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模写の風景 画家の心 第13回「ピエール・ボナール 逆光を受ける女 1908年作」

 模写の風景 画家の心 第7回で、ボナールを「逆光の画家」として紹介した。
 対象物を逆光の中で捕らえ、それを表現し明確化させた最初の絵が、この「逆光を受ける女」であった。これを発表したのが、彼が41歳のときで、決して早咲きの画家ではない。ゴッホやゴーギャン、セザンヌたちが斬新な作品を生み出し、彼より数歳年下のピカソやマティスなどもすでに活躍していた。彼自身の焦りはなかったのだろうか。しかし、24歳のときの彼はこう述べている。
「私はひたすら何か個性的なものを作ろうとしているだけだ」
 そして、死を前にした80歳になって、
「芸術にあっては、大切なのは反発ということだけだ」、と。
 この絵のモデルは、実質的な妻であり恋人のマルトだ。彼女は結核を患っていることもあり、湿度の高いバスルームにこもりがちで、ボナールの友人にも会おうとしなかった。
 そんな暗い生活の中で「逆光を受ける女」を描き上げたのは、まぎれもなく正光を元に描いた印象派に対する反逆であり、反発である。彼の独創性の発現といえる記念すべき作品だ。


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