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Diary 2023/10/27 ルーマニアで殺されてしまった女の子の事

時々思い出しては考える事件があります。
それはこちら。

起きたのは2012年8月。
今から十年以上前です。
学生主導で運営されているNPO(名前は伏せますが現在も活動あり)を通してルーマニアのクラヨバという街に日本語教師としてボランティア派遣される事になっていた女子大生(当時20歳)が、空港からほど近い森の中で遺体で発見された事件です。
犯人はすぐに捕まりましたが、遺体はかなり酷い状態だったそうです。
被害者の女性が深夜空港に到着、そのまま空港からかなり離れた駅から3時間(調べたら実際には4時間でした)電車に乗らなければならなかった状況下、迎えに来るはずの現地スタッフは都合でキャンセル。
ひとりでいた被害者は、声をかけてきた犯人といっしょにタクシーに乗り(ここまではカメラに収められていたそうです)帰らぬ人となりました。
事件直後、派遣したNPOへの批判の声も大きかったのですが、組織はWEBをしばらく休止し、簡潔な謝罪を公表した後はすべてシャットアウト、責任追及は未だされていません。
深夜、知らない男にのこのこついていくからこんな事になるんだという被害者への批判の声も当時は多く聞かれました。

この事件があった時、私は欧州系企業の海外事業部に所属していました。
上司を含め、部内の人たちは毎年多くの海外出張をこなす人たちで、時にはそりゃいったいどこだよ?みたいな僻地にも行っていた人たちです。
この事件の報道をネットニュースで見た時、私の前に座っていた当時五十代の海外出張精鋭な男性が言いました。
「あんな所にそんな時間、女の子ひとりでいたなんて。かわいそうに、きっととても怖かっただろう」
聞けばその人はかつて、そこへ出張で行った事があるとのこと。
「犯罪なんて当たり前な状態で、昼間でも怖いし、男の僕でも怖かった。警察官がそもそも平気で悪さしているからあてにはならない、超危険な場所で、現地スタッフもいるのになんで深夜に女の子ひとり、そんな場所に行くような手配をしたんだ、ありえない」
恐らくそれは今もそれほど変わりはないだろうし、そうじゃなくても見知らぬ外国で深夜、女性がひとりなんてとんでもない話だ。
その人はそう言いました。
私の仕事のひとつに、海外出張の手配があります。
仕事上、時には危険だと言われる地域への出張手配みあります。そういう時はとにかく万全を期す。
現地のスタッフや旅行代理店の人たちともしっかり連絡を取り合い、情報を交換して手配をします。
それでも事故や事件は起こりうる。
東欧、危険と明確に情報が出ている場所によりにもよって深夜到着、しかも迎えもなし、挙句にそこから遠い駅から電車で数時間。
隅から隅までありえません。
死んでしまった女の子、どれほど恐ろしかったことだろうかと、今でも考える事があります。

いろいろ調べてみると、思っていた以上にそこには闇があるようでした。
出発直前に行先が突然変更になったというのは事実のようで、それについては当時手配責任をしていた別の女子大学生ふたりが関わっており、その変更は意図的に差配されたという話も多数出ていました。
また、組織も学生運営にありがちなおおざっぱな運営(これはあくまでも会社組織で働く人間の視点からです)で、トラブルの報告も多数あがっていました。
ただしこれはあくまでもネットにあがっていた記事や報告に過ぎないので、信憑性には欠けます。
何がどうあったのかはわかりませんが、少なくとも被害者はその組織に所属し、運営を信じて現地に向かったのですから、それが全てだと思います。
初めて行く国、東欧、深夜到着、そこからまた移動数時間、ひとりで夜行電車。
それをわかっていても行くと決めたのは彼女です。
そこに至るまでの気持ち、なぜそれでも行ったかは、彼女しかわかりません。

外国に行く事をむやみに奨励し、行けば世界が広がる、価値観が変わる、グローバルな視野を持つ事ができると言う考えを、私はあまりよいものとは思っていません。
確かにそれは実際あると思うし、良い部分もたくさんあります。でも、普通では考えられないような、考えも及ばないような事もたくさんある。そしてそちらが語られる事はそう滅多にはありません。
なぜなら、事件にまきこまれた人は生きてはいないかもしれないし、語ることすらできない状況にある可能性が高いからです。
幸い、私のまわりで外国で事件に巻き込まれた人はいませんが、知人の同級生がひとりタイで変死体で発見され、今も何があったかはわかっていません。
また、仕事で関わりのあった旅行代理店の方から、香港旅行中に行方不明になり、その後発見されたものの何があったのか語らないまま、帰国してすぐ自殺してしまった女性の話を聞いた事があります。
大きく報道された南米で殺された人が、私の知り合いの友人でした。こちらは海外に慣れた人だったそうですが、その自信がその人の命を危険にさらす事になっていました。
世界は広くて、我々が理解しがたいものもたくさんあるし、まったく知らない常識や環境、考え方があったりします。
ひとつ間違えば、ちょっとした運の悪さで命を落とすなんてことは当たり前のようにある。誰に何があってもおかしくありません。
外国に行っていろんな経験をしたい。
そう思うのはとても良い事だし、実行に移せるのならそうするのはとても良い事だと思います。
けれど、可能な限り、安全は期してほしい。
なんで旅行じゃだめなんですかね?
きちんとした旅行会社や短期滞在・短期留学の斡旋をしてる専門の会社を通せば、そりゃあそれなりにお金はかかりますが、その分安全と安心は確保できます。
安全と安心は、ある程度までは金で買えるんですよ。ぜひともお金払ってでも確保してください。

