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ラジオ文字起こし NHKジャーナル「聞き取り困難症」(2024年4月3日)

【非公式の文字起こしの為、関係者からの求めに応じて削除する可能性がございます。ご了承ください】


――ジャーナル医療健康。今日は、聞こえるのに聞き取れない、「聞き取り困難症」について。 耳は正常に聞こえるのに、周りがうるさかったり、複数の人数で会話するときなど、言葉が聞き取りにくくなる症状があります。 そのため、学校や職場でコミュニケーションがうまくいかず、悩みを抱えている人が少なくないことが分かってきました。専門家でつくる研究グループが大規模調査を行い、先日、日本で初めて診断と支援の手引きが発表されました。 専門家に聞きます。 医師で大阪公立大学院 聴覚言語情報機能病態学 特任教授の阪本浩一(さかもとひろかず)さんと電話がつながっています。阪本さん、どうぞよろしくお願いします。

阪本さん はい、よろしくお願いいたします。

――阪本さん、まず、言葉が聞き取りにくくなるということでしたが、聞き取り困難症と難聴というのはどういうふうに違うんでしょうか。

阪本さん はい。これがね、とてもややこしいんですけれども、その音自体がちゃんと聞こえてるかどうかっていうことを評価するのがいわゆる聴力検査で、 それによって普通の状態よりも大きな音でしか聞こえないっていうことは難聴と言ってるわけですね。 で、今回のこの聞き取り困難症の方に関しては、その聴力検査では全く正常で、普通に音は聞こえてるわけです。ところが、ある状況、例えば人が複数人数で話しているとか周りに雑音がある状況で、 普通の方に比べて聞き取りがとても悪い、こういうような自覚症状を持っているということですね。 脳に伝わってきた音が脳に到達して以降の問題によって処理がうまくいかなくて、様々な状態で聞き取りにくさを自覚してしまうっていうような状態のことなんですね。主に脳の中枢の問題とされています。

――そこで、先月、診断と支援の手引きというものを出されたということですけれども、こちらのポイントっていうのはどこになりますか。

阪本さん まずね、このいわゆる聞き取り困難症っていう、この症状っていうもの自体が一体どんなものなのかっていうことが、耳鼻科の先生たちの中で統一されて、診断するっていうことが行われてなかったんですね。
で、今回の、初めて作られた診断の資料の手引きの1番のポイントは、こういうふうに、聴力検査では正常なんだけど、 実際聞き取り困難をとあるシチュエーションで感じてる人たちっていう人たちがちゃんといて、そういう人たちっていうのは、やはり非常に困り事を抱えていて、支援が必要であるということをはっきり書いた、ということが1番のポイントだと思います。

――今は全国に聞き取り困難症の方、どのぐらいいると考えられているんでしょうか。

阪本さん これはまだちょっと我々のところでも成人の正確なデータはないんですけれども、 ざっくり見積もっても全国民の大体1パーセントだから120万人程度はいるだろうと、それは最低限ということで。 だから、かなり割に皆さんの周囲にたくさんおられる状況だと思います。

――ただ、この診断を受けていない方も数多くいらっしゃるということなんですよね。

阪本さん うん、そうですね。むしろ診断受けてない人の方がはるかに多いということでしょう。

――具体的にこの聞き取り困難症の症状というのはどんなものなのか、5年ほど前に聞き取り困難症と診断された40代の男性に伺いました。

男性のインタビュー「僕、お仕事でパン屋で働いておりますけれども、モーター、あるいは冷蔵庫のファン(換気扇)の音なんかが職場にすごく響いてる状態なんですね。ですので、両隣にいる人が会話が成立してるんだけども、間にいる僕だけ 指示が全く聞き取れてなくて、何回も聞き返すっていうようなことがあったりもします。相手が何か言ってる、でも『うぅえええううええ(言葉にならない音)』みたいな。抑揚とか声のアップテンポ、わかる。最後、多分クエスチョンで何か聞いてるなっていうのはわかる。 ただ、『何を聞かれてるのか全くわからない』みたいなことが生じます。で、それが他の人が普通に会話ができてる中で1人だけそういう状態なので、 そうすると『聞く気あるの?他の人はわかってるのになんであなただけわからないの?』みたいな感じになる。ただ、子供時代から授業中、すごく困ってたのは、そう言われると記憶があるんですよね。なので、子供時代から困ってはいた。で、それに自覚したのがやっと大人になってから。っていうか…」(インタビュー終わり)

