エス
またせたなハルカ。
ハルカ
こんにちは、なんだかとても久しぶりな気がしますね看守さん
エス
そうだな
ハルカ
なんだか大変なことになりましたね第二審…でしたっけ。ミルグラムの中の雰囲気も変わってしまって…
エス
コトコはとんでもないことをしてくれたようだな。他のみんなの状況はどうだ
ハルカ
フウタやマヒルさんはケガで大変そうです。こういう状況なので、僕たちはシドウさんを中心に固まっています。コトコさんだけが1人で行動しています。
エス
…？
ハルカ
ああ、ええと、コトコさんは今は攻撃の意思がないということを伝えてきてそれで、て、停戦交渉というのをシドウさんとカズイさんがしてくれて…
エス
あぁ…。…？
ハルカ
…あ、あの…どうかしましたか看守さん
エス
お前…本当に櫻井遥か？
ハルカ
え？あ？何を言ってるんですか、僕ですよ。…でも最近みんなにも言われます。変わったって…
エス
あぁ…第一審の頃、恐怖に震えていたことを考えると、何とも堂々としたものだ
ハルカ
えへへへっ
エス
いいことなのか、悪いことなのかは知らんがな
ハルカ
変わったんだとしたら嬉しいです。僕は今までの僕がとても嫌いだったから
エス
はぁ…
ハルカ
あ、ああのっ僕がこうなれたのは恩人が2人いると思っていて、その1人は看守さんで、だから感謝を伝えたかったんです。看守さんに。
エス
感謝？
ハルカ
看守さんが僕を赦してくれたから、僕の行いを間違いじゃないって言ってくれたから、僕は、変われた！僕は看守さんに救われたんです。
エス
僕がお前を救っただと…コトコの言っていたことはこういうことか。僕が許しを与える存在になれると…
ハルカ
え？
エス
…前向きになれたなら良いことなのかな
ハルカ
はい、ずっと不安だったんです。僕は僕みたいな価値のない人間が、注目を集めるために人を殺した、きっと僕よりも価値と未来のある人間を…でもやっぱり僕は何も間違ってなかったあの子を殺したのは間違いじゃなかった何も不安に思うことはなかったんです。
エス
ほお？
ハルカ
不思議な感覚だったんです。看守さんがたくさんたくさん許してくれた、たくさんの人が僕を受け入れてくれたような…あはぁ…！初めての感覚だったんです。
エス
はぁ…櫻井遥、お前は人間を殺した。きっととても個人的な理由で、幼く力ないものを。そうだな
ハルカ
ほ？うん。
エス
動物も殺したか、いかがなものかと思うが、ミルグラムに問われているのは人殺しだから、別の問題としてやるか。いや、それすらも僕次第か。
ハルカ
あ、あの、何を…
エス
ああ、すまない、本題から逸れた。いいたいことは人殺しが何をそんな救われたような顔をしているんだということだ。
ハルカ
え？
エス
あくまで第一審の結果に過ぎない。現在持ちうる情報から暫定的にそう判断したにすぎない。だというのに、全く人殺しが何を喜々と語っている。
ハルカ
…あ。
エス
それも僕がお前を救ったと。思い上がりも甚だしいくだらんくだらん。くだらん上に、気に入らん。
ハルカ
…んっ
エス
お前の人殺しはまだ説かれている最中だ。…そういう意味で今のお前のあり方は間違っている。
ハルカ
え、ええっ、ええ…っ
エス
調子に乗るなよ。変わったのは結構だが、前のお前の方がまだ賢かったんじゃないのか。
ハルカ
んぐぅうううっ！なんで…っなんでなんで！（何かを飛ばす音）なんでそんなこと言うんですかっ！
エス
？！
ハルカ
おかしい、看守さんが赦すと言ったんだ。僕が間違ってるっていうのはおかしい。
エス
！
ハルカ
うわぁ！おかしい！おかしい！！
エス
騒ぐな。目障りだ。
 
