成果を出すし、事業がスケールしてもそういったスタイルのCSの重要性は変わらない」と仰っていたのが印象的でした。PMFも環境の変化に合わせて何度も変えていく必要があることを考えると、顧客のペインを収集するCSの役割はずっと重要なのかもしれません

PMMとしてのカスタマーサクセス

先日山田ひさのりさんと当社のCSの課題について話した際、「まずはアウトカムの整理が必要ではないか」というアドバイスを頂きました。アウトカムが何で、それをどう特定するかは山田さんの先月のブログでまとめられています。

ここの中で、典型的なアウトカムは1プロダクトで5つ程度であり、そのうち3つで80%の顧客ニーズをカバーできるという内容があります。

上記山田ひさのりさんのブログから

これらのアウトカムを特定し、顧客プロファイルごとに得やすいアウトカムを示すという業務は、プロダクトマーケティングの起点になるものだと思います。以前西口一希さんの講義を拝聴した際に、どんな顧客(WHO)にどんな便益(WHAT)を提供するかがマーケティングの要であり、そのWHOとWHATの組合せを複数用意しておくことが事業の成長にとって重要であるという話を伺ったのですが、アウトカムの特定というのは基本的にそれと同じことじゃないかと考えています。

シードスタートアップにおいてPMMというポジションを採用できることはあまりなく、殆どが起業家の役割になると思います。そんな中CSがアウトカムの特定をリードしてくれれば、起業家にとってこれほどありがたいことはありません。もちろん簡単なことではありませんが、上記山田さんのブログにはアウトカム特定の方法論も載っており、チャレンジする価値があると思っています。

マーケターとしてのカスタマーサクセス

シード期のSaaSスタートアップにとって、事例より重要なマーケティングは無いとよく言われます。認知がない中でWeb広告をしても成果には繋がりにくく、共催ウェビナーを頑張っても顕在需要はすぐには産まれない。そのためリファラルとアウトバウンドで愚直に顧客を開拓する、というのがPMF前の事業の殆どかと思います。そんな中で、活用事例を作ってプレスリリースとハウスリストに流していくという行為は、顧客獲得の点からもナーチャリングの点からも、シード期において数少ないROIが出やすいマーケ施策だと言えます。

当社では当初、事例取材の交渉、当日のインタビュー、事例記事の作成まで全てCSにやってもらっていました(今はインタビューの文字起こし以降はマーケにやってもらっていますが、前工程は引き続きCSです)。CSが日々顧客に価値を提供しているからこそ事例取材の許可がもらえるし、日々顧客と向き合っているCSだからこそ、顧客が感じている価値をしっかり言葉で引き出せる。その意味で、CSはシードスタートアップにおいて最も重要なコンテンツを創出するマーケターの役割もあると思っています。当社の導入事例ページにはリリース1.5年のプロダクトながら20件以上の事例が載っていますが、これは私が最も誇りに思っていることの1つです。

カスタマーサクセスのキャリアについて

冒頭のCSオワコン論はこれからのCSのキャリアも1つの論点だと思うのですが、CSの役割が事業の性質やフェーズによって様々である以上、一元的に語るのは難しいと思います。私自身は上で述べた通り、シード期スタートアップにおいてはCSはプロダクトやマーケティングの点でも非常に重要な役割を持っていると思っており、そこで成果を上げた次のステップとしてPdM, PMM, コンテンツマーケティングといったポジションも選択肢になると考えています。寧ろ、初期のスタートアップにおいてこれらのポジションを新設するとすれば、最も有力な候補者はCSにいると言えるかもしれません。

ということで、当社では起業家の相棒としてのカスタマーサクセス職を絶賛募集中です。CSにとって最も重要なのは顧客の課題を理解して寄り添う能力だと考えており、インサイドセールスとマーケター向けのサービスを提供する当社としては、ISやマーケターからCSへの転向希望者も大歓迎です。「シード期スタートアップのCS」というポジションにご興味を持った方がいれば、是非一度お話させて下さい!