見出し画像

「トーナル」から「コーダルへ」

少し前に「トーナル→コーダル→モーダル」という項を書きました。

トーナルからコーダル→モーダルへ

こうした歴史は一旦脇においてすべての曲をフラットに取り扱い、現在の我々は演奏するわけですが、ここでは「トーナル」が基調のシンプルな音楽からモード直前の「コーダル」までの範囲の曲を考えてみることにします。

アベイラブル・ノート・スケール

「CイオニアンとDドリアンは Key in Cのドレミファソラシドなんでしょ?
 これって一緒じゃないの?」

と思ったことがある人は沢山いるはず。
その考え方はある意味正しい。
この「イドフリミエロ」の「XXXアン」というチャーチ・モードを、すべてメジャーもしくはマイナー・スケールに置き換えて理解するやり方。
これが、言ってみれば「トーナル」思考そのものなんです。

もちろん微妙な色彩の違いやニュアンスを表現し共有するには、アベイラブル・ノート・スケール概念は、やはり優れています。
バークリーでこれをみっちりやるのはそれだけの理由がある。
ただ、チャーチ・モードを身体化するのはかなりしんどい修練が必要。

これは個人的な見解ですが、フロント楽器はシンプルにDドリアン=Cメジャー、Eフリジアン=Cメジャーなどと、調性で把握する方が近道です。
アドリブでも「Fのドレミ」「Bbのドレミ」みたいに、エリアごとに調性=トーナルで大きく捉えることをおすすめします。
それができてからアベイラブル・ノート・スケールに挑んでも遅くはありません。

大丈夫、市井にいるアマチュアジャムおじさんの大半はこのレベルです。

ちなみに、ギターやピアノに関してはいきなりアベイラブル・ノート・スケールを基盤に学習するも、妥当だと思う。でも吹く楽器、フロントはまずドレミをしっかり歌える段階を終えてからアベイラブル・ノート・スケールに進む方ことをおすすめします。

トーナルからはみ出たコードをつけくわえていく

一曲の間、同じ調性一本やりで続く曲は、シンプルです。
が、多くのジャズの曲はそういう風にできていません。モダン・ジャズのコード進行は、そこそこ複雑なんです。なぜなら複雑コード進行の方が、一旦理解すればアドリブしやすいから。
なので、「1つのトーナル=単純な調性」を出発点とし、トーナルを拡張するコード、調性外のコード進行を付け加えてゆく。
さらに、調性の複線化を考える。こう考えると混乱が少ない。

上達のステップというか、どんな順番で曲をこなしていくか、
学習の例をあげてみました。
Stepごとに例示した曲で言わんとすることがわかるのではないかと思います(あくまで一例で、この順番じゃないといけないわけではないですよ)。

Step 1:単一調性の曲

まずは調性が一つで、シンプルな曲から手掛けてみてください。

Blues、When the Saint's Go Marchin' in
Mack The Knife、Work Song  とか。

一つのスケールでアドリブする練習。
・ブルーノートスケール一発
・ペンタトニック
・メジャー・スケール(もしくはマイナー・スケール)

Step 2:平行調メジャー・マイナー

マイナー・メジャー混在の曲を題材に。
The Autumn Leaves、Beautiful Love、Softly, as a morning Sunrise
Summertime、Fly Me to the Moonなど。
メジャー・マイナー も読んでみてください。
バップのマインドマップで示した「ダイヤグラム」も参考に。

Key in C/Amのダイヤグラム(簡単版)

Step 3:ダイアトニック・コードおよび準じた重要なコード

歌物基本形の曲、もしくはAABA進行のAの部分。
この部分は調性一発であることが多い。
All of Me、Another You、It Could Happen to Youなど
・3/7段目:Sub Dominant Minor(SD→SDM)進行
・4段目、8段目のフレージング
・1-2段目は割とバラエティに富んでおり、また転調も多く案外難しい
・2-5-1、3-6-2-5進行
バップのマインドマップで示した「ダイヤグラム」その2ですね。

Key in C/Amのダイヤグラム(その2)

ある調性に対し、このダイヤグラムがすっと想起でき、対応するフレーズを吹ける。これを第一目標にしてください。

注釈:マイナー2-5をIIm7のフラットファイブに指定してますが、ここはホントは-5とは限らない。ただ初学の段階ではベタベタなハーモニック・マイナーに固定して覚えた方が混乱が少ないと考えます。ハーモニックマイナー一辺倒だとエモさありますが、やや古臭い感でますけどね。

Step 4: ノン・ダイアトニックの様々なパターン

それ以外のコードケーデンス、例えば
・Secondary Dominant
・クリシェのパターン、
・Passing Diminished Chord ・Tonic Diminish
などのパーツを理解しましょう。
こういったコード進行でどうフレージングをするか。

この辺ができれば、
モード前夜の曲のほとんどに対応する下準備が整ったと思います。
曲:
But Not For Me、If I were a bell、My Funny Valentine など

Step 5: 調性の複線化

Step 4は小節単位での調性を逸脱するコードの処理の話でした。
Step 5として、曲の構造を大きくとらえて転調している部分を理解しましょう。
まずは同主調メジャー・マイナーで展開される曲をとりあげてみましょう。
On Green Dolphin Street(EbとEbm=Gb)
I Love You(FとFm)、I'll Remember April(GとGm=Bb)
One Tonal からTwo Tonalに、踏み出してゆくわけです。

Step 6: Bridges

Step 5では、同主調の二つの調性を含む曲をとりあげました。
しかし、一つの調性に留まらない流れてゆく部分があります。
「ブリッジ」という言い方をしますがAABAのBの部分です。
Aメロの静に対してBメロの動という対比を理解しましょう。
I Got Rhythm(Rhythm Changes)、Satin Doll がその代表でしょうか。

My One and Only Love、Over The RainbowなどのバラードのBメロも同様に、調性の動く部分です。

さらに応用編として、このBridgeも複雑なものがあります。
S' Wonderful、I Concentrate on You、IpanemaなどもBridgeの勉強としては最適だと思う。
これを踏まえてから、歌物基本形の前半1-2段目に戻ると、すんなり理解できるかもしれません。

Step 7: 総合問題

同主調ではない2つ以上の調性で構成される曲、
または細かな転調が頻繁に出現する曲。

Tea for Two、Come Rain or Come Shine など。
How High the Moon、Tune Up、Ya Gotta Try (ドミナント構造による転調が特徴的)
All the Things You Are、Ipanema、
Stablemates、Moment's Notice、Joy Spring、Body and Soul など

ま、このへんは、総合応用問題、という感じでしょうか。この辺りの曲が「コーダル」のある種の到達点ではないかと思います。

モード以降

モード以降のジャズは「コーダル」の制約が大幅に取り払われた状態。
60年代以降も活躍している作曲者、Herbie Hancock、Chick Corea、Wayne Shorter、Bill Evansの曲などを真剣に咀嚼する場合、やはりアベイラブル・ノート・スケールの概念に取り組まざるをえないと思う。

セッションででてくる曲:
Dolphin Dance、Bud Powell でしょうか。

まとめ

  • 現在主流のアベイラブル・ノート・スケールによる方法論では、トーナリティ(調性)をそこまで重視しません(スケールを提示することで調性も示されるとも言えます)。

  • 楽曲の構造を理解するために、調性(トーナル)の構造を分析すると理解しやすくなると思います。

  • 簡単な調性から複雑な調性にむけてトレーニングをした方が混乱が少ないかもしれません。

よろしければサポートお願いいたします!サポート頂いたものについては公開して、使途はみんなで決めたいと思います。