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ゆめのはなし

夢を見た。

みんなで、食堂にいた。
懐かしい顔を見て、少し笑った。

なぜだか、よっくんの話になった。

「アイツさあ、いまは劇団のマネージャーやってんだって」
それは、どこかばかにしているみたいな声だった。
よっくんが役者志望であることは、みんな知っていた。

わたしは、よっくんのことを思い出していた。
よっくんは、確かにこうも言っていた。

「どんな形であっても、絶対に演劇に関係のある仕事をするんだ」

それは強く、まっすぐな瞳だった。
みんなは知らないかもしれないけれど、わたしは知っている。

「よっくんは、夢を叶えたよ」
わたしは言った。

場面が変わったら、よっくんがいた。
黒いスーツをビシッときて、劇場の入り口に立って、バインダーを持って、怖い顔をしていた。
もうすぐ開演の時間だ。
そして、いろんなことに気遣って怖い顔になっているんだ。ということがわかった。

わたしは、よっくんに手を振った。
よっくんが、わたしをわかるかわからないけれど、強く手を振った。

そうしたらよっくんは、怖い顔をぐちゃあっと壊して、笑って手を振り返してくれた。
それは、ずいぶんと遠くの人へも届くような、思いの込められた力強さがあった。

ああやっぱり、よっくんは夢を叶えたんだと思った。

帰り道は、沙保ちゃんと一緒だった。
食堂にいたのは、どうやら会社の昼休憩だったという設定だったみたいで、
わたしは、表参道のオフィスに帰りたかった。

沙保ちゃんはどこへ行くか知らなかったので尋ねたら「同じほうだよ」と言っていたので、一緒に歩いた。

「春まではね、週4くらいでゆっくり働くの」と、沙保ちゃんは言った。
そういう契約になっているんだという。
「そのあいだにね、本当にやりたいことが見つかればいいなあ、と思って」
わたしもそんな感じ、と頷いた。

「でも、本当にやりたいことって難しいよね」

わたしの真摯なつぶやきに、沙保ちゃんはすうっと息を呑んだ。
そうなのだ、
もう、そのことに気づいている。

わたしは、
わたしたちは
スーツ姿のよっくんと、くしゃっとした笑顔と、強い手を思い出していた。

そして、それぞれの職場に帰っていった。




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