ハルカ
ひどいいい…ひどいぃぃ！ぼ、僕、僕は僕より小さな生き物なら、殺せるんだぞ？！
エス
はは、ずいぶん態度が大きくなったものだ。やってみろ馬鹿が。
ハルカ
僕を！馬鹿にするなぁ！！…っ。体が動かないっ…
エス
記憶力もないのかお前は囚人から看守への暴力は禁止されている。…ま、ただ1人を除いてな。
ハルカ
く、くぅうっ
エス
そうやって首を絞め殺したか、卑劣にも自分より小さく非力なものを。
ハルカ
うるさぁい！！うぁ！（ビンタの音）
エス
バカな貴様に罰則としてビンタをくれてやろう、これで初心を思い出すがいい。
ハルカ
ん、んぅっ…馬鹿じゃない。
エス
馬鹿だ馬鹿、僕は身の程を知っている馬鹿は嫌いじゃないが、今のお前は調子づいた馬鹿だ。見ていて反吐が出る、バーカバーカ。
ハルカ
ぐっ…ひどい…！
エス
わかったら、とにかく落ち着けハルカ。前のお前は話の要領こそえないものの、もう少し素直な…
ハルカ
…！…！！
エス
なるほどね。ミルグラムが三審までわかれている理由に少し納得がいった。お前たちは、いや、人間とは他者に存在を許容されるかどうかで、いとも自己のありようを変えてしまう。
ハルカ
…ええ？
エス
お前たちに下した審判が水面に投げた小石のように波紋を起こし、そして、今まで見えなかった水中の景色を見せてくれるわけだ。ハルカ。お前は肯定されたことで、より深い場所を見せてくれているわけだ。僕は今のお前はあまり好かんが、それも偽らざるお前の本質。僕が見つめるべきものの一つ。
ハルカ
看守さん…ずっと何言ってるかわからないです。
エス
僕がお前を許すと判断したことを間違いとは言わない。…だが。今一度思いを見つめる必要があるということだ。
ハルカ
許すって言ったのに。
エス
最初から三審制だと言ってある
ハルカ
なんで。そんなに僕をいじめるんですか。
エス
いじめてない。赦すべきか、赦さないべきか、見極めようとしているだけだ。それこそお前の行いが間違いかどうか。
ハルカ
間違いなわけない。だって！そうでもしないと、誰にも見てもらえなかったんだ！
エス
注目を集めたくて殺したか、誰にも愛されなかったお前が
ハルカ
そうだよ！…だって！僕がただ出来の悪い人間のままだったら興味を持ってくれないんだから！！
エス
だからと言って人を…
ハルカ
僕だけ不公平じゃないか！僕だけ生まれたときから何もできなくて、周りと同じことができなくて、お母さんは僕を諦めて、お母さんの世界から僕はいなくなった。
エス
そのために人を殺すことが正しいことだと思っているのか
ハルカ
知らないよ！じゃあどうすればよかったって言うんだ。お母さんの大事なものを盗んだって、興味すらもってくれなかったんだ僕は僕は諦めた分もいればよかったっていうの！僕だけそうすればよかったっていうのかよ。はぁ…はぁ…
エス
安心しろお前の事情も思いも含めて最終的に僕が判断…
ハルカ
やっぱり看守さんは僕のお母さんじゃない。
エス
はあ？最初からそうだが？
ハルカ
そうか。そうか、お母さんは1人しかいないもんな。僕を見てくれなかったお母さんはお母さんじゃなかったんだ。
エス
何を言っている？
ハルカ
うふふふっふははははは…
エス
だいぶ怖いぞお前。
ハルカ
はい、ごめんなさい看守さん、迷惑をかけてしまって。僕のお母さんはムウさんだけだった。
エス
は？
ハルカ
ムウさんはお母さんなんです。
エス
違うと思うが。
ハルカ
いいえ？
エス
「いいえ」なことがあるか。
ハルカ
ムウさんは僕を褒めてくれるんです。駄目な僕を褒めて。認めて、見つめて、そして必要としてくれる今の僕があるのはムウさんのおかげなんです。
エス
恩人が2人と言っていた。もう1人はムウか。
ハルカ
はい。ムウさんがいればいい。それだけでミルグラムに来た意味があったんだって。本当のお母さんに会えたんだから、僕は幸せです。…ごめんなさいさっきはただをこねて、いい子でいないと…ムウさんのためにも。
エス
これは囚人同士の欲求や利害の合致ということか。そういうこともあるか。母を求めていハルカ。ムウは一体、ハルカに何を求めている？

（荘厳な鐘の音）

…！…時間か情報量が多くて頭がついていかない。
ハルカ
あ、あのなんだかごめんなさい
エス
急にしおらしく成りやがって。…はっ。最後に何か言い残すことはないか。
ハルカ
え、えっと、言い残すこと。言い残すこと。
エス
ないならいい。
ハルカ
あ…いえ、ありました
エス
なんだ。
ハルカ
看守さん。ムウさんはミルグラムに怯えています。これ以上ムウさんをおどかすのをやめてください。
エス
この場で他人のことを心配するか。
ハルカ
はい。次もムウさんを赦してください。
エス
言っ…てくれるじゃないか。ムウを母と慕うのは結構なことだが、お前を利用するために優しくしているのかもしれんぞ。
ハルカ
だからなんだっていうんですか。
エス
！
ハルカ
利用されてたからなんですか、利用されるっていいことじゃないですか。僕に利用する価値があると思ってくれるなんて幸せなことじゃないですか。
エス
ハルカ…お前。
ハルカ
ムウさんを赦さないと。殺しますよ。
エス
学習能力の無い男だ。お前に僕は殺せない。
ハルカ
ああ。そうでした。死にます。
エス
…貴様！
ハルカ
それは禁止されていましたか。
エス
記憶にないな。
ハルカ
ほらぁ、僕は馬鹿じゃないでしょう？！
エス
ああ。訂正する。お前は本物の大馬鹿者だ。
ハルカ
そうなんです。生まれつきね。
エス
囚人番号１番ハルカ！お前の罪を歌え！！