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アドリブ研 : "How High the Moon" (3)

 1: 曲について  
 2: Tさん(b)作例
 3: Iさん(flute)作例 ←Now
 4: Kさん(ts)作例

Index

では次。フルートIさんの作例です。

Iさん作

Fig.1a. "How high" by I take 1

うわー、これもなんかすごいですね。
前回「ギンギンにキマったArt Pepper」という表現をしましたが、今回は、さらにキメたArt Pepperでかえしてきたよ!って感じ。

大好きな太田朱美さんのCDを聴きまくって、そのイメージで鼻歌で思い浮かんだフレーズを譜面にしてみました!

Iさんコメント

正直いって、これもほとんど直すべきところはないように思います。中級者以上の方については細かい文法上のことはあまりいうべきではないと思うので、アナリゼを中心に行い、時に代案を示す、ということでいいように思う。

Aパート

Fig.2a "How high" A by I take 1 

1~2小節と3~4小節は Gmaj7とGm7にのっとって同じモチーフを変化させています。いいですね。4小節3-4拍はCオルタードでFに解決。
5小節目はFmajor7のアルペジオであがり6小節目tonicらしくペンタトニックのフレーズ。
7小節目もFm-Bb7のリック。Gまで上がったフレーズを急降下させていますが、譜面で作った不自然さがなくていいと思います。

Bパート

Fig.3a "How high" B by I take 1 

2小節目。コードフィギュアの本則で考えると三拍目表のEはEbという話なのですが、吹いてみるとEbよりEの方がしっくり来ます。メロディックマイナーの方が嫌味がないということなんでしょうか。そのまま。
4小節目は全く同じシチュエーションですが、2拍目表はEbの方がしっくり来たのでそう変更。なぜ?うまく言語化できませんでしたが三度跳躍の場合はコード本則に問題が生じないけれどもスケールで上がる場合2度音程だけどEb-F#だけ間隔が大きく、クセ強な感じになるからでしょうか。
6小節目。添付されたコードにはご丁寧にEmと書いています(黒本ではE7・iReal ProではEm7と書かれています)が、G#の音を使っています。これはE7-9とみなして吹いてるわけですが、当然OK。6-2-5と冒頭のGに回帰する部分。E7-Am7-D7のつながりを重視しE7に切り替えるのは、常套手段。というかむしろバッパーらしくてGood。ま、黒本の通り、という考え方もありますが。Em7と書いてあってもE7と吹けるということ。
(変更点は4小節目一箇所なので、譜面は省略)

Cパート

Fig.4a "How high" C by I take 1

全体に音高めのシークエンス。ソロのピークポイントでしょうか。
3-4小節目は1-2小節と同じモチーフは使わず。Aパートとは手法をかえてる。

5小節目。ここ面白いですね。
5小節目はG-F-Cでオクターブ下がり、6小節目はG-C-Dでオクターブ上がり。「ドレソ」的な4度が生きる音列です。しいてコードにすると、5小節目はCsus4、6小節目はGsus4な感じでしょうか?
四度のフレーズは60年代以降の感じがぐっとでますね。

7小節目と8小節目は同じフレーズを半音下げて続けています。
コード進行的にいうと、Fm7-Em7-(EbΔ7)という感じ。かっこいいですね。「任意のコードをドミナントに変えるのは理解できるけど、マイナーに変えてもいいの?」と思う人もいるかもしれませんが、|Fm7-Bb7|Em7-A7|EbΔ7と思えばいいでしょう。

ここは、これで全然いいんですが5~6小節目の四度のアイデアが実はDパート冒頭でも用いられていますので、このあたりをすべてを同じアイデアで引っ張ってみるのはいかがでしょうか?
Iさん作例では5-6小節目はC sus-G susです。これはこれで全然ハマってますけど、四度とさらに続くドミナントモーションの流れを考えてGsus→Csusにチェンジします。この並びの方が極性が生まれる。Csus的なG-C-Fの音はFm7のコードトーンでもあります(後述)。ここから展開させつつ四度音程のフレーズで、なおかつ三連四つどりとかそれっぽいリズムで5-6小節目を発展させて……はい、こうなりました。