――これ、音としては聞こえているのに、会話の意味がこう、把握できない。難しい。 それ、これは周囲との関係にも影響してくるということなんですね。これ、阪本先生はこのお話、どのようにお聞きになりましたか。

阪本さん 小さい時には、ま、若干そういうことがあったかもしれないんだけど、そんなに大きな問題とは思っていなかった。ところが、いわゆる就労ですよね、お仕事のいう…こうなんか結構厳しい環境に出た時に、自分だけ電話をとっても聞こえないと。 で、他の人たちが聞こえてる状況で、聞こえないってことで、 「できない人」のようなことに思われてしまって非常に傷つくっていうようなことがあって初めて受診してるっていう方が結構多いんですね。だから、今のようなことをおっしゃるような方っていうのはすごく多いと思います。

――じゃあ、もしも同じような症状で悩んでいる方、自分は聞き取り困難症かなと思ったら、まずはどうしたらいいんでしょうか。

阪本さん まずは近くの耳鼻科に受診してほしいんですね。それなぜかっていうと、軽度の難聴っていうのは、いわゆる聞き取り困難症と同じ症状を呈するんです。 で、我々のところに聞き取り困難症じゃないですかって言われて、実際は軽い難聴があった方っていうのは一定の割合おられるんですね。 だから、まずは難聴がないのか確認する必要があるので、そのためにはやっぱり耳鼻科に行って検査する必要があると思います。

――そこで、難聴ではなかったら次はどうなるんでしょうか。

阪本さん これ私たちが いわゆる質問紙っていうアンケートのような質問紙を何種類か手引きでも提供してるんですけれども、それによって聞き取り困難はいわゆる点数化して 自覚症状の程度を評価できるんですね。だから、ある一定以上のその症状がしっかりあって、なおかつ聴力の検査が正常である人の場合は、やはり聞き取り困難症と考えていいと思うんですね。

――確かに、先月、診断と支援の手引きが出たということですから、まだ医療機関でも認知していないところもあるかもしれないですよね。そういう場合、見てくださる病院を調べる方法ってありますか。

阪本さん まず、私たちの調査でも、耳鼻咽喉科医の中で、このいわゆる聞き取り困難症の認知っていうのは、3年前に比べると結構上がってはきているんです。 でも、やはりまだそんなに広がってはまだいないので、 そういう時には私たちのホームページ、いわゆるLiD研究のホームページとかで見ていただける施設っていうのを紹介しておりますし、大きな機関、病院では徐々に診療ができる体制が整いつつありますので、お問い合わせいただければと思います。

――はい。今先生からご紹介いただいたホームページですが、「聞き取り困難症」で調べると1番最初に出てくるということです。参考になさってください。 坂本さん実際に診断を受けた後はですね、具体的な治療法っていうのはどうなるんでしょうか。

阪本さん はい。これはね、いわゆる薬物の治療をしたり、例えば手術、直したりってことができないわけですね。 じゃあこれじゃあ何のためにこういうことするんだっておっしゃることも多いんですけれども、まず1つ、 自分の聞き取り困難がこういう状態であるってことを知っていただいて、それを自分で説明していただく。そして声をかけてもらうだけで、例えば指示を短くしてもらう、 それから文書でもらうっていうような、そういうちょっとした配慮で、かなり過ごしやすくなる方が多いっていうのは大きな事実です。 こういう状態を持ってる人がいる、いるっていうことをみんなが知っていれば、じゃあ聞き返しされてもしっかりじゃあもう1回言いますねとか、ゆっくりはっきり話しますねっていうような、ちょっとした配慮ができるんですね。だから、やはりこの状態っていうのがあるよっていうことを、できるだけ多くの方に知っていただいていくというのも重要なことだと思います。

