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CFOと管理部門管掌役員は兼務できるのか

『CFO思考』を読んで

ニコンや三菱UFJでCFOを務めた徳成旨亮氏の著書『CFO思考』(2023年、ダイヤモンド社)が話題です。
私も若輩ながら4年ほどCFOという肩書を持つ身として、大変興味深く拝読させていただきました。

さて、本著では、CFOと経理・財務担当役員のスタンスの違いが、それぞれ「アニマルスピリット」と「金庫番思考」というワードで表現されています。

アニマルスピリットとは「冷徹な計算と非合理的なまでの熱意」であり、CFOはアニマルスピリットによって「企業成長のエンジンとなる」ことが求められると著者は指摘します。
多様なステークホルダーとのコミュニケーションを通して、自社のリスクの許容度を図り、取れるリスクをしっかりと取っていくことがCFOの仕事だというのです。

一方で、金庫番思考とは「企業価値保全を第一にすべき」というマインドセットです。
アクセルを持たずに、ブレーキだけを発動するのが経理・財務担当役員の役割だということです。

CFOと管理部門管掌役員

『CFO思考』では、CFOと経理・財務担当役員の根本的な違いが指摘されますが、実際のところCFOと経理・財務担当役員、さらに言えばバックオフィス全般を管掌する役員を一人で兼任している例は多いです。
特にベンチャー企業では兼務してない事例を探す方が難しいのではないでしょうか。
かく言う私の肩書は「取締役CFO兼管理部長」であり、CFO就任当初からバックオフィス全般を担当する管理部門の管掌役員を兼務しています。

『CFO思考』以外に、CFOと管理部門管掌役員のスタンスの違いが問われたのは転職市場です。
現職に転職するにあたり、複数のキャリアコンサルタントと面談をしましたが、コーポレート領域のハイキャリア転職では、攻めのコーポレートと守りのコーポレートとどちらのキャリアを志向するのかと必ず問われたことを覚えています。
ここで言う攻めのコーポレートとは『CFO思考』のアニマルスピリットよりも狭義の意味で、資金調達ができるのかという意味で使われていたと思いますが、同じポジション名でも会社によって求められるスタンスが異なるのかと思ったものです。

このように、異なるスタンスが求められるCFOと管理部門管掌役員ですが、両ポジションを兼務することは可能なのでしょうか。
これは、私自身が兼務する立場で考え続けてきた問ですが、『CFO思考』を読み進める中で、改めて考える機会になりました。
(※あくまで私が本著から派生的に思ったことであって、『CFO思考』の直接的な感想ではありません。『CFO思考』には兼務の可否などを論じる記述はありません。)

自分はどちらのタイプか

私自身の話をすると、そもそも自分はどちらのスタンスの持ち主なのか、実のところ答えるのは難しいように感じています。

私は学生時代に公認会計士試験を受け、卒業とともに大手監査法人に就職し約4年間会計監査を行った後、株式会社カカクコムに転職し、約5年間IRと予算管理を、その後約5年間財務経理とコーポレートガバナンスを担当し、その後に現職に転職して4年ほど取締役CFO兼管理部長を名乗っています。

CFOや管理部門管掌役員の出自として、公認会計士または証券会社が多いのですが、どちらかというと公認会計士は金庫番思考を、証券会社の方にはアニマルスピリットを期待されることが多いように思います。

私は公認会計士出身でありつつも、それ以上の期間IRに携わり投資家と直接対話をしてきました。
言うなれば、金庫番思考が求められるキャリアと、アニマルスピリットが求められるキャリアを両方経験する機会に恵まれました。

CFOと管理部門管掌役員は兼務できるのか

金庫番思考が求められるキャリアと、アニマルスピリットが求められるキャリアを両方経験したうえで、現在私はCFO兼管理部門管掌役員として両方の役割を兼務しています。
果たして、異なるスタンスが求められるCFOと管理部門管掌役員を兼務することはできるのでしょうか。