Fig.4b "How high" C by I take 2

ちょっと自分のストックフレーズにはあまりないので、今ひとつ自信がありませんが……

Dパート

Fig.5a "How high" B by I take 1

1小節目のEbmaj7。Cパートの続きで四度進行を続けちゃいます。いまあるフレーズはGsus4を想定しているようです。1ウラのBはコードからいうと少しずれていますが(EbΔ7からいえば+5)このコンセプトで考えるとBのままでいきましょう。

2小節目。三連の下りるフレーズ。Gmのスケールの三度音程でトライアドを形成しています。Iさんは作例(2)Tさんとは異なり2小節目はマイナーで3小節目でメジャーに切り替えています。違和感はありませんが、四度フレーズだとそもそもメジャー・マイナーを切りかえる必要がないわけで、上記のコンセプトでもうちょっと引っ張るパターンも考えられそうです(今回は割愛)。
3小節目のリズムは2小節目の続き。僕なら三連にする。
4小節目。以前に指摘した「最初に16分が出るフレーズ…」にも見えましたが、ここは単にターンで違和感なし。
5-6小節目はDを繋留させつつ半音おりるフレーズです。コードにすればBm7-Bb7-Am11-Ab+というニュアンスでしょうが、シンプルにクリシェ的に考えていいでしょう。ソロの終わりらしい冷静な締めくくりだと思います。
(変更点は少ないのでこれも割愛)

修正後

Fig.1b "How high" by I take 2

まとめ

基本的にはカラフルでいいソロです。
めっちゃピロピロするなあとは思いますが、フルートの楽器の特性をしっかり活かしているんじゃないでしょうか?ソロの盛り上がりのポイントも明確ですし、1コーラスのなかに起伏があります。
特筆すべきは、フレージングにさまざまなアイデアが出てきますが、鼻歌でこういうのが出てることです。理論的な正しさとかではなく、あくまで聴いたり唄ったり、フィジカルに発せられるフレーズに音楽的な豊穣さがある。いい音源をしっかり聴いてジャズが腹におさまってるんだなと思います。理論で頭でっかちになるより方向性は間違っていないですよね。どんどん楽しんでジャズにのめり込んでください。

Don't Play Butter Note

Cパート5-6小節目〜Dパートの「なんとなくコンテンポラリーっぽい」と評した部分。
マイルスの "Don't Play Butter Note"という名言に関連します。
コード感を出すには3度7度の音が大事で、
そこを強調するとスウィートなサウンドになる。
しかしそれをあえて弾かないことで解釈の余地が広いサウンドになる。
60年代にそんな感じの進化がありました。
具体的に本例では、Cパート6小節目FΔ7、7小節目Fm7のところ。
ここは3度7度の音が変化し進行感がありますが、四度の G-C-FはそのButter Noteをあえて削ぎ落としたフレーズです。そのためどっちにも使える。
また、完全四度のフレーズにはTritoneが含まれません。ドミナント・モーションからもある程度自由でもあります。なので修正前のIさんの譜例のようにホリゾンタルに使ってもいいし、修正後のように4度の動きの流れに乗せてドミナントモーションに導出される流れに載せることもできる。

Maiden Voyageの四度堆積ボイシング、もしくはマッコイ・タイナー。
Freedom Jazz Danceのメロが好例ですが、四度を意識したメロディー。
これらの感じが四度のサウンドの好例といえるでしょう。

作例(2)で散々述べたBopフレーズの「重力」と「解決点」からは完全に解き放たれたサウンドで、生粋のバップ好きの私はこの辺のコンテンポラリーサウンドはあまり得意ではありません。
(聴くのはかなり好きなんですけど)

おまけ:音源

iPad Notionの機械音源と iReal Proのバックトラックを組み合わせました。
あと、Notionの生データも入れています。in Bb, in Ebの方々は適宜転調なさって使ってください。

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