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実親って誰のこと? 養子として育った体験談を聞いて

私たちが特別養子縁組を検討し始めた頃からお世話になっているボランティア団体、特に特別養子縁組をした親が、養子縁組を検討する人や養子を受け入れた家庭をサポートする目的で活動している。

今回は珍しく「養子として育った」立場からの話をするカンファレンスがあったので参加してきた。まだまだ先の話だろうという感じで臨んだけれど、とても示唆に富むものだった。

登壇したふたりの女性。ひとりは現在50代ので生後8か月で養子に、もうひとりは30代で3か月で養子になっている。彼女たちはどちらも両親とよい関係を持っているようだったし、自分たちの家庭も持ち、こどもにも恵まれている。それでも、いまだに「捨てられた心の傷」(※)が、顔を出すことがあると話す。

(※)フランス語でla blessure d'abandon というが、日本語でどのような語彙が一般的なのかまだ不勉強。

一生は我が家に来てからの9か月間、本当によく適応してくれているように見える。けれど、成長とともにいろんな感情や疑問と向き合わないときが出てくる。

カナダの研究では、養子のこどもは、養子でないこどもと比較して2〜3倍高い確率で問題行動がみられるとのことで、そういう事実を頭の片隅に置いておきながら、一生の成長と向かいあい、寄り添っていくことが必要になってくるのかなぁと感じた。

特に心に残ったポイントは以下のとおり。

  • 言葉の使い方について:よく真実告知のなかで「産みの親はあなたのためを想って、愛があったからこそ、諦めた/手放した(abandonner)」という説明のしかたがある。私も正直、聞いて違和感がなかった。なんなら同様の説明をしようと思っていた。フランス語のabandonnerという動詞を直訳すると、「諦める」「捨てる」ということだけれど、そうすると、こどもは「愛している」と「捨てる」ということを混同し、愛するということは捨てるということ、愛すると捨てられる、という間違った認識をしてしまい、愛するとは安心できるもの、別れを伴うとは限らない、というこを理解することが難しい。「大人になってからも人間関係に非常に苦労した」という体験談を聞いて、言葉選びの重要性を感じた。どう言葉を定義して、一貫性のある話をするかは、早い段階からパートナーとも話し合っておきたいポイントになった。

  • 同年代の養子の友人は貴重:「養子という同じバックグラウンドを持つ兄弟・友人が、心の支えになった」。これは再確認できた、という感じだが、いますぐ仲良くなるわけでなくても、ゆるくつながっておけば、10年、20年後に気持ちが共有できるタイミングがあるかもしれないので、ラオス養子縁組家庭のグループは長い付き合いになりそう。

  • 思春期は荒れた:養子でない自分だって、それなりに反抗期があったことを思えば、まぁ致し方ない。「自分だけが苦しんでいるわけではないことを確認するために、わざと親を傷つけた」「親が苦しんでいるところを見て、安心した」。これを聞いて、一筋縄ではいかないんだな、と再認識。まだ時間はあるので乗り切り方は勉強しておこう。

  • 養子として育って幸せになった大人のロールモデルを知りたかった:これも納得。いろんな大人を知っていることは自分の将来を描くうえで強いインスピレーションになる。アンテナを張っておこう。

特に直近のテーマとしては、真実告知のストーリーで使う言葉をきちんと考えることの重要性に気づかされた。

特にフランス語と日本語でかなりニュアンスが変わる言葉がある。

フランス語でLa mère adoptante / Le père adoptant / les parents adoptantsという言葉の直訳は養母/養父/養親。

それに対して、La mère biologique / le père biologique / les parents biologiquesの直訳は、生物学上の母/生物学上の父/生物学上の両親といったところか。

でも日本語で特別養子縁組を語る局面では、もっと一般的に使われている言葉があると思う。「実親」とか「本当のお母さん」とかだ。「産みの母」あたりは、「生物学上の母」と同じニュアンスかなと思うけれど、この「実親」もしくは「本当の親」という言い回し、フランス語で養子縁組の情報に接していると、とても違和感を覚える。

当事者になるまで気づかなかったけれど、こういう言葉に血縁主義のニュアンスが反映されている。パートナーに「『本当の親』と聞いて、養親のことだと思う?生物学上の親のことだと思う?と聞くと、「それは…もしかして日本では、生物学上の親のことを指すの?」と聞き返された。フランスでは同じ言い回しをするイメージがないし、仮に養子縁組家庭で、但し書きなしで単にles parents (両親)と言った場合は、養親のことを指す。一般的には。

親というものをどう定義するか。これもひとつの正解があるわけではないだろうけれど、少なくとも自分なりの回答は持っておきたい。

親というのは、こどもに安全で安心できる場所を用意して、食事を与え、お風呂に入れて、愛情を注いで、一緒に遊んで、一番近くで成長をサポートする人のこと、かなと思う。

日本語での真実告知。私は「実親」と「本当のお母さん・お父さん」という言葉は使わないかなぁ。

私が本当のお母さん、じゃだめ?

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