良くも悪しくも、別の人間が担当すれば両者の役割分担が生まれ、管理部門管掌役員はより金庫番思考を、CFOはよりアニマルスピリットを発揮することにモチベーションを持つようになります。
牽制が上手く機能しないと、どちらかに振れてしまう危うさがあります。

勿論、兼務することは容易ではありません。
管理部門管掌役員とCFOとで異なるスタンスが求められるのですから、一人の人間が両方を兼務するのは、例えるなら金庫番思考とアニマルスピリットの両刀を持った二刀流の使い手になるようなものです。

両役割の間で難しさを日々実感しながらも、個人的には兼務してこそ成し得た事柄が多かったように思っています。

迅速な意思決定

ベンチャー企業にいると、事業の戦術の方針転換は日常茶飯事で、事業部の意思決定のスピードが本当に早いと感じます。
それは、事業を取り巻くあらゆる意思決定にもスピードが求められることを意味します。
意思決定に時間をかけていると、事業に会社がついていけなくなるのです。

CFOと管理部門管掌役員を兼務することで、事業を取り巻く様々な事項に対して迅速に意思決定をし、コーポレートアクションをスムーズに進めることができます。

ステークホルダーからの分かりやすさと安心感

私が今の会社で初めて資金調達をした際に、出資いただいた投資家から「BSやCFの事業計画がしっかり作られていたことが決め手の一つだ」と言っていただいたのを覚えています。
アーリーステージのベンチャー企業で、事業計画をバランスシートの視点からも説明していることで信頼を得ることができました。

もっとも、CFOとしてもBS・CFの観点から事業計画を説明するスキルは求められますが、CFOと管理部門管掌役員が分かれている場合、PLはCFOで、BS・CFは管理部門管掌役員というように役割分担が出来てしまいます。
CFOと管理部門管掌役員を兼務していたことで、PLとBS及びCFの全てに責任を持っている者として投資家と対話できることは、調達において強みになります。

管理部の組織づくり

管理部門管掌役員とCFOを兼務する最も大きなメリットは、管理部の組織づくりだと感じています。

管理部は、コンプライアンスを遵守しながら事業部の後方支援をします。
管理部門管掌役員は、管理部のトップとして、管理部の在り方を示す立場にあります。
コンプライアンスをど真ん中でいくのか、あるいはエクスプレインできるギリギリを行くのか。
後方支援は落ちてきたボールを拾うのか、あるいは後ろから押してスピードを加速させるのか。

管理部門管掌役員とCFOが併存し、役割を分担している場合、管理部門管掌役員には金庫番の役割が強く求められます。
金庫番の役割を担う管掌役員が管理部の在り方を示す場合、どうしてもコンプライアンスのど真ん中から逸れずに、落ちてきたボールだけを拾うチームになってしまいます。

管理部門管掌役員とCFOが兼務することによって、CFOとして求められるアニマルスピリットを体現するチームとして管理部を位置づけることができ、適切なリスクを取ること、事業部を加速させることをチームの方針として掲げることができます。

組織へのメッセージ

分担するにしろ、兼務するにしろ、実際に会社運営をしていると、金庫番思考を持ちながらアニマルスピリットを発揮しなければならない場面がたくさんあります。
その度に、どちらかが強くなりすぎていないか内省し葛藤します。
個別の事案に関しては、トライアンドエラーを重ねながら、この先もずっと葛藤を続けていくよりほかはありません。

むしろ、考慮すべきは組織の風土、特に管理部門の風土への影響です。
管理部門は管理部門管掌役員の配下として、金庫番思考にプライドを持ってしまうことが往々にしてあります。
管理部門は他部署との関わりが強く、その風土は組織全体へと波及します。

金庫番思考とアニマルスピリットの葛藤を管理部門の組織にいかに内在させうるか、管理部門管掌役員かCFOかではなく組織としてこの葛藤を持ち続けられるのかこそが重要なテーマになるのです。

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