コロナが始まった頃、ゲーム友から相談を受けました。
彼は専門職についており、ワーキングホリデーでイギリスにある学校に通うためにずっと資金を貯めていたそうです。
それでさぁ行くぞ!となった時、世界中でコロナが蔓延。
問題は、彼の年齢がワーホリ申し込みぎりぎりだった事です。
コロナがなんだ、それでも行く!と決行した人が、彼の周辺にはたくさんいたそうです。
今年申し込まなければ次はない。けれど、コロナでロックダウンの可能性もある中、果たして行ってもいいのだろうかと、彼は悩んでいました。
私の答えは、「行くな」でした。
店も閉まり、交通機関にも影響が出ている外国に行くのはかなりリスクがあります。しかも疫病蔓延の中、見ず知らずの外国人に部屋を貸してくれる人がいるとは思えません。住むところが見つかっても、ロックダウンになったら食べ物や日用品をどこで買うか、どうするか、アテもなし。頼る人もなし。
たぶん学校もしばらくは閉鎖になるでしょう。
それで自分もコロナにかかったら、さらに入院にでもなったらどうする?
恐らく普通の海外保険ではカバーされません。とんでもない額の請求がきます。
たったひとり外国に入院でどうする?という問題もあります。
助けてくれる人はいませんし、病院はすべて英語。
英語で診察を受けて、対応してもらう事に不安はないのかという部分もあります。
運がなかった。その一言に尽きます。
でも、あきらめる必要はないとも言いました。
縁があれば、本当に行くべきならば、必ずまたチャンスは巡ってきます。

海外出張の手配をしていると、たまにびっくりするような事もあります。
まだ平穏だった頃のロシアに、上司の出張が決まりました。
行先は聞いた事のない場所。
調べたら、有名な大都市からも遠く、飛んでいる飛行機も1社だけでした。
サイトを調べたらロシア語しかなくて、さっぱりわからん。
なので、ロシアオフィスの人にメールして、どうやって手配したらいい?と尋ねました。
そしたらとんでもない返事が返ってきた。
「その飛行機、絶対に乗るな。落ちる」>一生忘れる事のない文言
「落ちるから乗るなって返事きた」と上司に言ったら、「なんで落ちるってわかってる飛行機が飛んでるんだ」という言葉が返ってきました。
結果、現地スタッフが車を出してくれる事になり、上司は悪路数時間、車にがたがた揺られて現地入りしました。「二度と行きたくない」そうです。
別の人が、ブラジルのリオデジャネイロに出張が決まった時は、オリンピックに関係した仕事でした。
リオに行くには、ファベーラと呼ばれる貧困地域を通ります。危険エリアとしても有名な場所です。
こちらは、取引先の会社が車を出してくれました。
「オリンピックがあるから、軍隊も出ていて街全体が封鎖された状態だったんで、けっこう安全だったよ」
帰国したその人が言っていましたが、武器装備の軍隊がいるから安全って、そもそも危険のレベルが違ってるよねという話でした。

なぜだかわからないけれど、ルーマニアで殺されてしまった女の子の事、時々ふと思い出します。
知らない場所の深夜の駅なんて、日本でだって怖い。
それをそんな、言葉も通じない外国にひとり、空港から降り立った時、彼女は何を想い何を考えていたのだろうか。
たぶん、ものすごく後悔したと思うし、ものすごく怖かっただろうと思います。
遠く離れた異国の小さな都市で、彼女は日本語を教える予定でした。
かわいそうに、といった海外駐在や出張を長年経験してきた会社の人が、事件の詳細を知った後、言いました。
「そんな名もない東欧の地方都市で日本語を学びたいって人、そういるとは思えない。そこでおかしいと思わなかったんだろうか。とりあえず旅行で行ってみるって、なぜそれではだめなんだろうか。周囲で誰か、そういうふうに思った人はいなかったんだろうか」




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