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第13回 LDHの「MOON CHILD」商標出願に2度目の拒絶理由通知書が発出される!

 


 今週、LDHによるガールズグループ「MOON CHILD」商標出願について、大きな動きがありました。商標出願の経緯については第9回「LDHによる「MOONCHILD」商標登録出願の経緯」に詳しく書いていますのでそちらをお読みください。

 LDHは2022年8月に「MOON CHILD」の商標登録を出願しましたが、①やるかどうかも分からない指定商品・役務が多すぎる、②先に大分県の個人が同じ商標を同一または類似の分野で登録している、という理由で、2023年1月30日、特許庁から1回目の拒絶理由通知書が発出されていました。これに対してLDHは出願の内容を変更し、意見書を提出して登録を待っている状態でした。

 その後、筆者を含むバンドMOON CHILDの複数のファンが、日本の有名なバンド「MOON CHILD」と名称が被ることを理由に「この商標を登録させるべきではない」との趣旨の「刊行物等提出書」を特許庁に提出しました。そして2023年8月2日、特許庁からLDHに対し、2度目の拒絶理由通知書が発出されました。今回はその内容について見ていきたいと思います。

「MOON CHILD」商標出願の審査の経緯
(特許情報プラットフォームより)

 なお、この商標が登録されるべきではない理由については、第10回「商標が登録されるためには」に筆者の見解を詳しく書いていますのでそちらもご参照ください。

拒絶理由① 誤認を生じさせる商標は登録できない!

 
 特許庁は、まずMOON CHILDの文字を、4人組の著名な音楽グループ(バンド)の名称を表すものとして認識されるものであると述べています。

 そうすると、MOON CHILDと書かれたCDやライブなどに接する消費者は、バンドのMOON CHILDが演奏するCDやライブであると認識するから、MOON CHILDの表示はCDやライブの「品質」を表すものであり、商標法3条1項3号(品質等表示)に該当し、商標登録できないと述べています。

 これ、なかなか論理構成を理解しがたく、非常に難しいと思うのですが、つまりは第11回「商標登録と自己責任論」で取り上げたレディーガガ事件判決の趣旨と同じです。広く認識されている歌手名やグループ名がCDなどの商品に表示されている場合、名称は誰の商品かを識別するものではなく、商品の品質を表すものである、とするのがレディーガガ事件の知財高裁判決の判旨及び現在の特許庁の実務なのです。

 また、特許庁は、MOON CHILDという表示をバンドのMOON CHILDと全く関係ない商品、役務に使用すると、その質の誤認を生じるおそれがあるとも述べています。つまり、バンドと間違えてガールズグループのCDを買ってしまう人が出てくるおそれがあるから、そのような誤認を生じさせる商標は商標法4条1項16号(品質等誤認)に該当し商標登録できない、としています。

 この「誤認を生じさせる」という理由は多くの人が納得できる理由だと思います。実際に最近、ササキオサムさんのいるMOON CHILDと間違えてガールズグループMOONCHILDのライブチケットを買ってしまった、とツイートしていた人がいらっしゃいました。このように、名前被りの弊害が一般消費者に及ぶことは殊更重視されるべきと思います。


拒絶理由② MOON CHILDは他人の名称である!

 さらに、特許庁は、MOON CHILDとは4人組の著名な音楽グループ(バンド)の名称を表すものであるとしたうえで、この商標は他人の名称と同一であり、当該バンドの承諾を得ているとも認められないから、商標法4条1項8号(他人の氏名又は名称等)に該当し、商標登録できない、としています。この条項は、他人の人格的利益を守ることを目的とするものです。

 この条項に該当すると、商標登録を実現するにはバンドMOON CHILDのメンバー全員の承諾書の提出が必要になります。しかし、当然ですがこのケースにおいて、バンドの4人が承諾書にサインをすることはないでしょう。

「拒絶理由通知書」はインターネットで閲覧可能

 以上説明してきた「拒絶理由通知書」は、誰でもインターネットで閲覧することが可能です。「特許情報プラットフォーム」j-platpatのトップページから検索することができますので、ご興味のある方はぜひ一度原文を読んでみてくださいね。

今後の審査の見込みについて

 本件については、LDHは拒絶理由通知書発送の日から40日以内に意見書を提出することができ、もしこの意見書が出されたら、特許庁は商標登録の可否について再審査することになります。

 意見書が提出されず期限が過ぎた場合、または意見書が提出されて再審査された後、最終的な査定がされることになります。まだ予断を許さない状況ですので、しばらく注意深く見守っていこうと思います。


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