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手根管症候群について ゆっくり解説

#手、#しびれ、#痛み、#つまめない、#目が覚める

こんにちは。手外科医のシロクマです。
年間400件以上の手術を担当しながら、手の外科疾患をお持ちの患者さんにより安全・安心・安楽な手術を届けるべく奮闘中です。

今回は手根管症候群について、外来では時間的に難しい、出来るだけ噛み砕いた解説をお届けします。

手の痺れで困っている方はぜひご一読ください。


手根管症候群の症状

手根管症候群は、手のひらのしびれや痛みが出る病気です。しびれの範囲は親指から薬指の半分までです。この範囲の感覚が鈍くなることもあります。

基本的には小指にはしびれが出ません。小指が痺れる場合は肘部管症候群という病気や首の部分での神経の病気を考える必要があります。

またしびれの範囲は基本的には手のひらだけです。たまに前腕までなんとなくしびれたり痛むという方はいらっしゃいますが、二の腕にや肩まで痺れる場合はやはり首の部分での神経の病気などを考える必要があります。

痺れや痛みは夜間に強くなることが多く、これらにより特に明け方に目が覚めて困ることがあります。

また症状が進行すると親指の根本の筋肉(母指球筋といいます)が痩せてしまい、親指と人差し指でつまむ動作がしづらくなります。例えば服のボタンを閉めたり外したりがしづらくなります。

手根管症候群の原因

手根管症候群は正中神経という神経が障害される病気です。

手首の手のひら側の部分で、正中神経は骨と靭帯で囲まれた”手根管”というトンネルの中を通っています。この部位で、何らかの原因で内圧(トンネルの中の圧)が上がってしまい、神経が障害されます。

内圧が上がる原因はいろいろなものが考えられています。例えば、手首のケガや骨折、腫瘍やガングリオンなどの病変、関節リウマチ、糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、透析患者さんに起こりやすいアミロイドーシスという病気などがあります。これら特定の原因は二次性の手根管症候群と呼ばれます。

ただし、これらの明確な原因が無い方も多数いらっしゃいます。その多くは女性で、いわゆる更年期前後の方がもっとも一般的です。またご妊娠やご出産、授乳前後の患者さんも比較的多いです。

このため手根管症候群もばね指と同様に女性ホルモンの影響を受けていると考えられます。

手根管症候群の診断

上記の症状を認めた場合、手根管症候群を疑います。

しびれの範囲は、診断上非常に重要です。私は特に薬指に注目しています。薬指の中指側半分と小指側半分で触っている感覚が違う場合、かなり手根管症候群に特徴的な所見といえます。

また誘発テストといって、特定の姿勢をとるとしびれがひどくなるかどうかを確認します。具体的には両手首を曲げて、手の甲同士をあわせて胸の前でしばらく軽く押し合いをしてもらう姿勢(Phalen testといいます)をとります。この状態で1分ほどキープしてもらい、しびれが強くなるか確認します。

同様に、両手の手のひら同士をあわせて合掌のようなポーズをとってもらうと、しびれが強くなることもあります(逆Phalen test)。

また手根管部分を手のひら側から圧迫すると症状が強くなったり、この部分を軽く叩くと、指先にしびれが広がったりする場合も手根管症候群の可能性が高くなります。

これらの身体所見が陽性の場合、手根管症候群の可能性はかなり高くなります。これらのみで診断をつけても良いということになっていますが、私は念のために次に解説する検査も行っています。

神経伝導速度検査について

神経伝導速度検査は、末梢神経を刺激して、その神経のスピードを計測する検査です。

手根管症候群では先ほど解説した通り、手首の部分で正中神経という神経が障害されています。このため、神経伝導速度検査では、手首部分を通過するのに必要となる時間が増大します。

例えば小学生の50m走と考えてもらえばいいかと思います。A君は7秒で走り、B君は9秒で走った場合、A君の方が走る能力は高いと言えますよね。

神経伝導速度検査でも同様で、末梢潜時という時間が長いと神経の機能は低下していると言えます。

末梢潜時が正常値よりも長かったり、左右で明らかな差があったり、また近くを通っている尺骨神経という神経との間でかなり時間差があったりする場合などは正中神経の障害が強く疑われることになります。

(実は非常に複雑な検査なのですが、ここでは簡単に説明するためにかなり省略、簡略化しています。ご了承ください。)

手根管症候群の治療

ここからは手根管症候群の患者さんに対して整形外科・手外科で行っている治療方法について解説します。

(1)ビタミン剤などの内服

末梢神経を修復するとされているビタミンB12の内服薬を処方します。また痛みが強い方などは鎮痛剤を使用することもあります。私は一般的な消炎鎮痛剤ではなく、神経痛に特化した鎮痛剤を処方することが多いです。

これらのお薬で手根管症候群がどれだけ治るかははっきりしませんが、原因がはっきりしない(特発性といいます)手根管症候群の場合、3割ほどが自然回復するという報告もあるため、自然回復を期待してその間このような内服薬で様子を見るという作戦と考えています。

ただし、内服の治療で症状が改善しないことが多いのも事実です。数か月で症状が改善しない場合や、治療を開始する前に症状がかなり長期化している場合は他の治療方法を検討する方がよいと思います。

(2)手根管へのステロイド注射

炎症を抑える効果の高い、ステロイド注射を手根管内に打つ方法です。比較的早期に症状改善が得られるとされています。ただし、効果が出ない場合もあります。また神経の近くに針が入るため、神経自体を傷つける危険もゼロではありません。可能であれば、超音波などで神経を確認しながら注射してもらう方が安全です。

(3)手術

手術は日帰りで、部分麻酔(局所麻酔、もしくは上肢1本の麻酔)で行われることが多いです。原因や手術内容によっては全身麻酔で行う場合もあります。

手術の基本は手根管の天井(手のひら側)部分を形成する靭帯を切開して、手根管の内圧を下げることです。

靭帯を切開する方法として、3種類ほどの方法が行われています。

一つ目は手のひら側を大きく切開する方法です。神経を広い範囲で確認できるため、たとえばガングリオンがある場合や、関節リウマチなどで滑膜という組織が出来ている場合などに有効です。またこのような二次性の原因がなくても、この方法で行われる先生もいらっしゃいます。

二つ目は手のひら側で比較的小さい傷で行う方法です。一つ目の方法と同様ですが、小さい傷で行う分、手術の難易度はやや上がると考えています。

三つ目は、内視鏡を用いる方法です。傷は1か所もしくは2か所で、それぞれ比較的小さい傷で可能です。内視鏡で手根管の中を確認しながら手術を行うため、小さい傷でも神経を確認しながら手術が可能となることが多いです。

これら3種類の方法のうち、どれが最も良いということは明確にはなっていません。それぞれの方法に長所短所があります。手術を担当される先生が慣れた方法で行うのが最も重要と考えます。

手術は病気の原因を解決するという意味では最も有効な方法です。また安全性も高いと報告されています。ただし、感染や神経損傷などの合併症もゼロではありません。できればこの手術を多く行っている先生、もしくは多く行っている施設で受けられるのがよいでしょう。

日本手外科学会のホームページから、手外科専門医を検索可能ですので、手術を考えている方は一度確認されるとよいと思います。

以上、手根管症候群について解説しました。
症状でお困りの方に、少しでも有益な情報となれば幸いです。
(もしご参考になる内容がありましたら、ぜひスキマークをよろしくお願いします!)
最後までお読みいただきありがとうございました。

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