詩 『散策』
線の細い文字で
とりとめのない時間を噛みしめて
膝がやけに冷たくて
枕にされそうなぬいぐるみを抱えた。
焦げたパンのみみが食べたくて
キッチンには湯気がふたつ見えて
廊下の端のスイッチで
地球上の照明という照明を消す。
外を歩く。
密度の濃くなる空気が肺を満たす。
星がひとつしか見つからない。
大通りに出るまでに
いくつ横断歩道を渡るのかに集中する。
にぎやかな膜の内へ
風の抵抗もなくずぶりと侵入したら
向かい側に座る人の鳥肌に気づいても
注文したお酒は味わって呑む。
窓の外の雨粒が目視できなかったわたしは
身勝手な憶測で水溜りの深さを測る。
傘を手に歩く人たちの距離が近すぎて
あの肩に落ちる雫のことしか考えられなくなった。
きっと大きな声で笑っている。
そうすれば肩の冷たさも忘れられるみたいに。
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