――ここまで、大阪公立大学大学院特任教授、阪本浩一さんに聞きました。阪本さん、どうもありがとうございました。

ありがとうございます。

番組最後、質問コーナー

――番組に寄せられたメッセージをご紹介します。今夜のジャーナル医療健康は聞き取り困難症についてお伝えしました。 医師の阪本さんと再び電話がつながっています。阪本さん、どうぞよろしくお願いします。

阪本さん はい、よろしくお願いします。

――このような質問が届いています。snsです。 「聞き取り困難症、私も思い当たることがあります。我が職場の朝礼は、冷凍庫のファンや扉の開閉、 手押し車などのバックノイズに満ちた中で上司が話すのですが、話の最後は分かるものの、内容は十分に聞き取れません。来週、職場の人間ドック受診ですが、こういう場で医師に相談してもいいでしょうか?」という風な質問ですが、阪本さん、どうでしょうか。

阪本さん はい。今の話を聞くと、やはり聞き取り困難症の可能性はあると思うんですね。だから、まず人間ドックで、多分聴力検査とかもあるかもしれないので、それで何か引っかかったところがあったのかどうか、または全然なかったのかってことを含めて、お医者さんにご相談されたらどうでしょうか。 で、どちらの結果を持ったとしても、症状があるんであれば、耳鼻科を受診して聴力を調べてみるか…したほうがとってもいいのじゃないかなと思っています。

――はい、ありがとうございます。続いて投稿フォームでいただきました。神奈川県の40代の男性「 聞き取り困難症知りませんでした。目に見えない症状で悩まれている方はとても辛いと思います。 もし診断された時は、周りのみんなに病気を知らせるうまい方法などはあるでしょうか?」ということです。阪本さん、いかがですか。

阪本さん あの、これはやっぱりこの、どういう風に伝えるかっていうのはとても問題だと思うんですけれども、まず1番簡単なのは、やっぱり自分は少し聞こえが、聞こえづらいんですということを言って、それに対して、聞こえづらいのでよく 聞き返したりするし、何か自分に言う時には声をかけてから言ってくださいねっていう風にお話するのが話しやすいんじゃないかなと思います。

――そしてさらに質問ですが、「自分も聞き取り困難症だろうな、 数年前に聴覚情報処理障害という言葉を聞いたけど、同じかな?」というふうにいただいています。これについてはいかがですか。

阪本さん はい。この聞き取り困難症っていうのは、従来、いわゆる聴覚情報処理障害、APDっていう風に言われていたものなん ですね。はい。ただ、私たち、こういう研究とかを進める中で、 いわゆる聴覚情報の処理以外のいろんな要素っていうのもこの聞き取り困難症にはあるだろうっていうことを考えて、あえてこう広くAPDを含めてもう少し広い概念として聞き取り困難症という言葉を使おうという風に今推奨しているところです。

――うん、やっぱりこの聞き取り困難症であってもなかなか周りの方に言えないという方も多いという風に聞きました。やはりこれ、周囲の皆さん、我々含めてですね、広くこの症状があるんだってことを知ることも大事かもしれませんね。

阪本さん そうですね、やっぱりこういうのは、知らないと、もう「なんで君、こういうの聞いてないんだ」とか、「聞く気がないのかな」とか、そういう風に言われてしまって、すごく傷ついちゃう方がすごく多いんですね。 うん。だから、やっぱりこういうことがあるよっていうことがみんなに広くこういう風にメディア等で知っていただいて、お互いにこういうことの困ってる方々にちょっと手助けができるような社会になるといいなと思って、今研究を進めているところです。

――今日の先生のお話はその一助になったと思います。ありがとうございました。

阪本さん はい、ありがとうございます。

――そして、阪本先生たちのホームページがあるということで、受診できる医療機関、全国でおよそ20か所の病院リストを紹介しているということですが、ホームページ名が 「聞き取り困難症 聴覚情報処理障害」というホームページで「聞き取り困難症」で調べると1番最初に出てくるということです。

阪本さん はい、ぜひご覧いただいて、そこに手引きの方も載せておりますので、興味ある先生方もぜひ見ていただければと思います。

――ここまで、坂本さん、どうもありがとうございました。

阪本さん はい、ありがとうございます。

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