未知の感染症に翻弄される役人と住民達を描いた『臆病な都市』



大小いかなる問題も、湖に沈めることで「解決」と言ってきた組織だ、数値とか分子配列とかは全くわからないのだ。この組織において規定される優秀な職員とは、ある理論、学説に通暁しているとか、仮設を立てて特定の問題に対して科学的な手法で解決の緒を糸口を探る能力に優れているということではなく、自身の所属する組織と、相対する複数の組織とのパワーバランスを的確に把握し、波風を立てず、また前例から外れることなく、それでいて自己の組織が持つ機能を拡張させることができる職員のことだ。言うまでもなく、ここに至るためには、まず自身の上司がそのさらに上にある上司からどう評価されているかを十分に弁えていることが大前提だ。このあたりを至当に比較衡量し、部又は課としてどう振る舞うべきか、はたまた振る舞うべきでないかを即座に決断し、その決断を共有の名のもとに責任ともども分散させる能力が、行政官に求められるものだ。

というわけで本の感想、首都で発生した謎の感染症の噂に対応しなければならなくなった役人Kを描いた話。

感染症ものというよりも最初から最後までまともに結論や解決策が出ずに翻弄される不条理ものめいている。そしてその不条理はお役所仕事そのものの構造にあるのではという描き方をしてるのがなんとも(作者は元自衛官→区役所勤務という経歴なので実体験として理不尽さを味わってるのでは?と思ったり)

最後の一文が翻弄されまくった人々の身勝手を象徴した一文で好き。

まぁ現実に起きている感染症と比べると……。ねぇ。

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