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68| 今この瞬間

  バラ科のサヤナギザクラ属であるが、中国から渡来すると、花が梅の花を思わせるために、梅咲空木(ウメザキウツギ)との和名がついた。
 後世、花が利休忌前後に咲くため、茶花としても好まれるようになり、利休梅(リキュウバイ)の名が定着したものと思われる。
 他にも、梅花下野(バイカシモツケ)、丸葉柳桜(マルバヤナギザクラ)など様々な名をもつ。

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4月1日

  目の前に現れた瞬間、思わず、「わぁ、利休梅!」「うわぁ、こんな花なんだ!」「うわぁぁぁ」と、おのおの、子どもみたいに無邪気な歓声と、声にも音にもならないような、余韻のような振動が。

梅咲空木(利休梅)

  卯月、清明。芽吹の頃の、日々の稽古場。

くろもじの芽出、淡黄色の小さな花蕾をつけた枝と
都忘れの花
4月4日

  お茶には、喫茶と食事を結び合わせた『茶事』という、ひとつの饗応があります。今回は、その一端、炭ー火のことを、すこしだけ。

  茶事は、元来、空腹時に濃厚なお濃茶を飲むと、胃がびっくりしてしまう…!ことから、その前に、少量の食事(懐を石であたたむる、の懐石)を摂っておき、その後にお茶を、、、。

 このところ、日々の稽古場は、正午の茶事の流れにそって、お炭からはじまります。

 朝10時頃、下火(丸ぎっちょ炭)を3本起こし、お釜に水を入れ、下火にかけておきます。
迎付、席入りを経て、初炭手前を行い、下火から火継ぎをすると、ここから、食事をはさみ、陰陽転じて午後一番に差し上げるお濃茶を迎えるため、火相(火のおこりぐあい)は大きく拡大してゆきます。

 場の極を迎えると、火も湯も収縮へとその向きを変え、火の勢いは落ち、湯もほどなく追尾します。
そのため、お濃茶の後、薄茶を差し上げるまでの間に、火相と湯相を、次の薄茶を差しあげるに適うよう、調えるのが、後炭のお手前になります。

後炭(ごずみ)、炭継ぎのあと

 所謂お茶に用いられる茶炭は、規定の寸法と名前を持ち、置く位置も、そのおおよその決まりなどの一応はあるのですが…。

 茶事の全体に添い、火相と湯相の流れの中にいると、あぁ、なるほど…。と深く感じる、精緻な設計に、あぁ、見事だなぁ…!と、感動を覚える瞬間がたくさんあります。

 火相、湯相もまた、お茶における一期一会といっても、けして過言ではなく…。
天候ー気温や湿度、風の向き、強度、器やお人の数なども含め、そこにある、ありとあらゆる様々な要素が、瞬間の火相や湯相と影響しあっています。

 “生きたお茶のための、活きた湯、そのための活きた火” 「活火活湯」という言葉があるそうですが、そのために炭を置き、炭を継いでゆく。

 ですから、一応の決まりをこえて、直ぐ、働きの世界へと移り変わってゆきます。

 止まることなく、動き、移り続けているなかで、一服のお茶を差し上げるということは、全耳を澄ませ、全呼吸を澄ませ、全感覚を澄ませ、、、あること。

 なにぶん、お釜をとりあげて、目で、火や湯加減を確認したり、もしくは温度計で湯の温度、煮え具合をはかる…などとは、しないので!(笑)

 これは、勘…ということとも少し違い、鍛錬…ということとも少し異なり、、、(と書きながら、そのどちらも含まれるような気もする…(笑))。

 存在を澄まし、感覚をすり合わせ、いま、という瞬間を創造するようなこと…とも言えるような。

 場を移し、引越してきた当初の秋〜冬は、火相・湯相の調律調整についても馴染むまで、四苦八苦しました。
ひるがえってそのことがいま、さらなるお茶の奥行きや幅、面白さの実感となっていて、毎瞬間の実践の場を、創出しているように思います。


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