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壊れた花たち

小学生の時、映画『ゴーストバスターズ』を観て、ビル・マーレイが大好きになった。思えば初恋だったのかも知れないw
8歳にして、34歳の若ハゲ気味なアメリカのコメディアンを好きになるとはなかなか渋い趣味だけど、あの飄々として無愛想な、でもどことなく寂しげなキュートさに、子供ながらにハートを掴まれてしまったのだった。

初恋のひとw


だからこそ当時の表現で言えば「VHSテープが擦り切れるくらいまで」ゴーストバスターズを鬼リピしたのだと思う。

さて、なんで突然こんな話をしたかというと、連休の暇つぶしに、と軽い気持ちで観たビル・マーレイ主演の『ブロークン・フラワーズ(2005年)』が思いの外、めちゃ良かったから。

カンヌも受賞してるし、割と話題になった映画だから観た方も多いと思うけど、私は今回が初見。そして、中高年になったビル・マーレイの相変わらずの寂しげなキュートさにすっかりやられてしまいましたw

ネットに転がってる程度のあらすじだけ書くと…
若い頃モテ男だったドン(ビル・マーレイ)は、ITビジネスで一山当てて、人生アガリのセミリタイア独身貴族。ある日、恋人に愛想を尽かされ出ていかれた朝に突然、差出人不明の手紙を受け取る。そこには「あなたと別れた後、密かにあなたの子供を産み育てていた」という衝撃の告白が。最初は乗り気でなかったものの、友人のすすめで元カノを一人一人訪ね、差出人を探す旅に出るというロードムービー。

揃いも揃って美しい元カノたち

中年のオジサンが元カノを訪ねて回るという設定だけでも「今更何なん?」的なしょっぱい哀愁漂うけれど、元カノが揃いも揃って美女なのと、ビル・マーレイの隠し味みたいな色気がとても良いスパイスとなって、それぞれの再会に深い味わいをトッピングしてくれている。

特にシビれるのが、再会の瞬間の元カノの表情。喜び、当惑、怒り、憂鬱。いろんな反応はあるけれど、その隙間から一瞬だけ垣間見える乙女の表情が秀逸で。さすが名だたる名女優揃い、ほんの数ミリな超微炭酸の恋心(未練?)を表現されるのがとってもお上手で、その可憐さ・美しさにこちらまでキュンとしてしまう。

そしてそれを受けるビル様の抑えめな優男っぷりがまたセクシーで。疲れたオジサマが不意に見せる、ほんの微かな「かつては色男だった感」笑
これ、自分自身がオバサンになったからこそ感じ取れる類のものなのかも知れない。若い頃の私が見たら、単なるくたびれたオジサンと、やや欲求不満なオバサンの再会劇にしか見えなかったと思うもの。

ま、ストーリー自体はあってないようなもの、というか結末の明言はなく、語らぬことでそれぞれの人生を語る、という感じの作品なのだけれど、端々に醸されるこの微妙な「何か」を味わうことが、この映画最大の醍醐味だと個人的には感じた。


青年に哲学的アドバイスを


そしてタイトルの「ブロークン・フラワーズ」は、「やっぱり女性はいつまでもお花だよ」ってメッセージに私には感じられた。

もうあの頃とは違う。ただ純粋でまっすぐだった頃の、わかりやすい美しさはないかも知れない。それぞれの経験を経て、諦めたり、妥協したり、嘘をついたり、助けを求めていたり。みんなどこか危うくて、壊れていて、それでもしたたかに美しく咲いていて。男の人は、そんな女性をどこか恐れつつも愛しく感じている。なんだかんだ言っても女の人にはかなわないよ。そんな、ちょっとずるいけど優しい、男の人のまなざしを感じる作品だった。


それにしても、老いてなお(いやらしくない)セクシーさが増しているビル・マーレイ。久々にハマりました。次は『ロストイントランスレーション』を観ようかな。

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