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元アニメ業界の人間が考える、良いアニメの条件。(工程別)

今私はSESの業界にほんのちょっと入ってお仕事をしております。ですが前はアニメ業界におりました。制作進行、制作デスク、設定制作などなどを担当しました。現場プロデューサーの仕事もありましたが、主に現場寄りや下請けのお仕事をさせていただきました。

今はアニメ業界と離れており、離れているから見えてくる部分もあるかと思います。当時は漠然と考えていたことも、形にできるかもしれません。

さて、いきなりですが良いアニメの条件とは何でしょうか?
一番いいのは、その作ったアニメを好きになってもらえることではないでしょうか。その世界観であったり、主人公の考え方や行動、キャラクターの魅力などが備わっているような作品は自然と良い作品になるのではないでしょうか。

もちろん、こんなことはわかりきっているよ、と思う人も多いでしょう。問題はそれをどうやって形にするかです。アニメにはいろんな工程があるので、工程別に考えてみましょう。

①シナリオがよいと良いアニメ論
シナリオが良くないといいアニメにならない、ということは実は現場では広く認識されているかと思います。最近は監督がシナリオライターを兼ねるケースもありますが、ケースバイケースですが、どうかなと思います。プロでそれなりの著名度があり、うまいシナリオライターさんの作品は人気がありますかね。(惜しくも亡くなられてしまいましたが、島田満さんなど)また大手アニメスタジオさんですと、文芸やシナリオ制作進行がいるケースもあります。そこまで大手ですと、制作からもシナリオを描く人間が出てきまして、そのまま作家になるケースもあるとかないとか。良いシナリオというのはドラマがあったり、見る人の気持ちをドキドキさせてくれるということがあるのではないかと思います。

②絵コンテ・演出がよいと良いアニメ論
シナリオが出来上がると、絵コンテを発注します。絵コンテは画面やカメラワークの設計図であり、これを見るとどんな小道具が必要なのか、どんなキャラがどこの場所で、どんな時間帯でどんな演技をするのかがわかります。アニメのキャラはノーマル色という色で塗られますが、細かい作品ですと、室内や室外で色を分けているケースもあるかもですし、夕焼けや夜ですと、確実に変わります。昔は絵コンテと演出が同じ人間が兼ねるケースが多かったそうなのですが、いまは完全に絵コンテと演出が分かれており、1話の絵コンテは監督が切るケースもあります。最近のネット配信はこのパターンが多いですね。タイミングなどは演出さんが決めるケースがあるかもしれません。絵コンテがガチガチに決まっていると、演出は何もできないということがあるとは聞いたことがありますが、意外と緊張感のあるシーンなどは演出さんや編集さんの腕の見せ所かなと思います。

③作画がよいと良いアニメ論
根強いのは作画がいいと良いといいがちです。しかし、上を見ていただければわかりますが、そもそもの原作やシナリオにドラマがあるのか、面白くてドキドキする展開になっているのか、そういうカメラワークになっているのか、というのが大事なので、私としては作画だけでよいアニメというのはちょっと難しいかなと思います。ただ大部分のアニメはシナリオ、演出は比較的クオリティが維持できるけれど、作画で崩れてしまうケースが多いので、作画が崩れることでクオリティが著しく低下することを感じるかたもいらっしゃるのでしょう。実は作画は20人から30人くらい必要なので、一人だけで済む、シナリオ、絵コンテ、演出と比べると、クオリティの管理が大変ということがあります。(なぜこれまで多くの作画マンが必要かというと、スケジュールが短いから、投入する人間を多くするからです。IT業界とかもあるあるかもしれませんね。)

③色彩設計、美術監督がよいと良いアニメ論
なかなか少数派だと思うのですが、良い色彩設計や良い美術監督さんがいると良いアニメだと思うひともいるかもしれません。間違いなくあなたは玄人です。確かに有名な色彩設計の方はいらっしゃいますし、ジブリの美術監督を務められていた方が背景画集を描くことがありますので、そこから認知が広まっていくことはあるかと思います。実は色というのはアニメにおいてめちゃくちゃ重要です。モノや背景に適切な色がないとリアリティを感じることができません。実際に絵を描く、アニメーターは色を付けません。あくまで物の形、輪郭を描くことはできますが、それ以外のことはしません。影も形は書きますが、中の影色を指定することはありません。ただ良い色彩設計を見抜くことはなかなか難しいと思います。大きな違和感がないとしたら、その色彩設計さんはプロのお仕事をされたかと思います。こちらもお1人で参加するケースが多いのでクオリティが大きく崩れることもありません。美術監督はそれに比べますとアピールがしやすいです。なぜならアニメはBGオンリーというカット(最小の画面構成単位のこと)があり背景の美しさを際立てさせることができるからです。

さて、そんなこんなで最初予定していたこととは違うかもしれませんが、各工程って本当はどれも大切なんですよね。そこがきちっとそれぞれの作業をすることで、美しかったり、面白い作品が出来上がってくるということになります。実はまだ編集とか撮影の工程があるのですが、これはまた別の機会に触れましょう。とりあえず、大きいのは、シナリオが素晴らしいか、絵コンテ、演出が素晴らしいか、作画が素晴らしいかの3点が大きいかと思います。もちろん、彼らを束ねて要所要所で判断を示していかないといけない監督が大事なのは言うまでもありません。そしてその監督がきちんと仕事をしやすい環境を作るのがプロデューサーの役割です。そうした集団作業でアニメの仕事は成り立っているのでした。

長々と書いてしまいました。見ていただきまして、誠に有難うございました。


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