ゆめのはなし
夢を見た。
みんなで、食堂にいた。
懐かしい顔を見て、少し笑った。
なぜだか、よっくんの話になった。
「アイツさあ、いまは劇団のマネージャーやってんだって」
それは、どこかばかにしているみたいな声だった。
よっくんが役者志望であることは、みんな知っていた。
わたしは、よっくんのことを思い出していた。
よっくんは、確かにこうも言っていた。
「どんな形であっても、絶対に演劇に関係のある仕事をするんだ」
それは強く、まっすぐな瞳だった。
みんなは知らないかもしれないけれど、わたしは知っている。
「よっくんは、夢を叶えたよ」
わたしは言った。
*
場面が変わったら、よっくんがいた。
黒いスーツをビシッときて、劇場の入り口に立って、バインダーを持って、怖い顔をしていた。
もうすぐ開演の時間だ。
そして、いろんなことに気遣って怖い顔になっているんだ。ということがわかった。
わたしは、よっくんに手を振った。
よっくんが、わたしをわかるかわからないけれど、強く手を振った。
そうしたらよっくんは、怖い顔をぐちゃあっと壊して、笑って手を振り返してくれた。
それは、ずいぶんと遠くの人へも届くような、思いの込められた力強さがあった。
ああやっぱり、よっくんは夢を叶えたんだと思った。
*
帰り道は、沙保ちゃんと一緒だった。
食堂にいたのは、どうやら会社の昼休憩だったという設定だったみたいで、
わたしは、表参道のオフィスに帰りたかった。
沙保ちゃんはどこへ行くか知らなかったので尋ねたら「同じほうだよ」と言っていたので、一緒に歩いた。
「春まではね、週4くらいでゆっくり働くの」と、沙保ちゃんは言った。
そういう契約になっているんだという。
「そのあいだにね、本当にやりたいことが見つかればいいなあ、と思って」
わたしもそんな感じ、と頷いた。
「でも、本当にやりたいことって難しいよね」
わたしの真摯なつぶやきに、沙保ちゃんはすうっと息を呑んだ。
そうなのだ、
もう、そのことに気づいている。
わたしは、
わたしたちは
スーツ姿のよっくんと、くしゃっとした笑顔と、強い手を思い出していた。
そして、それぞれの職場に帰っていった。
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