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小説「OJTポリス」(警察学校編04)

 英梨警部補は、警視庁警察学校に教官として赴任して2年目。これまでに「英梨学級」を2回経験している担任教官としては駆け出しの部類である。その英梨が警察学校時代の同期生である南野に打ち明けた事件とは。

 現在英梨が担当している学級内である問題が発生した。その問題とは「警察手帳紛失事件」である。

 前回の警察学校編03でもご説明したとおり、警察官には「三種の神器」と呼ばれる命の次に大切な貸与品がある。それは

   警察手帳、手錠、けん銃

である。これらにはそれぞれ固有番号が付されており、警察学校に入校した初任科生がまず真っ先に覚えさせられるのがこの警察手帳番号、手錠番号、けん銃番号なのである。警察には点検教練という科目というか術科があって、給与品貸与品の物品チェックをある一定の儀式にも似た方式で行う。全員が三列横隊に整列して、指揮官の号令のもと一定間隔にて直立不動の姿勢をとった後

 手帳、警棒、手錠、警笛、けん銃

の順番で指揮官の号令に従いそれぞれの給与品、貸与品を一つ一つ呈示して点検してもらうのだ。このうち固有番号が入っている手帳、手錠、けん銃は点検時に無作為に「手帳番号!」と指示されたら自身の手帳番号を大声で叫ぶしきたりになっている。警察学校入校当初は、なかなか動作も揃わないが部隊としての「練度」が上がってくると、これが中々見応えあるから不思議である。

 ここで読者の皆様方は、「これらの三種の神器は普段どこに置いているのか」という疑問を抱かれるかもしれないので通常これらはどこに保管されているのかをご説明しよう。※ ただし、これは警察学校入校時のみであり卒業して第一線に配置になったら「個人責任で保管」することとなるので誤解なき様。

 警棒と手錠は鍵のかかる自室のロッカー内に各自保管。手帳とけん銃は三種の神器の中でも特に重要性が高く、紛失してしまうと全国手配をかけてでも見つけ出さねばならない代物なので、通常は警察学校内の「金庫」に保管しており、点検教練の授業時には金庫前に全員が整列して一つ一つを確認しながら手渡し、授業終了後には再び金庫に格納するという極めてアナログ的保管方式を採用している。

 そして事件は起こった。。。

 英梨警部補(教官)の教場(クラス)で、某男性警察官の警察手帳が紛失したのである。前述したとおり、警察手帳がなくなればたとえそれが警察学校の初任科生であっても全国手配せねばならないという、内部的には極めて重要度の高い非違事案として扱われる。英梨が暗い表情なのも頷ける。教官としての責任を追及されるし、せっかく掴んだ警察学校教官というエリートコースから脱落することになるからである。

 英梨は、この事件が発生してからというもの最近十分に睡眠をとっていないせいなのか目の下に「クマ」ができており肌も荒れ放題といった感じであった。

 南野は、英梨の様子を見てこう明言した。

 「よっしゃ、俺でできることなら何でも協力するぜ英梨。ちょうど刑事任用専科は長期戦だし捜査するには十分だ。俺に任せな。You are in good hands!」

 因みに You are  in Good hands.は南野がアメリカ大使館員でFBI出身者の友人から教わった口癖である.

 (つづく)

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