半分青い

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白井智之「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」読了

本格ミステリの傑作。内容としては大雑把に二部構成になっていて、前半の事件が後半の事件の前振り・伏線となっていて最初から最後まで読み応えがあった。シリーズ前作「名探偵のはらわた」の作風を踏襲し、エログロ・スカトロ要素が抑え気味で有名な実在の事件をモデルにした内容。前作との違いとして、長編であること、海外の事件であること、タイトルが伏線回収されることがあげられる。圧巻の解決編150ページ、とはいうけど実質的には全ページの半分近くを探偵役が推理を披露する解決編になっていて、ロジック

    • 夕木春央「方舟」読了

      淡々とした描写で書かれた本格ミステリ。読者にわかりやすいシンプルなロジックを用いての探偵役の消去法推理、フーダニット犯人当ての完成度が素晴らしく本格ミステリとして高評価。犯人の動機も、これでもかとばかりにしつこい伏線描写を回収しての納得できるもの。が、この作品の真価はラストもラストエピローグからで、文字通り頭をバットで殴られたかのような衝撃を受けて戦慄した。 著者・夕木春央のデビュー作はメフィスト受賞作で、独特の文体を用いて明治・大正に書かれた探偵小説の雰囲気を再現しようと

      • 島田荘司「斜め屋敷の犯罪」読了

        1982年講談社ノベルス刊行。 メイントリックのためだけに作られた舞台となる斜め屋敷こと流氷館。 明かされてしまえばトリックは至ってシンプルなのにバカミスにならずレジェンド扱いされるのはやっぱり、「読者への挑戦」までに丹念に執拗までの伏線が描写されるし、ミステリ面以外での物語を盛り上げる島田荘司の筆力は大きかった。 絶海の孤島や吹雪の山荘のクローズドサークルってわけではないのに、事件が起きて第1の殺人事件が起きて警察が介入するのに関係者は避難するでもなく警察関係者と一緒に

        • 綾辻行人「水車館の殺人」読了

          戦後日本、リアリズム重視の社会派推理小説がミステリ界を席巻し新たな本格ミステリ小説が供給されない、いわゆる「本格ミステリ冬の時代」が長らく続いた。そんな暗黒時代が終わりようやく訪れた待望の春、──綾辻行人「十角館の殺人」の衝撃のデビューである。しかし「十角館の殺人」は読み手が論理的に犯人を限定する手掛かりに欠けていてとても本格と呼べる代物ではない、そんな本格ミステリマニアからのバッシングに応えたのが本作「水車館の殺人」だ。作中舞台は岡山県で白い仮面を被った作中人物が登場する、

        白井智之「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」読了

          太田忠司「美奈の殺人」読了

          1990年講談社ノベルス刊行。 この作品は新本格なのか?というか、そもそも本格ミステリなのか? 登場人物はアウトローばかりで酒とドラッグとセックスが飛び交うし、探偵役を務めて事件を捜査するというよりは不意にアクシデントに巻き込まれての物語の展開はサスペンス性が強い。なにより主人公は陰鬱でニヒルで名前の出てこない「僕」のまるでハードボイルド小説だし、そのうえ推理小説が嫌いときたもんだ。同じ新本格のカテゴリーである法月綸太郎「密閉教室」のように新本格青春ミステリとして読み解く

          太田忠司「美奈の殺人」読了

          西澤保彦「七回死んだ男」読了

          講談社ノベルス刊行。同じ日を何度も繰り返す体質を持った主人公が、同じ日同じ被害者なのに毎度異なる犯人の殺人事件に立ち向かうSF本格ミステリ。デビュー3作目にして代表作。正月に年老いた家長の家に親戚一同が集まり各々が決められた色の服を着て過ごす、という登場人物の行動と物語の展開の範囲を縛る舞台設定が実に巧妙で、同じ日が繰り返されるのに発生するイレギュラーの理由に論理的な説得力があってよかった。また殺人事件の解明だけではなく最後にもう一捻りのどんでん返しがあって、その謎を主人公で

          西澤保彦「七回死んだ男」読了

          氷川透「最後から二番めの真実」読了

          デビュー作「真っ暗な夜明け」に続いて、ロジック本格ミステリ好きのミステリマニア向けの講談社ノベルス刊行作。「真っ暗な夜明け」で論証する中で森博嗣みたいなこと言ってるなと思ったら、そのままずばり森博嗣の名前と引用が出てきて影響下にあるのは納得。マニア向けのロジック本格ミステリとは言え単なるパズル謎解きゲームには陥らず、メフィスト賞の源流・京極夏彦や森博嗣のようなペダンティックな文章とキャラ立ちした登場人物描写が巧みで長編一作に仕立て上げている、そこが作家・氷川透の魅力の一つでも

          氷川透「最後から二番めの真実」読了

          千澤のり子「シンフォニック・ロスト」読了

          女性作家ミステリーバトル2011、草食男子ミステリー。講談社ノベルス刊行。中学吹奏楽部のホルン奏者を主人公に、部活動にかける青春と恋愛、そして殺人事件をからめた人間模様が描写される青春ミステリ。二つのあるトリックが作中物語に破綻のないように計算尽くしの超絶技巧で違和感のないように掛け合わされており、結末で明かされる真相に驚愕必至。 一方で、あるトリックありきの構成のために登場人物複数人の描写が正気を逸したサイコ気味になってしまうのはこの著者の傾向としてやはり気になるところ。

          千澤のり子「シンフォニック・ロスト」読了

          氷川透「真っ暗な夜明け」読了

          第15回メフィスト賞受賞作作品。講談社ノベルス刊行。作者と同姓同名の登場人物・氷川透は、学生時代のバンドメンバーと飲み会で久々の再会を果たすが、飲み会帰りの終電間際の地下鉄駅構内でメンバーの一人が撲殺される事件に巻き込まれることになる。凶器はブロンズ像そのものではなく、その台座。また氷川透の監視もあって現場は人の出入りのない閉鎖空間が成立し容疑者は身内であるバンドメンバー内に限定され、推理で犯人に迫っていくことになる。 途中で第二の事件も起きるとは言え、奇抜でド派手な受賞作

          氷川透「真っ暗な夜明け」読了